「AI裁判官、AI税理士、AI会計士」?~人工知能(AI)・高度情報化がもたらす社会変革に向き合う~
■「人工知能・高度情報化における、税務・会計のあり方を考える」
先日の東京税理士会四谷支部研修会のタイトル。
税理士会でもこんなタイトルの研修会やるんだ~~
税務・会計を超えて、是非ともこんなテーマ・内容の話をもっともっと増やしてほしい!!
と小躍りするような研修会。
講師は、東京大学農学部出身、東大大学院農学生命科学~学際情報学府研究科に進み、
現在は同学府の博士課程に在籍される、加瀬郁子氏。
「父と弟が税理士なんです。私も、税理士の家庭で育ったので。。。」
「弟が、5科目コツコツと積み上げた税理士という仕事が、ITでなくなると困ると思って、
ITと税理士、一生懸命研究しています!」
会場いっぱい、もちろん税理士だらけなのですが。。。
老若男女、もうこのひと言だけで、講演内容に釘づけ!
まわりを見ると、かなり大事な場面で、こくっ、コクっと他人ごとのように(失礼?)
かなり気持ちよさそうに、寝入っている諸先輩もおられましたが・・・
こちらは、20代・30代の若い社員も多く抱える、経営者の身。。。
かなり必死になって、大きく肯きながら、話に聞き入った次第です。
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先日の東京税理士会四谷支部研修会のタイトル。
税理士会でもこんなタイトルの研修会やるんだ~~
税務・会計を超えて、是非ともこんなテーマ・内容の話をもっともっと増やしてほしい!!
と小躍りするような研修会。
講師は、東京大学農学部出身、東大大学院農学生命科学~学際情報学府研究科に進み、
現在は同学府の博士課程に在籍される、加瀬郁子氏。
「父と弟が税理士なんです。私も、税理士の家庭で育ったので。。。」
「弟が、5科目コツコツと積み上げた税理士という仕事が、ITでなくなると困ると思って、
ITと税理士、一生懸命研究しています!」
会場いっぱい、もちろん税理士だらけなのですが。。。
老若男女、もうこのひと言だけで、講演内容に釘づけ!
まわりを見ると、かなり大事な場面で、こくっ、コクっと他人ごとのように(失礼?)
かなり気持ちよさそうに、寝入っている諸先輩もおられましたが・・・
こちらは、20代・30代の若い社員も多く抱える、経営者の身。。。
かなり必死になって、大きく肯きながら、話に聞き入った次第です。
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■ 「人工知能・高度情報化における、税務・会計のあり方を考える」
先日の東京税理士会四谷支部研修会のタイトル。
税理士会でもこんなタイトルの研修会やるんだ~~
税務・会計を超えて、是非ともこんなテーマ・
内容の話をもっともっと増やしてほしい!!
と小躍りするような研修会。
講師は、東京大学農学部出身、東大大学院農学生命科学~学際情報学府研究科に進み、
現在は同学府の博士課程に在籍される、加瀬郁子氏。
「父と弟が税理士なんです。私も、税理士の家庭で育ったので。。。」
「弟が、5科目コツコツと積み上げた税理士という仕事が、
ITでなくなると困ると思って、ITと税理士、一生懸命研究しています!」
会場いっぱい、もちろん税理士だらけなのですが。。。
老若男女、もうこのひと言だけで、講演内容に釘づけ!
まわりを見ると、かなり大事な場面で、こくっ、コクっと
他人ごとのように(失礼?)かなり気持ちよさそうに、
寝入っている諸先輩もおられましたが・・・
こちらは、20代・30代の若い社員も多く抱える、経営者の身。。。
かなり必死になって、大きく肯きながら、話に聞き入った次第です。
■ 「消える仕事」「消える士業」の危機感がスタート
そもそも、税理士業界が「高度情報化」に関心をもったのは、
いや危機感をもったのは、オックスフォード大学が野村総合研究所と行った調査の中で
「消える仕事」「消える士業」のなかに、税理士が携わる業務が入っていたことから。。。
さすがに、税理士一家のなかで育った講師は、並み居る税理士の前で
「人工知能」や「高度情報化社会」をめぐる報道の過熱・・・への懸念を
イントロダクションとしてふれるのを忘れません。
⇒【参考】2016年12月15日号 TFSグループ メルマガ
『2030年『消える?職業』VS『消えない?職業』 ~人工知能やロボットに負けるな!~』
https://app.mig-sys.jp/mig/article/detail/id/9845?office=7iWLeQw%2FZBk%3D
■ 「本日の目的」「本日の目標(到達点)」を明示してスタート
そして、「本日の目的」を明示・・・
----------------
『社会に大きな影響を与える、新しいテクノロジーである「人工知能」と
それがもたらす「高度情報化社会」について、仕組みを理解した上で、
税務・会計の今後のあり方をめぐる議論や制度設計に、
責任ある専門家として参加できる素地を作る』
----------------
さすがに、東大博士課程に在籍される講師だけあって、
この研修会を受けた後に到達しておいてほしい着地点・目的まで、
研修会での講演冒頭で明示!
