山内経営会計事務所

2020年を前に知っておきたい『アンブッシュ・マーケティング』とは

19.06.25
ビジネス【マーケティング】
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今年4月1日の新元号発表から5月1日の改元までの期間、各社で売り出された『令和』関連商品は数百種類におよんだといわれ、大いに盛り上がりを見せました。 
近々やってくるもう一つの大きなイベントといえば、来年行われる東京オリンピック・パラリンピック競技大会。
しかしこちらは新元号と異なり、その名を冠した商品を勝手につくって販売することは『アンブッシュ・マーケティング』として厳しく取り締まられています。 
今回は、2020年を前に気を付けておきたい、この問題について詳しく解説します。
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新元号に便乗した多彩なマーケティング戦略

万葉集の一文『初春の令月にして、気淑く風和ぎ』を元にした『令和』という元号は、4月1日に発表されると同時に、SNSなどでまたたく間に拡散されました。
Twitter Japanによれば、菅義偉官房長官による新元号発表からわずか2時間後には、『令和』に関する話題が約450万件もツイートされたといいます。

この盛り上がりに、多くの人たちが目をつけました。
有名なところでは、ヴィジュアル系エアーバンドのゴールデンボンバーが、新元号が発表されたその日のうちに、『令和』という曲をリリースして話題になりました。
ほかにも、お菓子やお酒、Tシャツ、スマホケースや食器、果てはカツオ節まで、多種多様な『令和』の便乗商品が発売されました。
いずれにしても大手メーカーから個人商店まで、規模の大小を問わず、多くの企業が『令和』に商機を見出しました。
今回に限らず、社会的なムーブメントに乗っかるこのようなビジネスは、『便乗商法』や『あやかり商法』と呼ばれ、昔から広く行われています。


便乗ビジネスができない『オリンピック』

一方で、気軽にビジネスに使うことのできない言葉も存在します。
来年2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、2020年東京オリンピック)は、日本のみならず、世界中から注目を集めるイベントです。
しかし実は、公式スポンサー以外の企業がこのイベントに便乗して『オリンピック』『Olympic』などの文言を冠した商品をつくることは、固く禁じられています。
もちろん、オリンピックのシンボル、エンブレム、さらには今大会の『TOKYO2020』という呼称にいたるまで、自由に使用することはできません。
『オリンピック』は、その名前に象徴される大会のイメージや信用を守るため、『商標法』や『不正競争防止法』『著作権法』の保護の対象になっているためです。

さらに2017年12月、国際オリンピック委員会(IOC)は、日本語でオリンピックを意味する『五輪』についても特許庁に商標登録を出願し、2019年2月に認められました。
IOCによれば、もともと『五輪』という言葉も『不正競争防止法』によって保護されていましたが、商標登録することで権利の所在を明確にするため、登録に踏み切ったといいます。
この規制の厳しさは『オリンピック』以外でも、たとえば『ワールドカップ』や『WBC』なども同様で、公式スポンサーではない者がそのイベントのロゴや名称を使った商行為を行うことは、アンブッシュ・マーケティングと呼ばれて世界的に厳しく取り締まられています。

アンブッシュ(ambush)”とは元々、戦闘や狩猟で敵や獲物に発見されないよう偽装して待ち伏せ、奇襲を加える行為を意味し、『アンブッシュ・マーケティング』は、便乗商法のなかでも特に卑劣で悪質なものというイメージで語られています。
なぜここまで『オリンピック』や『ワールドカップ』のブランドが守られる必要があるのでしょうか?


便乗マーケティングを許せない運営側の事情 

『オリンピック』や『ワールドカップ』などの世界的なイベントには莫大な資金が必要になります。
そのため運営側は、大会を運営するために、企業からスポンサーを募り、資金を集めなくてはいけません。
イベントの公式スポンサーになれば、大会の名称はもちろん、シンボルやマスコットを使用して、自社商品をPRすることができます。
その一方で、公式スポンサーではない企業までもが自由に名称やロゴを使って、時にはあたかも公式スポンサーであるかのようなイメージ展開で商売をする『アンブッシュ・マーケティング』が認められてしまうと、高いスポンサー料を支払って公式スポンサーになるメリットはなくなります。
こうなるとスポンサーは集まりにくくなり、結果的に大会自体を潰してしまいかねないというわけです。

こういった経緯を受けて東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会では、知的財産権の保護について、『アンチ・アンブッシュ』を掲げ、具体的な規制の例を示しています。
たとえば、『Tokyo 2020○○○○○』『○○○リンピックなどの語句を用いることも、『アンブッシュ・マーケティング』になる可能性があるとしています。
ほかにも、イベントのスポンサーであると偽ってはいけませんし、紛らわしいロゴやマスコットを使用することも認められていません。
また名称やロゴを使用していなくても、イベント会場の近辺で商品を販売することも許されていません。
さらに今後は、これらの規制から漏れるようなアンブッシュ・マーケティングの案件もカバーする法律が制定される可能性も出てきました。
正攻法でのオリンピックビジネスを行う公式スポンサーになるには莫大な資金が必要で、中小企業にとっては、ほぼ不可能なことです。
それでも、日本中が盛り上がる2020年東京オリンピックが絶好の商機となるのは間違いありません。
開催期間中は、観戦のために世界各国から人が押し寄せ、訪日外国人の数も膨大になることが予想されます。
『オリンピック』というそのものの文言は使用できませんが、『オリンピックを目当てに訪日する外国人に向けたビジネスであれば、規制を受けることはないでしょう。
来年に向け、『日本ならでは』『2020年ならでは』の商品やサービスを考えてみてはいかがでしょうか。



※本記事の記載内容は、2019年6月現在の法令・情報等に基づいています。