社会保険労務士法人長谷川社労士事務所

客離れさせない! 飲食店メニューの値上げ策

23.01.31
業種別【飲食業】
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新型コロナウイルスの流行による行動制限がなくなり、外国人観光客の入国制限も緩和されてきました。
最近ではコロナ前の生活が少しずつ戻りはじめ、苦しかった飲食業界も、かつてのにぎわいに近づきつつあります。
しかし、原材料価格の高騰や円安といった新たな危機が押し寄せてきています。
こうした状況のなか、「コスト削減の努力も限界」「値上げしたいが、客足に響かないか心配」といった悩みを抱える飲食店オーナーの方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、メニューを値上げする際の客離れについて、その防止策を解説します。
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単純な値上げではなく、新しい価値の提供を

現在、小麦やコーヒー、牛肉といった輸入品のみならず、国産品の値上がりも目立っており、エネルギー価格や物流コストについても高騰・高止まりしています。
そうした状況に加えて、円安による影響が飲食業界に追い討ちをかけています。
東京商工リサーチによると、2022年1月から11月までの間に、大手外食チェーン122社のうち約7割の82社がメニュー価格の値上げを発表しました。
また、帝国データバンクは、2023年4月までに値上げ予定の食品が7,000品目を超えると発表しています。

飲食店において、仕入れ価格の高騰は原価率の上昇に直結します。
世界的なインフレやウクライナの情勢など今後の見通しが立たないなか、メニュー価格の値上げは避けられないといえるでしょう。
では、値上げを納得してもらい、客足をつなぎ止めるにはどうしたらよいでしょうか。

値上げの際に考えたいのは、顧客の満足度を高める工夫です。
株式会社 MS&Consultingの調査では、飲食店が値上げをした際、顧客が「価格が高い」と感じるのは、現在の支払い金額に対して平均12.5%の値上がり幅だという結果が出ています。

しかし、こうした平均値以下の値上げ幅であっても、顧客満足度が低い場合には「価格が高い」と感じられてしまうというデータもあります。
同調査によると、顧客満足度に関するアンケートで「もう来ない」と回答した顧客は、平均して1.7%の値上げ幅で「価格が高い」と感じたと回答しました。
一方で、「また来る」と回答した満足度の高かった顧客は、16.1%の値上げ幅までは「価格が高い」とは感じませんでした。
この結果からは、値上げに対する顧客の受け止め方は、単純な値上げ幅だけではなく、顧客満足度の影響を大きく受けることが分かります。
そのため、接客やサービス、メニュー展開などによる、顧客満足度を上げる工夫が重要です。


広告宣伝費の観点からメニューを考える

では次に、顧客満足度を上げることを前提として、原価率だけに固執しない、事業全体の利益を踏まえた値上げの工夫について考えていきましょう。

飲食店の原価率は30~40%が一般的であり、これに客単価や回転率を組み合わせて提供価格を決める飲食店が多いといわれています。
ここに、『広告宣伝費』や『販売促進費』などを加えて、新しいメニューやサービスが展開できるかを検討します。

広告宣伝費とは本来、メディアやインターネット、街頭の看板やチラシなどでPRする費用を指し、不特定多数の人に向けて店舗名や商品名を広く知らせるための取り組みに関わるものです。
その分の費用を食事代のなかに組み込み、インパクトあるメニューやサービスを設定し、宣伝に代わる話題性の創出を狙います。

具体的には、普段は扱わない高級食材でメニューを開発したり、看板メニューは値上げせずに、別の『無料キャンペーン』を 展開するといった取り組みです。
こうした取り組みが、SNSでのPRや口コミによって拡散されると、メディアへの露出などにつながり、本来必要な広告費用よりも結果的にコストが抑えられるといった可能性があります。

このような施策は、一皿の利益ではなく、事業全体での利益を考えることで可能になります。
ただし、注意点もあります。
こうした手法を用いる際には、提供数やキャンペーン日数の設定を慎重に行う必要があります。
「1日10食限定」「今月末まで」など、広告費として許せる範囲の基準を設定しなければ、大きな赤字や「安くて当たり前」などといったイメージがついてしまいます。
宣伝の効果をチェックしながら、全体的なバランスをみて広告宣伝費の予算を設定していきましょう。
また、広告宣伝費と似たものに、販売促進費もあります。
店舗や商品の存在を広くアピールする広告宣伝費に対し、より売上に直結させる目的で使われるものです。
具体的には、市場の開拓や競合店舗との差別化を図るためのノベルティの製作や、イベントの開催などの費用が該当します。
ほかにも、支払金額の一部を割引券としてキャッシュバックするキャンペーンや、値上げすると同時に客足の少ない曜日のチャージ料を半額にするサービスなどがあります。

これらは再来店を促しつつ、メニューの値上げと併用しやすい取り組みです。
仮にうまくいかなくても中止の判断がしやすいため、気軽に挑戦できる方法といえるでしょう。
さらに、開店時間を早めてその時間帯にサービス価格を導入したり、リピーターに特別メニューを提供したりする方法もあります。

今回紹介したような工夫は、すでに試してきたという飲食店も多いかもしれません。
しかし、値上げラッシュが続くなか魅力的なメニューやサービスを提案し続けることは、リピーターやコアなファンをつくるうえで不可欠な取り組みです。
専門家のアドバイスなども取り入れ、さらに工夫できる余地がないか考えていきましょう。


※本記事の記載内容は、2023年2月現在の法令・情報等に基づいています。