数多くの講演・研修会を受けましたが、なかなかここまで
着地点を明確に示して、講義を始められるケースは少ないです。
「本日の目的」を受けて、「本日の目標」・・・
----------------
①現在、話題となっている人工知能について説明できる
②科学技術への市民参加について説明できる
③税務・会計業界に、これから起きる懸念について、3つ以上挙げられる
④技術のあり方について、専門家として自分自身の意見を持ち、議論できるようになる
----------------
③にある、3つ以上~などという表現が、記憶力抜群の東大っぽくって、大きく肯けますが、
2時間後に研修会を終えた段階での「目的」のみならず「目標」まで、最初に教えてもらうと
聞く側の姿勢も変わって来て、真剣に聞いて~そこまで到達しなくては、という気になるので
不思議です。。。
おそらく東大の講師は、これまでの学習・講義・研修会・学会などにおいて、
こんな訓練をしてきたのでしょう。
私自身、これから様々な場で話をするに際しても、
ゴールを明示してから話し始めることは、大いに参考になる手法。
是非とも学んで、研修会などの際には、とり入れてみたい方法です!
■「X-Tech」って?
当日、紹介されたのは、総務省「ICTによるイノベーションと
新たなエコノミー形成に関する調査研究」の中で、
三菱総合研究所が作成した資料。
とても興味深いのです。
「X-Tech」って?
「産業や業種を超えて、テクノロジーを活用したソリューションを提供することで、
新しい価値や仕組みを提供する動き」という定義らしい。。。
「エックステック」とも「クロステック」とも呼ぶそうなのですが、
人工知能を活用した情報技術が、広範な分野に進出していて、
まさにあらゆる分野が、「テック化」している感じ!!
「Retail-Tech」⇒Amazonなどが力を入れる、Eコマース・決済・物流ロボットなどの小売分野
「HR-Tech」⇒採用・転職支援、適性診断など…行き過ぎたケースが、内定辞退率流出騒動
「RE-Tech」⇒不動産の売買仲介・マッチング・管理物件情報など
「Agri-Tech」⇒まさに農業分野、命にも関わるこれからの重要かつ成長分野
「Med-Tech」⇒電子カルテ・ゲノムなどの医療分野
「Health-Tech」⇒健康管理、栄養管理など…生命保険会社で行っている健康状態把握なども好例
・・・Tech分野は、際限なく広がりつつある感じ。
⇒【参考】
総務省「ICTによるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究」
全文(pdf, 110ページ, 約4.63MB)をご覧になられたい方はこちら↓
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/linkdata/h30_02_houkoku.pdf
■ 「木綿豆腐」と「絹ごし豆腐」も需要予測
さらに「Demand-Tech」・・・
まさに人工知能を活用して「需要予測」に活かしていこうという分野です。
例えば「木綿豆腐」と「絹ごし豆腐」を、
いくつ製造・販売していくか??
という局面があったとすると。。。
過去の売れ筋、天候などのビッグデータを活用して、
「最適製造個数」「最適販売個数」「最適な値段設定」
までAIが予測して、最適解をもたらしてくれる!
というのです。
■ 「ビッグデータ」活用・・・ローソンのエッグタルト!!
そもそも「ビッグデータ」なるものが、
ビジネスに活用できる大きな資産であることが、
社会に広まったのは、2012年。
ローソンのエッグタルトから!
ローソンが、Pontaカードにより、
「いつ」「誰が」「どこの店舗で」「何を」買ったのかというビッグデータを収集。
リピート率に注目して、機械学習により分析。
それにより、量としてはあまり売れないが、
リピート率が高い「隠れた定番商品」=「エッグタルト」を見つけたケースです!!
