TFSコンサルティンググループ/TFS国際税理士法人 理事長 山崎 泰

『後悔』を経営に活かせないか?! ~英国には『後悔回避のバイアス』が足りなかった?~

16.07.14
経営全般
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■ 英国『EU離脱』の衝撃

先月6月24日、世界中に衝撃が走りました。

英国が国民投票の結果、「欧州連合(EU)離脱」という選択をしたのです!

『後悔先に立たず』ではありませんが、英国国民にとっても大きな損失となりかねない事態に、早々に再投票署名や議会解散という声まで上がっているとの報道にも接します。

英国の行方が、為替相場や株価、ひいては米国大統領選挙にも大きく波及しかねないだけに、毎日の報道が気になって仕方がありません。

そこで今月は、『後悔』をキーワードに、『後悔』したくないという人の想いを、様々な経営の場面に活かすことができないか、考えてみました。 

皆さまは、会社の設備や証券など大きな投資をされる時、また日頃の買物や飲食をされる時、果たしてどのように意思決定されているでしょうか。 

投資意思決定を研究するファイナンス論では、人は合理的な投資意思決定をするものだという「伝統的ファイナンス」と、いやいや!そうではなく、人は様々なバイアス(先入観や偏見)に基づいて、非合理的に意思決定をするものだという「行動的ファイナンス」に、大きく分かれます。


(つづく) 
■ 『後悔回避のバイアス』って?

『後悔回避のバイアス』とは、
人は意思決定をする際、将来の結果について予測を行い、
自分自身の誤った判断の結果、将来後悔するような事態に陥ることを避けたい
と考える傾向があること。

たとえば、「EU離脱に投票した。その結果、英ポンドが大幅安となり、
為替相場で大きな損失を被った」・・・
これは、単なる事実としての金額面での損失に過ぎません。

しかし実際には、そのような意思決定をしてしまったことに対する
“強い自責の念”がフツフツと湧き上がってきて、
実際に被った損失金額よりも遥かに大きなダメージを感情面に与えてしまうのです。

だから人は意思決定する際には、
できるだけそのような事態になることを避けるようなバイアスが働く・・・
というのが、『後悔回避のバイアス』です。

そう考えると、もしかすると英国には『後悔回避のバイアス』が足りなかった?
といえるのかも知れません・・・


■ 『損失回避のバイアス』って?

『後悔回避のバイアス』は、もともとは『損失回避のバイアス』から
派生したものだといわれています。

『損失回避』とは、
人は「利得」よりも「損失」のほうを極端に嫌うという心理的傾向のことです。

たとえば、
立ち食いそば屋でたまたま見つけた200円よりも、
おつりとして取り忘れてしまった200円のほうが尾を引いて、しばらく頭から離れない・・
(実は私自身、新宿のそば屋での先日の出来事です)???

あるいは、降車直前、タクシー・メーターが上がってしまったときの、あのなんとも言えない不愉快な気分・・・

これらは、『損失回避のバイアス』が遠因でもあります。

人は損失を極端に嫌う生き物なのかもしれません。


■ 自社の顧客にとって『後悔回避のバイアス』とは?

スーパーでレジを待っている時、ディズニーランドで入園待ちをしている時、
隣の列の動きに目をやって、まるで順番競争のようにイライラしながらも、
自分が"ココ!"と一旦決めて並んだ長い列を、決して移らなかった・・・

そんな経験はありませんか?

自分が新しい行動を起こすことによって、待ち時間が余計長くなってしまうかもしれない・・・
そんな『損失回避のバイアス』が働いているのです。


若い頃、友達と連れ添ってファミリーレストランに行って、
数多くのメニューから、さんざ何にしようかと迷った挙句、
結局は友達と同じメニューを頼んだ経験・・・
ここにも、自分が選択しなかったメニューのほうが美味しかった
という後悔をしたくない、という『損失回避のバイアス』
働いているのです。
 
自社製品を納品するまでの過程において、
顧客に対して、心理的にも、金銭的にも、時間的にも、
いかに「後悔」「損失」の感情を与えないような経営を心がけていくか。

レジ待ちが長くなりそうだったら、さっと次のレジを開ける。。。
コンビニ業界で独り勝ちともいわれるセブンイレブン・・・
来店客の時間を心理的にもロスさせないという
『損失回避のバイアス』を研究したゆえのマニュアルなのかもしれません。

製造業でもサービス業でも、
自社の顧客にとって『後悔回避のバイアス』『損失回避のバイアス』とは何なのか
深く考えてみる価値は大いにありそうです。


■ 最後に、気を付けておいていただきたいのが・・・


最後に、気を付けておいていただきたいのが、『投資のディスポジション効果』です。
『後悔回避バイアス』や『損失回避バイアス』は、投資にも大きな心理的影響を与えます。

特に、英国のEU離脱決定以来、日本でも株価が大きく変動しています。

『投資のディスポジション効果』
とは、
人は利益の出ている銘柄は、
利益確定のために売却するものの、
損失の出ている銘柄は、損失を確定させたくないばかりに、
いつまでも持ち続ける傾向があるという行動パターンが
あることです。

損失が現実のものになってしまって、
後悔することを避けるために、
損失の出ている資産をいつまでも保有し続けて、
さらに損失が膨らんでしまうという現象です。

私自身も他人事ではありませんが、
経営者として「決断すべきは決断する!」という強い姿勢も必要だということを教えてくれているようです。 


     平成28年(2016年)7月 
             山 崎  泰