社会保険労務士法人長谷川社労士事務所

『ダイバーシティ』に対応! 多様性のある『就業規則』を作るには

24.03.26
ビジネス【労働法】
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常時10人以上の労働者を使用している事業場では、労働基準法に基づき、賃金や労働時間などについて定めた『就業規則』を作成することが義務づけられています。
就業規則は法令の改正や社会の状況、時代の変化などに合わせて見直すものですが、創業時に作成した就業規則をそのまま使用している場合は、不測の事態をもたらすリスクが懸念されます。
働き方や人材が多様化する現在においては、昔のままの就業規則が従業員の意識との乖離を起こし、さまざまな問題を引き起こすきっかけにもなりかねません。
多様性のある就業規則の作り方について解説します。
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就業規則を見直していない企業は要注意

『ダイバーシティ(Diversity)』とは、人種や性別、障害の有無、嗜好や価値観などによる『違い』を受け入れて尊重することを意味し、日本では『多様性』とも訳されます。

少子高齢化や労働者人口の減少が進む日本では、採用や組織づくりなどの面から注目が集まり、2000年代頃から急速に進んだグローバル化により、ダイバーシティ・マネジメントを取り入れた経営を行う企業が増えてきました。
人種や性別などを限定しない多様な人材の採用は、企業にとって労働力を確保できるほか、生産性の向上やイメージアップなどのメリットもあります。
しかし、採用の現場では当たり前になりつつあるダイバーシティですが、組織の内部においては、多様化に対応できていないケースがまだまだ見受けられます。
その一つが、『就業規則』です。

就業規則は労働条件と職場でのルールを記したもので、企業と従業員の双方が定められた就業規則を守ることによって、従業員は安心して組織で働くことができます。
常に就業規則を見直し、時代の変化に合わせて刷新している企業がある一方で、就業規則の見直しを行なっていない企業もあるようです。
採用の現場と同様に、ダイバーシティに沿った就業規則がこれからの時代には必須となり、対応できていない企業は、解釈の違いにより思わぬ労使トラブルを招いてしまう可能性もあるでしょう。

働き方の多様化に対応するために

就業規則を見直す際に考えたいのが、従業員の区分です。
近年は働き方自体の多様化によって、あえて正社員としての就労を希望しない人も増えてきました。

たとえば、これまで正社員だけを雇用していた会社であれば、正社員に対する就業規則だけを定めておけば問題はありませんでした。
しかし、契約社員やパート・アルバイトを雇用する場合は、注意が必要です。
従業員の区分は法的な定義があるわけではないため、契約社員やパート・アルバイトなどを雇用した際に適用範囲が明確でない場合は、既存の正社員向けの就業規則が適用されてしまう可能性があります。
もし、正社員以外を雇用するのであれば、会社として契約社員やパート・アルバイトなどを含めた従業員区分の定義を定め、その定義に従い就業規則の適用範囲を決めましょう。

また、今は正社員であっても、結婚や出産、育児や介護などによって、将来的にはフルタイムでの勤務がむずかしくなる従業員がいるかもしれません。
さまざまな状況を想定しながら、多様な働き方ができるように、従業員の区分を明確にしましょう。
裁量労働制や変形労働時間制、フレックスタイム制などについても、規定を盛り込んでおくことをおすすめします。

多様な性を受け入れるために

また、ダイバーシティに対応した就業規則を作成するには、LGBTQ(※)への配慮も必要です。
LGBTQなどの多様な性の受け入れは、ダイバーシティを推奨する企業にとっては欠かすことのできない取り組みの一つです。
※LGBTQ(エルジービーティーキュー)…Lesbian(レズビアン=女性同性愛者)、Gay(ゲイ=男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル=両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー=心と体の性別が異なる人)、Queer/Questioning(クィア/クエスチョニング=性的指向・性自認が定まらない人)の頭文字をとった言葉で、性的マイノリティを表す総称の一つ

慶弔休暇を例にすると、企業には、法律で定められた法定休暇以外に、福利厚生として会社独自の法定外休暇を定めることがあります。
法定外休暇のうち、従業員が結婚して慶弔休暇を取得する際にも配偶者の範囲について、就業規則をLGBTQに対応したものに見直しておきましょう。
たとえば、配偶者の定義を法律婚や事実婚に限らず、同性パートナーも含めて「法律婚を問わず一定の行政手続を経た者」とすることで、従業員はパートナーが異性・同性を問わず、法律婚のケースと同様に慶弔休暇を取得することができます。

また、同様に医療費の補助や手当の支給要件などに関する配偶者の範囲についても、見直しをしておく必要があります。
ただし、制度を適用する際には、対象の範囲があいまいにならないように、「事実上の婚姻関係」にあることを証明してもらうことも重要です。
同性カップルであれば、自治体が交付している同性パートナーシップ証明書や、同居を証明する住民票などを提出してもらうようにしましょう。

就業規則を見直し、変更するには、過半数の従業員が加入する労働組合、または労働者の過半数を代表する者からの意見書を添付し、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。
また、変更した場合は、事業所の見やすい場所に掲示するなど、従業員への周知も忘れずに行いましょう。

労務トラブルは時代や社会の背景に合わせて内容が変化していきます。多様な働き方や、ダイバーシティを受け入れる現代社会に合わせた就業規則になるように、専門家にも相談しながら今一度自社の就業規則の見直しを行いましょう。


※本記事の記載内容は、2024年3月現在の法令・情報等に基づいています。