もちろん、それまでもPOSシステムにより、
売れ筋商品のリアルタイム分析は出来ていたのですが、
POSでは、個人の属性などの識別までは出来なかったため、
売上数値と経験によってしか、分析できなかったのです。
ディープラーニングを用いて、顧客の購入パターンを分析することにより
AIによって、「特徴表現量(というらしい・・・)」も発見することができる
ようになったことが、大きな転機だったといいます。
■ ICTを活用した会計オフィスになれないか?
当社の位置する四谷三丁目、目の前の新宿通りには、訪日外国人はじめ
24時間・365日、賑やかな往来が絶えません。
隣接するのは、
左にホテルウィングインターナショナル、
右にファミリーマート、階下にはバーガーキング。
ビル1階には、当社独自の看板も出しています。
このロケーションを活かして、様々なビッグデータを活用して、
ICTを活かせる会計オフィスになれないだろうか。。。そんな期待も、胸をよぎります。
さらに、研修会での話題は、ロボットによる業務自動化(RPA)へと進んでいきます・・・
帳簿入力・伝票作成・ダイレクトメールの発送作業・経費チェック・顧客データ管理等々、
定期的な情報収集業務は、RPAがもっとも適用可能な業務であるとの紹介。
ムむっ、うむっ、待てよ。。。
これって、当社の財務・経理・総務担当者が、
毎日のように行って、毎週月曜日の全体MTGにて
業務報告してもらっている業務じゃないの??
総務省も、「主に事務職が携わる定型業務」がRPAの対象と
コメントしているようですが、まさに ”灯台下暗し” といった危機感。
⇒【参考】
総務省メールマガジン「M-ICTナウ」 vol.21 2018年5月第2号
ICTトピック「RPA(働き方改革:業務自動化による生産性向上)」
■ 「機械との競争」から「機械との共闘」へ
損保ジャパン日本興亜では、総労働時間を40万時間以上削減して
携わっていた事務人員を、かなり大幅に介護職に異動。
三菱UFJ銀行でも、本部人員を6,000人⇒3,000人に大幅削減したことは、広く知られています。
「人工知能」に取って代わられた人間が、今度は、どの分野で能力と経験を発揮していくのか。
損保ジャパンのように、介護職という受け皿があれば別だが。。。
今から遡ること、10年近くも前・・・
『人間が機械との競争に負け始めていることが、そもそも雇用が回復しない原因である』
(「機械との競争」エリク・ブリニョルフソン、アンドリュー・マカフィー著、2011年)
そんな指摘があったことを、あらためて研修会でも披露された、我々会計人・・・
中小企業を中心とした、我々の大切なクライアントとも、問題意識を共有しなければ・・・
隣りで気持ちよさそうに居眠りをしている先輩先生、
そっと起こしてあげようかとも思いながら。
■ 「人工知能・高度情報化社会」と「税理士」
それでは、税理士業界はどうなるのか?
税理士会四谷支部研修会での講師の講演も佳境に!
電卓~コンピュータ会計~クラウド会計と、
情報技術の進展とともに歩んで来た感のある税理士業界。
クラウド会計では、銀行口座やクレジットカード等とも連携して
そのデータを人工知能による機械学習で自動仕訳まで出来るように。
電子申告までソフトウェア上で行えることはもとより
税務申告書のチェックまで、人工知能によって行うものまで。。。
■ ソフトウェア事故による追徴課税は、誰の責任??
講師は「懸念する問題」として、こんな点を指摘します。
自動運転車による事故の責任は?という議論とも同様に、
ソフトウェアの事故により追徴課税が発生した場合、
いったい誰が責任をとるのだろうか??
私はまったく知らなかったのですが、
アメリカでシェア1位の税務申告ソフトウェア・Turbo Taxに関して
既に、いくかの訴訟が起き、判例まで出ているといいます。
2009年、当時のオバマ政権・ガイトナー財務長官が、Turbo Taxを使用して申告した際、
申告漏れが生じたことから、社会でも注目を集める事態に。
ガイトナー氏は、ソフトウェアを使った自分に責任があるとして、追徴課税を支払いました。
いっぽうで2011年、同じようなケースでは、ソフトウェアの誤りによって発生した過少申告
では、ペナルティを受けないという判例が出たのです。
■ さらに「懸念される問題」の指摘は続く。。。
★人工知能を用いて、税務申告サービスを税理士が提供することは、
税理士法に定められる税理士業務となるのだろうか?
★「無償独占」といわれる税理士の申告代理業務との整合性は?
★税理士以外の金融機関などが、申告ソフトウェアを顧客に提供したら?
