社会保険労務士法人長谷川社労士事務所

建設業における見積りに関するルールを確認しておこう

21.07.06
業種別【建設業】
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建設会社が工事を受注する際には、事前に工事に必要なおおよその費用を算出し、発注者に向けて見積りを出します。
この見積りについては、建設業法で基本的なルールが定められています。
見積りは、発注者が業者を比較するうえで貴重な情報源であり、その後の信頼関係構築のためにも必要なものです。
今回は、国土交通省の『発注者・受注者間における建設業法令遵守ガイドライン(第2版)』をもとに、見積りに関するルールを確認していきましょう。
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建設業法には見積りに関する定めがある

建設工事の見積りについては、建設業法で以下のように定められています。

建設業法第20条(建設工事の見積り等)
第1項:建設業者は、建設工事の請負契約を締結するに際して、工事内容に応じ、工事の種別ごとの材料費、労務費その他の経費の内訳並びに工事の工程ごとの作業及びその準備に必要な日数を明らかにして、建設工事の見積りを行うよう努めなければならない。
第2項:建設業者は、建設工事の注文者から請求があったときは、請負契約が成立するまでの間に、建設工事の見積書を交付しなければならない。

このように、建設工事の請負契約を締結する前には、適正な見積りを行うことが大切ですが、そのためには発注者が見積りに必要な情報を受注予定者に提示し、十分な見積り期間を設けることが欠かせません。
このことについて、第3項で具体的に定められていますので、内容を確認していきましょう。


発注者が見積りを依頼する際に提示すべきこと

法第20条第3項では、建設工事の発注者が見積りを依頼する際には、法第19条第1項の各号に掲げる事項について、できる限り工事の具体的な内容を提示しなければならないとしています(ただし、第2号『請負代金の額』は除く)。
これらの事項はつまり、実際に契約を交わす際に契約書に記載すべき事項であると解釈できます。

たとえば、法第19条第1項第1号『工事内容』については、発注者は以下の項目を最低限提示する必要があり、もし具体的内容が確定していない事項があれば、そのことも明示しなければなりません。

●工事名称
●施工場所
●設計図書(数量等を含む)
●工事の責任施工範囲
●工事の全体工程
●見積条件
●施工環境、施工制約に関する事項

また、法第19条第1項第3号以降には以下のような事項があります。

●工事着手の時期および工事完成の時期
●工事を施工しない日または時間帯の定めをするときは、その内容
●請負代金の全部または一部の前金払いまたは出来形部分に対する支払いの定めをするときは、その支払いの時期および方法
●工事着手の延期・中止等があった場合における工期の変更、請負代金の額の変更または損害の負担およびそれらの額の算定方法に関する定め
●工事完成後における請負代金の支払いの時期および方法など

これらの事項については、口頭ではなく、書面で受注予定者に提示することが望ましいとされています。


見積りに必要な期間を確保することは法的義務

正確な見積りを出すには、歩掛の計算や資材費の調査など、多くの手間がかかります。
特に、大型工事の受発注における見積書などは、到底、その場ですぐ作れるようなものではありません。
そこで、前述の法第20条第3項では、発注者に対して、当該建設工事の見積りをするために必要な一定の期間を設けることを義務づけています。
その期間は、1件当たりの工事予定額によって以下のように定められています。

●工事予定額が500万円未満:1日以上
●工事予定額が500万円以上5,000万円未満:10日以上
●工事予定額が5,000万円以上:15日以上
※ただし、500万円以上の工事については、やむを得ない事情があるときに限り、5日以内の範囲で期間を短縮することができます。

これらは、具体的な工事内容や契約条件の提示から、契約締結または入札までに空けなければならない期間です。
これはあくまで最短の期間であり、事情によっては、さらに期間が必要になることもあります。

発注者が、見積りに必要な最低限の期間を設けなかった場合には、建設業法違反となります。
また、見積りを早く出すようにプレッシャーをかけたり、正当な理由なく、工事内容や諸条件を曖昧にしたまま見積りを依頼したりした場合にも、違反となる恐れがあります。
見積りに関するルールを今一度確認し、ルールを守ることを徹底しましょう。


※本記事の記載内容は、2021年7月現在の法令・情報等に基づいています。