社会保険労務士法人長谷川社労士事務所

雇用保険料の1.55%への引き上げで労使の負担はどうなる?

23.03.06
ビジネス【労働法】
dummy
雇用保険料率の引き下げに関する特例措置が終了し、2023年4月から雇用保険料率が1.35%から1.55%に引き上げられることが決定しました。
それに伴い、労使ともに負担が増え、企業と労働者の双方に影響が出ることが懸念されています。
今回は、雇用保険料率引き上げにともなって増加する労使の保険料負担や、引き上げによる影響についての解説を行います。
dummy
企業側負担0.95%、労働者側0.6%へ

雇用保険とは、労働者が失業した場合や、雇用継続が困難となる事情が生じた場合に、必要な保険給付を行う公的な保険制度です。
代表的な保険給付として、失業した場合に支給される基本手当(失業手当)があげられ、労働者の教育訓練に関する給付も行っています。

雇用保険は、労使双方が負担する保険料と国費による負担を財源としています。
2023年3月までは、特例として雇用保険料率のうち失業等給付にかかる部分が引き下げられており、これによって保険料は本来の1.55%ではなく1.35%となっていました。

しかし、コロナ禍による雇用調整助成金利用の増大から、雇用保険財政はひっ迫しました。
雇用保険財政安定化のために、保険料率の引き上げが必要となったことが今回の特例措置終了の背景です。

雇用保険料率は、毎年見直されており、2022年にも4月と10月の2回にわたり保険料率が引き上げられています。
2022年に続き、2023年にも保険料負担が増えることになるため、数年に渡るコロナ禍によって体力が落ちている企業にとっては、追い打ちともいえる状況かもしれません。


雇用保険料が引き上げられるとどうなる?

雇用保険料は、労使双方が負担していますが、3つの負担区分のうち労働者が負担しているのは失業等給付と育児休業給付の部分のみで負担割合は折半ではありません。
引き上げ前における一般の事業であれば、労働者負担分が0.5%、事業主負担分が0.85%(0.5%+0.35%)となっており、事業主の方が多く負担しています。
今回の引き上げでは、労働者負担分と事業主負担分の双方が0.1%ずつ引き上げられることになりました。

具体的な保険料負担を計算すると、月給が30万円の場合には、引き上げ前で月額4,050円(労働者負担分1,500円、事業主負担分2,550円)の負担となっていました。
これが引き上げによって、4,650円(労働者負担分1,800円、事業主負担分2,850円)となります。

一人当たりの金額としてみれば、わずかな額と思うかも知れません。
しかし、保険料は毎月かかるものであり、多数の労働者を抱える企業であれば、大きな負担となります。

また、今回の引き上げは、労使双方にとっての引き上げであり、対象となる業種も限定されません。
そのため、一般の事業だけでなく、農林水産業・清酒製造業や建設業など一般の事業より高い保険料率が設定されている業種も等しく負担増となります。


賃金以外で『働きやすさ』を見出す

今回の保険料引き上げは、労働者にとっては、納得するのはむずかしいかもしれません。
保険料率が上がっても保険給付の内容は変わらないため、仮に賃上げがあっても、保険料負担で相殺されてしまうからです。
また、現在の日本では、労働力人口の減少が続いており、労働力の不足を外国人材の受け入れ拡大などで対応しているのが現状です。
このような状況下において、保険財政安定化という理由はあるにせよ、負担増はモチベーションの低下にもつながりかねません。

そのため企業が、貴重な労働者をつなぎとめるためには、賃金はもちろんのこと、それ以外の働くメリットをアピールすることが大切になります。

たとえば、自由に利用できるカフェラウンジの設置や、社員食堂で提供される食事の改善といった福利厚生の充実を図ることもよいでしょう。
また、フレックスタイム制の導入による柔軟な働き方の実現、年次有給休暇をはじめとする休暇を取得しやすい雇用環境整備、透明性の高い評価制度や教育・キャリアアップ施策の拡充など、労働者にとって働きやすく、魅力ある組織づくりを進めていくことが重要です。

労働者にとって魅力的な企業であれば、離職を防げるだけでなく、優秀な人材を集めることにもつながります。
今回の保険料率引き上げを単なる負担増としてとらえずに、自社の雇用環境改善のきっかけとして捉えてみてはいかがでしょうか。


※本記事の記載内容は、2023年3月現在の法令・情報等に基づいています。