さらに講師は、このように話を展開していきます。
★コンピュータ会計主義・コンピュータ税制・コンピュータ税法など、
人工知能にシフトした新しい仕組みが必要になってくるのでは。
★高度情報化社会が進展し、マイナンバーによる電子政府が実現すると
「完全な賦課課税方式」まで実現可能となるのでは。
★税収を最大化するような税制、経済活動を最大活性化させるような税制、
極端にいえば、毎年・毎月・いや毎日、税制が変動していくような社会すら、
技術的には可能になっていくのでは。
★そのとき、いわゆる申告納税制度や租税法律主義との兼ね合いは?
国民主権や民主主義など、国を支える根幹から逸脱することにはならないか?
■ 「人工知能・高度情報化」が「社会に及ぼす影響と懸念」
かなり重い、シリアスな展開になってしまいましたが、
税理士に限らず、「人工知能」「高度情報化」が、将来の社会にもたらすかもしれない、
かなり大事な問題点の指摘だと思いましたので・・・
ブログをもとに、しっかりとメルマガでも取り上げてみたかったのです。
最後に、講師が問題提起していた「社会に及ぼす影響と懸念」について
20代~30代の若手社員の顔を思い浮かべながら、考えてみました。
★機械に仕事を奪われることによる「技術的失業」
講師は「機械との競争」ではなく「機械との共闘」を説きます。
人間として、ルーティンワークから解放されることに、喜びを見出せるかどうか。
限られた人生の時間、それも貴重な労働時間を、AIに任せるべきは任せて、
AIが生み出す価値を活かせるステージへと、自らを高められるかどうか。
★ビッグデータやAIを使えるか否かによる、貧富の差の拡大と固定
私のようなデジタル・リテラシーの低い者にとっては、まさに切実な課題です。
デジタル・ディバイドが固定化されていってしまう「恐怖」とともに、
年代により、年齢とともに、それを諦観してしまう「逃げ道」。
新しい社会格差ともなりそうな課題ですが、個々人が、自己努力で
デジタル・リテラシーを高めるしか、道はないのかも。
まさか、この格差を是正せよ~という国会論議もあるまいに。。。
★機械学習による差別の増幅や固定化
講師は、自分が差別されていることすら知らない「恐怖」を語ります。
例えば、人種、階層や階級、偏見などにより、過去のビッグデータが積み重なって
抜け出せない「ジレンマ」、自身の努力だけでは克服できない「不利益」だって、
現実にはあり得るでしょう。
もしAIが、過去のビッグデータをもとに「裁判官」を担ったら、
量刑を再犯率だけから決めてしまったら、黒人は刑務所から出所できなくなる・・・
親権は、絶対に父親はもらえなくなる・・・
こんな理不尽なシミュレーションすらあると聞くと、驚いてしまいます。
★巨大グルーバル企業による一人勝ち
まさに「GAFA」が典型!
日本の経済産業省も、行き過ぎたビッグデータの偏りには、何らかの規制が必要と
公正取引委員会とも検討を重ねているそうですが、切実な問題です。
★「信用スコア」による監視と行動の規範化
中国では、何でもかんでも「信用スコア」という報道が過熱したことがありました。
融資の可否・利息設定のみならず、出会い系アプリでも「信用スコア」が利用されることも。
日本でも「Jスコア」が話題ともなっています。
初対面でも年収を尋ねる場面が紹介されていた中国。
日本に比べて、個人情報の開示に関しては、かなり寛容の感がありますが・・・
でも、過去の「信用スコア」により、すべての行動が監視され、評価されていってしまう
「恐ろしさ」「不気味さ」「気持ち悪さ」は、どうしても拭いきれないのです。
★プライバシー、自由、人権などの問題
「ユートピア(理想郷)」の対義語として「ディストピア(暗黒郷)」なる概念を、
講師から教えてもらいました。
テクノロジーにより管理・監視された社会で、
表面的にはみな幸せに暮らしている(ように見える・・・)。
そんな世界だそうだ。
講師から「監獄の誕生 監視と処罰」(パノプティコン著・田村俶訳)の紹介もあり、
同著は、理想の監獄の姿を、ディストピア(地獄郷)として描いているのです。
■ 講師と日税連会長のやりとり。。。
長く綴った、人工知能・高度情報化シリーズも、そろそろ最後。
講師の加瀬郁子氏から、質疑応答の最後の最後、こんな問いかけが。。。
「税理士はじめ専門家が、人工知能・高度情報化時代における士業という制度設計づくりに、
もっと積極的に参画してくべき」
「税理士試験そのものも、税法の暗記ばかりではなく、
苦労して学んできた税法が、高度情報化社会にどう活用できるか
IT活用などのテクノロジー分野も、税理士試験に取り入れたほうが良いのでは~」
最後列に座っていた日本税理士連合会の会長は、こう応じます。
「まさに、先生の仰る通りです。その点も踏まえて、改正も訴えていきます」
■ 次の世代のためにも、将来の制度設計に活かしていきたい!
