山内経営会計事務所

巨額賠償になることも! 『株主代表訴訟』について

22.12.13
ビジネス【企業法務】
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2022年7月13日、東京地方裁判所民事第8部は、東京電力の元会長ら旧経営陣4名に対し、連帯して13兆3,210億円を支払うよう命じる判決を出しました。
この判決に対し、原告・被告双方が判決を不服として控訴しているため、同判決は確定していませんが、国内の民事事件の賠償額(判決認容額)としては過去最高の金額だろうといわれています。
この訴訟は、いわゆる『株主代表訴訟』という種類の訴訟に該当します。
株主代表訴訟とは、いったいどのような訴訟なのでしょうか。
今回は、その詳細を解説します。
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株主代表訴訟の概要と詳細

今回ニュースになった株主代表訴訟とは、どのような訴訟なのでしょうか。
たとえば企業の役員が違法行為をしたり、経営判断においてミスをしたなどの理由から、企業が損害を被った場合、違法行為をした役員などに対し、企業が損害賠償の請求をすることが考えられます。
しかし、相手が『役員』という内輪の人間であるため、仲間意識や上下関係などといった理由から、企業が役員の責任追及を躊躇する場合があります。

そのため、会社法では、役員による違法行為や誤った経営判断などによって企業に損害を与えた際に、企業が役員にその責任を追及しない場合、『株主』が『会社に代わって』役員を訴えることができる制度をもうけています(会社法847条)。
この訴訟のことを、『株主代表訴訟』といいます。

株主代表訴訟における原告は(特定の)『株主』であり、被告は、『役員』などになります。
ただ、株主代表訴訟は、株主が『会社に代わって』、会社のためにする訴訟ですので、賠償金を原告である株主が直接貰えるわけではありません。
東京電力の事件も、13兆円以上もの巨額賠償額を原告が直接貰えるわけではなく、『東京電力に支払え』という内容の訴訟になります。
取締役のほか、監査役、執行役、会計参与、清算人などが株主代表訴訟における被告になりえます。

一方、原告となるのは、有効な提訴請求をした株主です。
ただし、株主は、いきなり株主代表訴訟を提起できるわけではありません。
本来は、役員に責任追及をするのは企業自身であるため、株主はまず企業に対して『当該取締役等の責任を追及する訴えを提起せよ』と請求することが必要です(提訴請求)。
そして、企業が提訴請求を受けてから60日以内に訴えを提起しない場合、当該株主が、株主代表訴訟を提起することができるのです。

企業としては、株主からの提訴請求を受け取った場合、当該事案の内容や証拠・資料の状況などを精査したうえで、役員への責任追及が法律的に認められる可能性がどの程度あるのかなどを踏まえ、企業として当該役員を訴えるのか否かを検討・判断することになります

なお、企業は、提訴しないと判断した場合、提訴請求をした株主から不提訴理由の提示を求められれば、当該株主に対し不提訴理由を通知する必要があります。
もう一つ、企業の立場としては、株主代表訴訟が始まったあとの訴訟参加の問題があります。
株主代表訴訟は、原告が株主、被告が役員等という形態ですが、企業も当該事案に関係する立場になるため、当該訴訟に補助参加などをすることがあります。
訴訟が終結し判決になると、認容や棄却といった判決が出されます。
認容判決は、『役員等は、当該会社に対し、〇〇円支払え』といった内容になります。


過去の株主代表訴訟の事例

近時、最も話題になった株主代表訴訟の例としては、東京電力の株主代表訴訟があげられます。
この案件は、東京電力の株主が、旧経営陣複数名に対し、22兆円あまりを東京電力に賠償するよう求めた裁判です。
東京電力の株主たちは、原発事故が起きたために、廃炉作業や避難者らへの賠償などで、企業が多額の損害を被ったとして旧経営陣らを訴えました。
東京地方裁判所は、「旧経営陣が重大な事故が生じる可能性を認識しており、事故が生じないための最低限の津波対策を速やかに実施するよう指示すべき義務があったにも関わらずこれを怠った、浸水対策をとっていれば重大な事態を避けられた可能性が十分あった」、などと判示した上で、巨額の賠償請求を認容しました。
そもそも、地震自体がとてつもない規模のものであり、原発事故により避難者らが受けた被害も甚大なものでした。
その結果、避難者らへの賠償を含め、東京電力という『会社』が受けた損害も甚大であり、旧経営陣らへの賠償も巨額なものとなりました。
この判決に対しては、原告・被告双方が控訴しています。
今後の控訴審判決が非常に注目されるところです。

東京電力の事案は賠償額が群を抜いていますが、ほかにも巨額の賠償額を認めた事例はあります。
たとえば、巨額の損失隠しをめぐって歴代の経営陣が訴えられたオリンパスの株主代表訴訟では、594億円あまりの損害賠償額が判決で認容されています(2020年10月22日付で、最高裁判所が上告を棄却したため、同判決確定)。
また、仕手グループに300億円を騙し取られたとして旧経営陣が訴えられた蛇の目ミシン工業の株主代表訴訟では、やはり、583億円もの損害賠償が判決で認容されています。

このように、株主代表訴訟は、事案によっては容易には支払うことができないような非常に巨額の賠償が認容されることがあります。
もちろん、故意や過失が認められなければ賠償義務を負うことはありませんが、役員などの立場にある場合、株主代表訴訟を提起されないよう、その立場に応じた適切な判断、対応が求められているといえます。


※本記事の記載内容は、2022年12月現在の法令・情報等に基づいています。