社会保険労務士法人長谷川社労士事務所

トラブルを避けるためにも! 労働条件通知書を作成する際の注意点

23.02.20
ビジネス【労働法】
dummy
労働基準法では、企業は従業員と労働契約を締結するにあたって労働条件を明示しなければならないと定められています。
明示すべき項目も定められているほか、就業時間や就業場所などの重要項目は、書面での明示が義務づけられています。
これらの条件は、一般に『労働条件通知書』『労働条件明示書』『雇用契約書』などによって明示されます。
これは正社員だけではなく、契約社員やパートなど、すべての従業員に交付する必要があります。
今回は、従業員の採用時に必要となる労働条件通知書について解説します。
dummy
労働条件通知書に記載するべき項目

厚生労働省は従業員の権利を守り、労使トラブルを防ぐため、企業が従業員と労働契約を締結する際に、明示すべき労働条件について定めています。
判例では採用通知や内定通知の発行、応募者からの承諾書や誓約書が提出されていれば、労働契約が成立したとみなされており、採用通知の発行を含めた一連の採用時の手続きのなかで、労働条件通知書を交付するのが一般的です。
既述の通り、労働条件通知書はすべての従業員に対して交付することが義務づけられており、交付していない場合は労働基準法違反となり、30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。

採用時に明示すべき内容は以下の項目です。

(1)労働契約の期間に関する事項
 (1-2)期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
 (1-3)就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
(2)始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
(3)賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
(4)退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
 (4-2)退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
(5)臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第八条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項
(6)労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
(7)安全及び衛生に関する事項
(8)職業訓練に関する事項
(9)災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
(10)表彰及び制裁に関する事項
(11)休職に関する事項

※(3)のうち、昇給に関する事項は書面にて必ず明示しなければならない事項からは除外されています。

このうち(1)~(4-2)については書面での明示が義務づけられています。
(5)から(11)については、自社の就業規則などで定められている場合には、雇い入れる従業員への明示が義務づけられています。
なお(5)から(11)は、書面での明示が義務づけられているわけではありません。
しかし、後のトラブルを避けるためにも、労働条件通知書などの書面で明示しておくほうがよいでしょう。


パートタイムなどの雇用時に明示が必要な労働条件

パートタイム従業員やアルバイトは正社員と待遇が異なる可能性があることから、雇用時に、以下の4つの項目を追加する必要があります。
これらの記載がない場合は法令違反となり、10万円以下の罰金が科される可能性があります。

(1)昇給の有無
(2)退職手当の有無
(3)賞与の有無
(4)短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口

なお、労働基準法では、「明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる」とされています。
また、従業員が就業のために住居を変更しており、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合、使用者は必要な旅費などを負担する必要があります。

以上のように、労働契約締結時に明示が求められる労働条件は多岐にわたります。
なかには、一部を就業規則に定めているケースもあるでしょう。
その場合は、労働条件通知書の交付の際、通知書に補足する形で、該当する就業規則の条項を記載し、就業規則の説明や交付によって書面明示に代えることもできます。

労働条件通知書は、従業員が希望した場合は、FAXやメールなどでも交付することができます。
その際は、プリントアウトするなどして書面として残せるものである必要があります。
労働条件通知書に決まった形式はありませんが、厚生労働省ホームページではひな形を公開しているので、参考にしましょう。

また、労働基準法第109条では、使用者に対して雇用条件通知書の保管義務を課しています。
雇入決定関係書類、契約書、履歴書なども保管義務があり、これらの書類とともに5年間は保管しておく必要があります。

従業員の採用にあたってはさまざまな手続きが必要です。
なかでも労働条件について合意することは、従業員のモチベーションにもかかわる重要事項です。
法令を守って抜けモレなく雇用契約を結べるよう、専門家などにも相談しながら準備をしておきましょう。


※本記事の記載内容は、2023年2月現在の法令・情報等に基づいています。