しかしながら、通り一遍の議論で終わらせたくなかった私。
エレベーターで一緒になった講師と、しばし意見を交わした次第です。
先生、そもそもテクノロジーに関心のある人は、
テクノロジーに精通する人は、税理士試験を目指さないでしょう・・・
税法が好きだから、税理士の世界に入ってくるのですから・・・
先生のような、税理士界を理解し、来るべきテクノロジー社会に精通する方が
税理士界の来るべき将来像を先取りして、客観的に意見を申していただくか、
税理士業界の代表に、先生のような知見をレクチャーして授けていただくか、
そうでもしないかぎり、今日の貴重な研修会は、将来の制度設計には活かせない!!
「社会の制度設計」と聞くと、将来世代が目に浮かび、
議員だった頃の血も騒いで、熱く語ってしまった次第です。
2019年9月
山 崎 泰
先日の東京税理士会四谷支部研修会のタイトル。
税理士会でもこんなタイトルの研修会やるんだ~~
税務・会計を超えて、是非ともこんなテーマ・
内容の話をもっともっと増やしてほしい!!
と小躍りするような研修会。
講師は、東京大学農学部出身、東大大学院農学生命科学~学際情報学府研究科に進み、
現在は同学府の博士課程に在籍される、加瀬郁子氏。
「父と弟が税理士なんです。私も、税理士の家庭で育ったので。。。」
「弟が、5科目コツコツと積み上げた税理士という仕事が、
ITでなくなると困ると思って、ITと税理士、一生懸命研究しています!」
会場いっぱい、もちろん税理士だらけなのですが。。。
老若男女、もうこのひと言だけで、講演内容に釘づけ!
まわりを見ると、かなり大事な場面で、こくっ、コクっと
他人ごとのように(失礼?)かなり気持ちよさそうに、
寝入っている諸先輩もおられましたが・・・
こちらは、20代・30代の若い社員も多く抱える、経営者の身。。。
かなり必死になって、大きく肯きながら、話に聞き入った次第です。
■ 「消える仕事」「消える士業」の危機感がスタート
そもそも、税理士業界が「高度情報化」に関心をもったのは、
いや危機感をもったのは、オックスフォード大学が野村総合研究所と行った調査の中で
「消える仕事」「消える士業」のなかに、税理士が携わる業務が入っていたことから。。。
さすがに、税理士一家のなかで育った講師は、並み居る税理士の前で
「人工知能」や「高度情報化社会」をめぐる報道の過熱・・・への懸念を
イントロダクションとしてふれるのを忘れません。
⇒【参考】2016年12月15日号 TFSグループ メルマガ
『2030年『消える?職業』VS『消えない?職業』 ~人工知能やロボットに負けるな!~』
https://app.mig-sys.jp/mig/article/detail/id/9845?office=7iWLeQw%2FZBk%3D
■ 「本日の目的」「本日の目標(到達点)」を明示してスタート
そして、「本日の目的」を明示・・・
----------------
『社会に大きな影響を与える、新しいテクノロジーである「人工知能」と
それがもたらす「高度情報化社会」について、仕組みを理解した上で、
税務・会計の今後のあり方をめぐる議論や制度設計に、
責任ある専門家として参加できる素地を作る』
----------------
さすがに、東大博士課程に在籍される講師だけあって、
この研修会を受けた後に到達しておいてほしい着地点・目的まで、
研修会での講演冒頭で明示!
