社会保険労務士法人長谷川社労士事務所

年金額を毎年見直し! 在職定時改定によって必要になる対応とは?

23.01.23
ビジネス【労働法】
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2022年4月に施行された年金制度改正法によって、新たに『在職定時改定』が創設されました。
この制度は、在職している65歳以上70歳未満の老齢厚生年金受給者の受給額を、毎年10月に改定し、年金額に反映するというものです。
在職定時改定の導入は、高齢従業員のモチベーションアップや経済基盤の安定化などのメリットがあるものの、企業にとっては対応が必要になる場面も出てきます。
在職定時改定の概要と、企業に求められる対応について説明します。
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在職定時改定創設の背景

少子高齢化などによって労働者人口が減るなか、日本では高齢者でも社会的に活躍できる環境の整備が進められてきました。
2021年4月には、『改正高年齢者雇用安定法』が施行され、企業には従業員に対する65歳までの雇用確保義務に加え、70歳までの就業確保措置を取ることが努力義務として課せられることになりました。
定年や継続雇用の上限を70歳未満に定めている企業に対しては、70歳までの定年の引き上げや定年廃止など、改正法の定める『高年齢者就業確保措置』を講じる努力義務が求められています。

高年齢者就業確保措置は、労働力の確保と高齢者の就業を促進させるためのものですが、企業が措置を講じるにあたっては老齢厚生年金受給の問題がありました。

現在の日本の年金制度では、一定以上の期間にわたって国民年金に加入していた人には65歳になると『老齢基礎年金』が、厚生年金に加入していた人には同じく65歳から『老齢厚生年金』が支給されます。
厚生年金とは、原則として20歳以上60歳未満の全国民が加入する国民年金とは異なり、会社などに勤務している人が加入する制度であり、定年などで退職した人は、厚生年金を支払う必要はありません。
しかし、65歳以上であっても会社に勤務していれば、原則として70歳もしくは退職するまでは厚生年金の被保険者となるため、厚生年金を納めなければいけません。
そのため、在職中の65歳以上の従業員は、毎月厚生年金を納めながら、同時に老齢厚生年金を受け取ることになります。

厚生年金の保険料は、負担を続けると受給する年金額に反映されるものですが、これまでは、65歳以上の従業員が受け取る老齢厚生年金には、65歳から退職時の間に納めた厚生年金の保険料が反映されておらず、支給年金額の改定は退職時に行われていました。
つまり、65歳以上の従業員は退職までの間、その期間に納めた保険料が反映されていない年金を受け取っていたことになります。

今回の在職定時改定は、退職を待たず、納めた保険料を支給年金額に早期に反映させるために創設されたものです。
制度が導入されると、前年9月から当年8月までの被保険者期間に支払った厚生年金が反映され、翌月の10月から改定された年金額で支給されます。
これにより、65歳以上の従業員は、毎年早期に改定された増額済の年金を受け取れることになりました。


在職定時改定の導入で必要になる企業の対応

では、高齢の従業員を雇用する企業にはどのような準備が必要なのでしょうか。
既述した2021年4月施行の改正高年齢者雇用安定法によって定められた、高年齢者就業確保措置では、具体的な以下の5つの対応が示されました。
企業には、定年の引き上げを含めたいずれかの措置を講じることが求められています。

(1)70歳までの定年引き上げ
(2)定年制の廃止
(3)70歳までの継続雇用制度の導入
(4)70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
(5)70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
   a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
   b.事業主が委託、出資等する団体が行う社会貢献事業

これらの措置はあくまで努力義務ですが、高齢従業員の活躍を促進する意味でも、自社で行える措置を考えていく必要があります。
そのほか、新しい業務につく高齢従業員に対して研修や訓練を実施したり、高齢従業員に合わせた賃金制度および人事評価制度の設計などが必要になる場合もあります。

また、厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受給している従業員は、年金の基本月額と、賃金と賞与を含む総報酬月額に応じて、年金額の一部または全部が支給停止される場合があります。
そのため、年金の支給が停止されない額に給与額を調整したいと、雇用契約の見直しを求められるケースも考えられます。
こうした給与額の見直しに対応するためにも、企業としてはあらかじめ雇用契約の変更ができるように準備をしておくことが大切です。


※本記事の記載内容は、2023年1月現在の法令・情報等に基づいています。