社会保険労務士法人長谷川社労士事務所

オンコール勤務の報酬設定はどうすればよい?

20.08.03
業種別【医業】
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患者の容態急変などの緊急時に備え、医療者に携帯電話を貸与し、いつでも緊急出勤ができるように備えさせるという、いわゆる『オンコール(緊急呼出)制度』は、多くの医療機関で取り入れられています。
一方で、オンコールは医療機関によって入電や呼び出しの頻度が異なるため、その報酬基準はさまざまです。
そこで今回は、労務の観点からオンコール制度について考えてみましょう。
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オンコール待機中は労働時間に含まれるか

医療者に対し、緊急出勤に備えさせるオンコール制度は、労務管理上の扱いが難しいです。
なぜなら、労働基準法ではオンコール制度についての明確な規定がないからです。

最高裁の判例などからは、一般的にオンコール待機中は『労働時間ではない』とされています。
労働時間は使用者の『指揮監督下』にある時間なので、自宅などで自由に過ごしてよい待機時間は、原則的に労働時間とは見なされないのです。
とはいえ、待機中はいつ呼び出されるかわからないので、遊びや旅行に出かけたりすることはできず、行動範囲が拘束されます。
『労働から完全に解放されて自由が保障されている状態』とは定義されません。
そのため、オンコール待機中は労働時間には含まないものの、相応の手当を支給することで従業員の負担に代えるのが一般的です。

また、拘束の度合いや呼び出しの頻度によっては、労働時間とみなされる可能性もあります。

有給休暇などの休暇中のオンコールであれば、あくまで、『本人の同意に基づいて出勤してもらう』という形になります。
もし出勤した場合は有休を消化したことになりませんから、たとえ半日は休めていたとしても、別日に消化できなかった1日分を与える必要があります。

参考までに、労働基準監督署長から許可を得た『宿直勤務』についても見てみましょう。
宿直勤務は、法定労働時間外の勤務のことであり、労働基準法の労働時間や休憩、休日、深夜の規程は適用されません
そのため、自宅でのオンコール待機中と同様、労働時間としてはカウントされません。
ただし、労働基準監督署長から許可を得るには、以下の要件を満たすことが必要です。
(1)通常の労働ではなく、ほとんど労働する必要がないこと
(2)宿直手当を支給すること(1日平均賃金の3分の1以上の手当)
(3)1週間に1回を限度とすること
(4)仮眠室を整備すること

これを参考とするなら、オンコールも『週1回』までを目安とし、負担が一部のスタッフに集中しないよう工夫したり、オンコール担当が有休を取得しやすくしたりするなど、精神・身体面での負担軽減の配慮があるとよいと考えられます。


オンコール制度における報酬基準

オンコール制度における報酬基準は、実は明確には決まっていません。
『オンコール担当としての待機時間に対する手当』『電話1件を受けることに対しての手当』『実際に呼び出しに応じて訪問する手当』と、内容ごとに手当報酬を定義する場合が多いようです。

では、実際にオンコール手当は一般的にいくらかというと、たとえば介護施設や訪問看護ステーションなど看護師主体の現場では、看護師に対して1回(一晩)1,000~4,000円あたりが相場とされています。
呼び出しが生じた際は、実費は別で、訪問1回につき2,500~5,000円など幅があります。

医療機関も、ファーストコールを看護師が担う場合は、上記相場に準ずることが多いようです。
ただし、看護師は医師と連携して対応することになるので、呼び出しに応じる際の実働の手当報酬などは、医療機関によってさまざまです。

“オンコール担当の医師・看護師が現場に駆け付けられる体制が整っているか”は、患者やその家族との信頼に大きくかかわります。
一方で、負担が大きいと感じるスタッフも多くいます。
患者にとって嬉しいことでも、スタッフ側の事情も考慮しなければ、人材を失うことにもなりかねません。

以上のことを踏まえ、スタッフの意見や希望も取り入れて、十分な体制を整備したうえで手当報酬を支給するのが望ましいといえるでしょう。


※本記事の記載内容は、2020年8月現在の法令・情報等に基づいています。