数多くの講演・研修会を受けましたが、なかなかここまで
着地点を明確に示して、講義を始められるケースは少ないです。
「本日の目的」を受けて、「本日の目標」・・・
----------------
①現在、話題となっている人工知能について説明できる
②科学技術への市民参加について説明できる
③税務・会計業界に、これから起きる懸念について、3つ以上挙げられる
④技術のあり方について、専門家として自分自身の意見を持ち、議論できるようになる
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③にある、3つ以上~などという表現が、記憶力抜群の東大っぽくって、大きく肯けますが、
2時間後に研修会を終えた段階での「目的」のみならず「目標」まで、最初に教えてもらうと
聞く側の姿勢も変わって来て、真剣に聞いて~そこまで到達しなくては、という気になるので
不思議です。。。
おそらく東大の講師は、これまでの学習・講義・研修会・学会などにおいて、
こんな訓練をしてきたのでしょう。
私自身、これから様々な場で話をするに際しても、
ゴールを明示してから話し始めることは、大いに参考になる手法。
是非とも学んで、研修会などの際には、とり入れてみたい方法です!
■「X-Tech」って?
当日、紹介されたのは、総務省「ICTによるイノベーションと
新たなエコノミー形成に関する調査研究」の中で、
三菱総合研究所が作成した資料。
とても興味深いのです。
「X-Tech」って?
「産業や業種を超えて、テクノロジーを活用したソリューションを提供することで、
新しい価値や仕組みを提供する動き」という定義らしい。。。
「エックステック」とも「クロステック」とも呼ぶそうなのですが、
人工知能を活用した情報技術が、広範な分野に進出していて、
まさにあらゆる分野が、「テック化」している感じ!!
「Retail-Tech」⇒Amazonなどが力を入れる、Eコマース・決済・物流ロボットなどの小売分野
「HR-Tech」⇒採用・転職支援、適性診断など…行き過ぎたケースが、内定辞退率流出騒動
「RE-Tech」⇒不動産の売買仲介・マッチング・管理物件情報など
「Agri-Tech」⇒まさに農業分野、命にも関わるこれからの重要かつ成長分野
「Med-Tech」⇒電子カルテ・ゲノムなどの医療分野
「Health-Tech」⇒健康管理、栄養管理など…生命保険会社で行っている健康状態把握なども好例
・・・Tech分野は、際限なく広がりつつある感じ。
⇒【参考】
総務省「ICTによるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究」
全文(pdf, 110ページ, 約4.63MB)をご覧になられたい方はこちら↓
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/linkdata/h30_02_houkoku.pdf
■ 「木綿豆腐」と「絹ごし豆腐」も需要予測
さらに「Demand-Tech」・・・
まさに人工知能を活用して「需要予測」に活かしていこうという分野です。
例えば「木綿豆腐」と「絹ごし豆腐」を、
いくつ製造・販売していくか??
という局面があったとすると。。。
過去の売れ筋、天候などのビッグデータを活用して、
「最適製造個数」「最適販売個数」「最適な値段設定」
までAIが予測して、最適解をもたらしてくれる!
というのです。
■ 「ビッグデータ」活用・・・ローソンのエッグタルト!!
そもそも「ビッグデータ」なるものが、
ビジネスに活用できる大きな資産であることが、
社会に広まったのは、2012年。
ローソンのエッグタルトから!
ローソンが、Pontaカードにより、
「いつ」「誰が」「どこの店舗で」「何を」買ったのかというビッグデータを収集。
リピート率に注目して、機械学習により分析。
それにより、量としてはあまり売れないが、
リピート率が高い「隠れた定番商品」=「エッグタルト」を見つけたケースです!!
もちろん、それまでもPOSシステムにより、
売れ筋商品のリアルタイム分析は出来ていたのですが、
POSでは、個人の属性などの識別までは出来なかったため、
売上数値と経験によってしか、分析できなかったのです。
ディープラーニングを用いて、顧客の購入パターンを分析することにより
AIによって、「特徴表現量(というらしい・・・)」も発見することができる
ようになったことが、大きな転機だったといいます。
■ ICTを活用した会計オフィスになれないか?
当社の位置する四谷三丁目、目の前の新宿通りには、訪日外国人はじめ
24時間・365日、賑やかな往来が絶えません。
隣接するのは、
左にホテルウィングインターナショナル、
右にファミリーマート、階下にはバーガーキング。
ビル1階には、当社独自の看板も出しています。
このロケーションを活かして、様々なビッグデータを活用して、
ICTを活かせる会計オフィスになれないだろうか。。。そんな期待も、胸をよぎります。
さらに、研修会での話題は、ロボットによる業務自動化(RPA)へと進んでいきます・・・
帳簿入力・伝票作成・ダイレクトメールの発送作業・経費チェック・顧客データ管理等々、
定期的な情報収集業務は、RPAがもっとも適用可能な業務であるとの紹介。
ムむっ、うむっ、待てよ。。。
これって、当社の財務・経理・総務担当者が、
毎日のように行って、毎週月曜日の全体MTGにて
業務報告してもらっている業務じゃないの??
