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歩行者に道を譲られて通行した車両は『道路交通法』違反?

23.01.10
ビジネス【法律豆知識】
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信号機のない横断歩道で歩行者が通行車両に道を譲る合図をし、車両が横断歩道を通行したところ、『道路交通法』に違反するとして反則切符を切られるという事案が発生しました。
「歩行者が道を譲ってくれているのになにが悪い!」というのが一般的な市民感覚かもしれません。
今回は、この市民感覚と法律の運用の違いについて解説します。
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道路交通法38条1項の規定とその問題点

道路交通法38条1項では、「車両等は、横断歩道又は自転車横断帯に接近する場合には、当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者又は自転車がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道等の直前で停止することができるような速度で進行しなければならない。この場合において、横断歩道等によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない」と規定しています。

本件をこれに当てはめると、道を譲る合図をした歩行者が、横断歩道を「横断し、又は横断しよう」としているのか、という点がまず問題になります。
歩行者もいずれは横断歩道を横断するでしょうから、広い意味では「横断しよう」としているともいえそうです。
一方で、歩行者は道を譲っているのですから、その時点では「横断しよう」としていない、とも考えられます。
ニュースなどで本件を解説するときには、「通行を妨げないようにしなければならない」という文言との関係で議論されることが多いのですが、厳密にはそもそも歩行者が「横断しようとしているのか、していないのか」という点が問題になるのではないでしょうか。
ただ、この点についてはどちらとも受け取れる文言なので、決め手に欠けます。

次に問題となるのは、「通行を妨げないようにしなければならない」という点です。
歩行者が道を譲っているため、その間は通行する意思がなく、「通行が存在しない」とみることができそうです。
また、道を譲っている以上、そのタイミングで通行することはないので、最低でも「妨げてはいない」といえそうです。
一方で、歩行者も車両が通ろうとしていなければそもそも立ち止まらないので、横断歩道前に車両が止まっているのを見て歩行者が立ち止まった時点で、通行を「妨げている」と解釈することも不可能ではないでしょう。


市民感覚と乖離のない道路交通法の運用を

このように考えていくと、なにが決め手なのかわからなくなってしまいます。
改めて、ここでいう『妨げ』について考えてみましょう。
道路交通法38条1項の趣旨は、車両および歩行者の交通の円滑化と、歩行者の身体の安全を確保する点にあると解釈することができます。
そのため、歩行者の交通に支障がなく、身体の安全が確保されていれば、「妨げた」とはいえないことになります。

このような考察を前提とすると、妨げるというのは、「通行の意思を持って横断歩道を渡ろうとする歩行者の障害になること」を意味すると考えるのが自然です。
本件に当てはめると、歩行者には通行の意思がなく、実際に横断歩道を渡ろうともしていないので、『障害』にはなっていません。
したがって、「妨げていない」ということになるはずです。

今回例にあげた事案においては、反則切符を切られた側が弁護士に依頼し、違反による処分の取消しを求め、これが認められました。
法律は、しばしば市民感覚と異なるものであると揶揄されることもありますが、だからこそ法律家が実務運用のなかで市民感覚に合わせて運用する必要があります。
しかし、自治体によって警察の運用が異なっているようで、本件同様の事案でいまだに警察に呼び止められることがあるため、注意が必要です。


※本記事の記載内容は、2023年1月現在の法令・情報等に基づいています。