社会保険労務士法人長谷川社労士事務所

助成金等を申請する際に理解しておきたい『事業場内最低賃金』とは

24.08.27
ビジネス【労働法】
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最低賃金とは、最低賃金制度によって定められている賃金の最低限度額のことで、事業者は最低賃金以上の賃金を支払う義務があります。
最低賃金の額は毎年引き上げられており、最低賃金での支払いをしている事業者はそれに応じて賃上げを行わなければいけません。
こうした賃上げを行う事業者をサポートする、さまざまな助成金や補助金制度が設けられています。
ここで気にしておきたいのが『事業場内最低賃金』という言葉で、助成金等の申請に大きく関係してくる要素の一つです。
助成金等の申請を検討している事業者は理解しておきたい、事業場内最低賃金について説明します。

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賃上げに苦慮する事業者を支援する助成金

2023年10月から適用された新たな都道府県別の地域別最低賃金は、物価高の影響などもあり過去最大の引上げ幅となりました。
全国平均で1,004円(時間額)と、前年度から43円も引き上げられています。
2024年も例年通り、地方最低賃金審議会の議論を経て、10月には引き上げられることが予定されています。

最低賃金法によって定められた最低賃金は、賃金の最低額を保障するもので、従業員の賃金が最低賃金に満たない場合、事業者は最低賃金法違反となります。
従業員には最低賃金との差額を支払う必要があり、もし支払わなければ、最低賃金法第40条に基づき、50万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
したがって、現状の最低賃金で従業員を雇用している事業者は、最低賃金の更新にあわせて『賃上げ』を行わなければいけません。

財務省が全国計1,125社を対象に行なった調査によれば、ベースアップを行なった企業が2023年度は64.4%、2024年度は70.7%、定期昇給を行なった企業が2023年度は79.4%、2024年度は81.9%でした。
多くの企業が賃上げに踏み切っていることがわかります。

しかし、賃上げをする余裕がなく、対応に苦慮している事業者も少なくありません。
そんな事業者を支援するために、厚生労働省や中小企業庁では、さまざまな助成金や補助金を用意しています。
「業務改善助成金」は、生産性向上のための設備投資にかかった費用を一部助成する助成金で、賃上げを行なった事業者が対象となります。
同じく「キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)」も賃上げを行なった事業者に対しての助成金で、「ものづくり補助金」や「IT導入補助金」は、事業者が賃上げに努めると補助金の採択において加点措置を得ることができます。

そして、こうした助成金や補助金を申請する際に、覚えておきたいのが『事業場内最低賃金』です。

時給の算定方法と事業場内最低賃金の考え方

事業場内最低賃金とは、その事業場における最も低い時間給のことで、「事業場内最低賃金の引上げ」が助成金や補助金を申請する際の条件になっている場合もあります。
たとえば、「ものづくり補助金」では、「地域別最低賃金に比べて事業場内最低賃金が+30円以上にすること」が条件となっており、「業務改善助成金」では「事業場内最低賃金を30円以上引き上げること」が申請の条件の一つとなっています。

時給制の事業場であれば、特に計算は必要ありませんが、日給制や月給制、出来高払制やその他の請負制などの場合は、時給に換算する必要があります。
日給の場合は賃金額を1日の所定労働時間(週によって所定労働時間数が異なる場合には、4週間における1週平均所定労働時間数)で割り、月給の場合は賃金額を1カ月の所定労働時間(月によって所定労働時間数が異なる場合には、1年間における1月平均所定労働時間数)で割ることで求めることができます。
出来高払制やその他の請負制の場合は、出来高払制などで計算された賃金の総額を、その賃金計算期間に出来高払制などによって労働した総労働時間数で割り、時間当たりの金額を求めます。
これらを計算する際に、臨時の賃金や賞与、時間外労働などに対する割増賃金や各種手当は含めないように注意してください。

各従業員の時給を算定し、そのなかで最も低い時給が事業場内最低賃金となります。
この事業場内最低賃金に該当する従業員全員の賃金を引き上げることが助成金や補助金を申請する際の条件になっている場合は、次のように賃上げを行います。

「業務改善助成金」では、事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内である場合に、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げることで、引き上げられた従業員の人数によって助成金が支給されます。
たとえば、「事業場内最低賃金を30円以上引上げ」を行う場合、事業場内最低賃金が1,000円であれば、該当する従業員全員の時給を1,030円に引き上げることで条件を満たしたことになります。

気をつけたいのは時給が1,000円の従業員と1,020円の従業員が混在する場合です。
時給1,000円から1,030円に引き上げられた従業員は助成金の対象としてカウントできますが、時給1,020円から1,030円に引き上げられた従業員は、引上げ額が10円のためカウントできません。
1,020円の従業員も助成金の対象とするためには、1,050円に引き上げ、引上げ額を30円以上にする必要があります。
また、時給1,030円の従業員を30円引き上げても、もともとの1,030円が、引上げ後の新しい事業場内最低賃金以上のため、カウントできません。

助成金や補助金を申請する際に困らないよう、申請を検討している事業者は、時給の算定方法と、事業場内最低賃金について、理解を深めておきましょう。


※本記事の記載内容は、2024年8月現在の法令・情報等に基づいています。