総務省も、「主に事務職が携わる定型業務」がRPAの対象と
コメントしているようですが、まさに ”灯台下暗し” といった危機感。
⇒【参考】
総務省メールマガジン「M-ICTナウ」 vol.21 2018年5月第2号
ICTトピック「RPA(働き方改革:業務自動化による生産性向上)」
■ 「機械との競争」から「機械との共闘」へ
損保ジャパン日本興亜では、総労働時間を40万時間以上削減して
携わっていた事務人員を、かなり大幅に介護職に異動。
三菱UFJ銀行でも、本部人員を6,000人⇒3,000人に大幅削減したことは、広く知られています。
「人工知能」に取って代わられた人間が、今度は、どの分野で能力と経験を発揮していくのか。
損保ジャパンのように、介護職という受け皿があれば別だが。。。
今から遡ること、10年近くも前・・・
『人間が機械との競争に負け始めていることが、そもそも雇用が回復しない原因である』
(「機械との競争」エリク・ブリニョルフソン、アンドリュー・マカフィー著、2011年)
そんな指摘があったことを、あらためて研修会でも披露された、我々会計人・・・
中小企業を中心とした、我々の大切なクライアントとも、問題意識を共有しなければ・・・
隣りで気持ちよさそうに居眠りをしている先輩先生、
そっと起こしてあげようかとも思いながら。
■ 「人工知能・高度情報化社会」と「税理士」
それでは、税理士業界はどうなるのか?
税理士会四谷支部研修会での講師の講演も佳境に!
電卓~コンピュータ会計~クラウド会計と、
情報技術の進展とともに歩んで来た感のある税理士業界。
クラウド会計では、銀行口座やクレジットカード等とも連携して
そのデータを人工知能による機械学習で自動仕訳まで出来るように。
電子申告までソフトウェア上で行えることはもとより
税務申告書のチェックまで、人工知能によって行うものまで。。。
■ ソフトウェア事故による追徴課税は、誰の責任??
講師は「懸念する問題」として、こんな点を指摘します。
自動運転車による事故の責任は?という議論とも同様に、
ソフトウェアの事故により追徴課税が発生した場合、
いったい誰が責任をとるのだろうか??
私はまったく知らなかったのですが、
アメリカでシェア1位の税務申告ソフトウェア・Turbo Taxに関して
既に、いくかの訴訟が起き、判例まで出ているといいます。
2009年、当時のオバマ政権・ガイトナー財務長官が、Turbo Taxを使用して申告した際、
申告漏れが生じたことから、社会でも注目を集める事態に。
ガイトナー氏は、ソフトウェアを使った自分に責任があるとして、追徴課税を支払いました。
いっぽうで2011年、同じようなケースでは、ソフトウェアの誤りによって発生した過少申告
では、ペナルティを受けないという判例が出たのです。
■ さらに「懸念される問題」の指摘は続く。。。
★人工知能を用いて、税務申告サービスを税理士が提供することは、
税理士法に定められる税理士業務となるのだろうか?
★「無償独占」といわれる税理士の申告代理業務との整合性は?
★税理士以外の金融機関などが、申告ソフトウェアを顧客に提供したら?
さらに講師は、このように話を展開していきます。
★コンピュータ会計主義・コンピュータ税制・コンピュータ税法など、
人工知能にシフトした新しい仕組みが必要になってくるのでは。
★高度情報化社会が進展し、マイナンバーによる電子政府が実現すると
「完全な賦課課税方式」まで実現可能となるのでは。
★税収を最大化するような税制、経済活動を最大活性化させるような税制、
極端にいえば、毎年・毎月・いや毎日、税制が変動していくような社会すら、
技術的には可能になっていくのでは。
★そのとき、いわゆる申告納税制度や租税法律主義との兼ね合いは?
国民主権や民主主義など、国を支える根幹から逸脱することにはならないか?
