社会保険労務士法人長谷川社労士事務所

医師の負担を軽減!『タスクシフティング』を進めるには

22.10.04
業種別【医業】
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医療業界で常態化している過重労働を背景に、医師の働き方改革が進められています。
2024年4月に施行される『改正医療法』では、医師に対して、新たな時間外労働の上限規制が適用される見込みです。
そして、医師の働き方改革を推進していくなかで大きな注目を集めているのが『タスクシフティング』です。
タスクシフティングとは、これまで医師が請け負っていた業務の一部を、看護師や薬剤師など、医師以外の医療従事者に移管する取り組みを指します。
医師の負担を軽減させるためのタスクシフティングについて解説します。
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医師の過重労働の現状と働き方改革の重要性

これまで、人手不足や多職種との連携不足、応召義務や救急対応といった職務の特殊性を要因とする医師の過重労働は長年問題視されてきました。
特に20~30代の若い医師を中心に、他業種と比べても長時間労働が常態化している現状があります。
2019年に厚生労働省が行った実態調査によると、1週間の労働時間が60時間を超えた割合は、病院・常勤勤務医では、男性医師が41%、女性医師が28%にもなることがわかりました。
日本では、医師の過重労働をなくし、患者に対して適切な医療を効率的に提供することを目的として、医師の働き方改革が進められてきました。
2024年4月からは、『改正医療法』に基づき、医師に対する時間外労働の上限規制の適用が開始されます。
すべての勤務医は、原則として年間960時間以下、救急医療を担う医療機関や研修医などは原則として年間1,860時間以下と定められました。

この上限規制に先駆け、医療機関においてはタスクシフティングを導入する動きが広まっています。
医師に業務が集中しないように、医師以外の医療従事者に業務を移管するタスクシフティングは、医師のハードワークを軽減するための取り組みとして、注目を集めています。

医師以外の医療従事者を『コメディカル』と呼び、タスクシフティングでは、看護師や薬剤師、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、救急救命士、作業療法士などのコメディカルに医師の業務を移管していくことになります

2019年に行われた『医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会』では、医師の6分野、286業務に関して、現行制度上の実施の可否が議論されました。
その結果、2021年10月からは、診療放射線技師・臨床検査技師・臨床工学技士・救急救命士の4職種について、業務範囲の拡大が行われています。


タスクシフティングの可能性と実現に向けた注意点

各コメディカルの業務範囲を拡大していくことは、タスクシフティングの重要なポイントでもあり、医師の負担を減らすと同時に、業務の効率化や患者への迅速な対応も可能にします。

たとえば、高度かつ専門的な知識を必要としない薬剤の投与や採血・検査などは、事前に医師と看護師との間でプロトコールを決めておくことで、看護師が実施することができます。
プロトコールとは、医師によって、予測可能な範囲における対応の手順をまとめたもので、看護師はプロトコールに沿うことで、適切な医療行為を行うことができます

このように、各コメディカルにある程度権限を譲渡し、柔軟に動いてもらうことで、業務の効率化に寄与し、患者を待たせずに済むことにもなります。

一方で、医師側は各コメディカルへの負担も考えなければいけません
2015年に『特定行為に関わる看護師の研修制度』が創設され、特定行為研修を修了した看護師は、人工呼吸管理や経口用気管チューブの位置調整、胸腔ドレーンの抜去など、38行為21区分の特定行為が行えるようになりました。
今後もタスクシフティングによって、さらに看護師への業務の移管は増えていくことが予想されます。
また、ほかのコメディカルについても、患者対応や対人のやり取りが増えるため、過度な負担にならないよう、現場での業務量の調整が必要になってきます。

医師はこれまで以上に多職種の職域を理解した上で、チームとして連携し、動いていくことが大切です。
コメディカルが受け持つ職域を把握せず、業務を移管することはできません。

タスクシフティングを実現するには、医療現場のトップが医師の過重労働に対する問題意識を持ち、計画的に組織マネジメントを行っていくことが重要です。


※本記事の記載内容は、2022年10月現在の法令・情報等に基づいています。