社会保険労務士法人長谷川社労士事務所

遺言による株式の承継と遺留分について

21.06.01
業種別【不動産業(相続)】
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事業を承継するにあたって、株式の相続は重要な問題です。
特に家族経営の会社で、何の対策も取られていないままオーナー経営者が亡くなった場合、株式が遺産分割の対象となり、経営に支障をきたしてしまうケースもあります。
そこで今回は、株式の相続についての問題点と、遺言によるリスク軽減の方法について紹介します。
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株式の相続における問題点とは

たとえば、親族経営の会社のオーナー社長が自社株式を100%保有した状態で亡くなり、相続人が、長男、次男および長女の3人であったとします。

遺言がなかった場合、当該株式は、遺産分割が成立するまで相続人の『準共有』という状態になります。
具体的には、すべての株式を、長男、次男および長女が各3分の1の法定相続分割合で保有することになります。

そして、その準共有状態の株式の権利行使については、権利行使を行う代表者1名を選んで会社に通知をしなければなりません
つまりこの例においては、誰も単独では過半数に及んでいないので、全員の意見を調整できなければ、経営に関する意思決定ができなくなる場合があるのです。

このような事態が想定されるため、親族経営の会社の株式については、後継者に株式が集中するように、あらかじめ対策をとっておく必要があります。
その方法として、もっともわかりやすいのが、遺言により株式を承継する相続人を指定することです。

しかし、民法には『遺留分』という制度があり、各相続人には遺産について、法定相続分の2分の1に相当する金額を取得する権利が最低限保証されています。
そのため、遺言や生前贈与によって遺産を多く得た相続人は、請求を受けた場合、ほかの相続人の遺留分に満たない部分を補填する金額を支払わなければなりません。

遺産に株式が絡む場合、会社の経営が良好で株式の価値が高ければ、遺留分を侵害する可能性が高いといえます。
オーナー社長の個人財産(不動産など)を事業に提供していたような場合で、これも後継者に相続させたようなときには、遺留分を侵害する可能性はさらに高くなります。

早めに対策をとるべく遺言を残そうとしても、株式(もしくは事業に必要な財産)を全て後継者に相続させるような遺言を作成すると、将来的には多額の金銭をほかの相続人に支払わなければならないリスクが生じてしまいます。
また、引き継がせる財産に金融資産が乏しいと、後継者が思うように支払いができず、ほかの資産を売却するしかなくなってしまうという事態も起こりえます。


遺留分の特例を受けるための二つの合意方法

そのような事態を避けるためには、遺言を作成する際に、遺留分の問題が生じないように引き継がせる財産の配分等を計算し、バランスを取ることが重要です。

また、中小企業の事業承継を総合的に支援する『中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)』の特例を受けるのも一つの手といえます。

経営承継円滑化法には、主に中小企業に対して円滑な経営承継を支援するために、『事業承継資金等を確保するための金融支援』や『事業承継に伴う税負担の軽減(事業承継税制)の前提となる認定』、『遺留分に関する民法の特例』が盛り込まれています。

このなかの遺留分に関する民法の特例において、現経営者から後継者に対して贈与等された自社株式について、推定相続人全員の合意その他の要件を満たすことで特例の適用を受けられます。
特例の具体的な内容については、以下の二つになります。

●遺留分の算定基礎財産から除外する(除外合意)
後継者が先代経営者から贈与等によって取得した自社株式・事業用資産の価額について、ほかの相続人は遺留分の主張ができなくなります。
相続紛争のリスクを抑えつつ、後継者に対して集中的に株式を承継させることが可能です。

●遺留分算定基礎財産に算入する価額を合意時点の時価に固定する(固定合意)
自社株式の価額が上昇しても遺留分の額に影響しないことから、後継者の経営努力により株式価値が増加しても、相続時に想定外の遺留分の主張を受けることがなくなります。

民法特例を利用するには、会社の経営の承継の場合と個人事業の経営の承継の場合の、それぞれの要件を満たしたうえで、『推定相続人全員及び後継者の合意』を得て、『経済産業大臣の確認』および『家庭裁判所の許可』を受けることが必要です。

会社株式が絡む相続については、こういった観点を踏まえながら、遺言の内容やそのほかの取りうる手段があるかどうかといったことをよく検討して、早めの対策を行っていきましょう。


※本記事の記載内容は、2021年6月現在の法令・情報等に基づいています。