■ 「人工知能・高度情報化」が「社会に及ぼす影響と懸念」
かなり重い、シリアスな展開になってしまいましたが、
税理士に限らず、「人工知能」「高度情報化」が、将来の社会にもたらすかもしれない、
かなり大事な問題点の指摘だと思いましたので・・・
ブログをもとに、しっかりとメルマガでも取り上げてみたかったのです。
最後に、講師が問題提起していた「社会に及ぼす影響と懸念」について
20代~30代の若手社員の顔を思い浮かべながら、考えてみました。
★機械に仕事を奪われることによる「技術的失業」
講師は「機械との競争」ではなく「機械との共闘」を説きます。
人間として、ルーティンワークから解放されることに、喜びを見出せるかどうか。
限られた人生の時間、それも貴重な労働時間を、AIに任せるべきは任せて、
AIが生み出す価値を活かせるステージへと、自らを高められるかどうか。
★ビッグデータやAIを使えるか否かによる、貧富の差の拡大と固定
私のようなデジタル・リテラシーの低い者にとっては、まさに切実な課題です。
デジタル・ディバイドが固定化されていってしまう「恐怖」とともに、
年代により、年齢とともに、それを諦観してしまう「逃げ道」。
新しい社会格差ともなりそうな課題ですが、個々人が、自己努力で
デジタル・リテラシーを高めるしか、道はないのかも。
まさか、この格差を是正せよ~という国会論議もあるまいに。。。
★機械学習による差別の増幅や固定化
講師は、自分が差別されていることすら知らない「恐怖」を語ります。
例えば、人種、階層や階級、偏見などにより、過去のビッグデータが積み重なって
抜け出せない「ジレンマ」、自身の努力だけでは克服できない「不利益」だって、
現実にはあり得るでしょう。
もしAIが、過去のビッグデータをもとに「裁判官」を担ったら、
量刑を再犯率だけから決めてしまったら、黒人は刑務所から出所できなくなる・・・
親権は、絶対に父親はもらえなくなる・・・
こんな理不尽なシミュレーションすらあると聞くと、驚いてしまいます。
★巨大グルーバル企業による一人勝ち
まさに「GAFA」が典型!
日本の経済産業省も、行き過ぎたビッグデータの偏りには、何らかの規制が必要と
公正取引委員会とも検討を重ねているそうですが、切実な問題です。
★「信用スコア」による監視と行動の規範化
中国では、何でもかんでも「信用スコア」という報道が過熱したことがありました。
融資の可否・利息設定のみならず、出会い系アプリでも「信用スコア」が利用されることも。
日本でも「Jスコア」が話題ともなっています。
初対面でも年収を尋ねる場面が紹介されていた中国。
日本に比べて、個人情報の開示に関しては、かなり寛容の感がありますが・・・
でも、過去の「信用スコア」により、すべての行動が監視され、評価されていってしまう
「恐ろしさ」「不気味さ」「気持ち悪さ」は、どうしても拭いきれないのです。
★プライバシー、自由、人権などの問題
「ユートピア(理想郷)」の対義語として「ディストピア(暗黒郷)」なる概念を、
講師から教えてもらいました。
テクノロジーにより管理・監視された社会で、
表面的にはみな幸せに暮らしている(ように見える・・・)。
そんな世界だそうだ。
講師から「監獄の誕生 監視と処罰」(パノプティコン著・田村俶訳)の紹介もあり、
同著は、理想の監獄の姿を、ディストピア(地獄郷)として描いているのです。
■ 講師と日税連会長のやりとり。。。
長く綴った、人工知能・高度情報化シリーズも、そろそろ最後。
講師の加瀬郁子氏から、質疑応答の最後の最後、こんな問いかけが。。。
「税理士はじめ専門家が、人工知能・高度情報化時代における士業という制度設計づくりに、
もっと積極的に参画してくべき」
「税理士試験そのものも、税法の暗記ばかりではなく、
苦労して学んできた税法が、高度情報化社会にどう活用できるか
IT活用などのテクノロジー分野も、税理士試験に取り入れたほうが良いのでは~」
最後列に座っていた日本税理士連合会の会長は、こう応じます。
「まさに、先生の仰る通りです。その点も踏まえて、改正も訴えていきます」
■ 次の世代のためにも、将来の制度設計に活かしていきたい!
しかしながら、通り一遍の議論で終わらせたくなかった私。
エレベーターで一緒になった講師と、しばし意見を交わした次第です。
先生、そもそもテクノロジーに関心のある人は、
テクノロジーに精通する人は、税理士試験を目指さないでしょう・・・
税法が好きだから、税理士の世界に入ってくるのですから・・・
先生のような、税理士界を理解し、来るべきテクノロジー社会に精通する方が
税理士界の来るべき将来像を先取りして、客観的に意見を申していただくか、
税理士業界の代表に、先生のような知見をレクチャーして授けていただくか、
そうでもしないかぎり、今日の貴重な研修会は、将来の制度設計には活かせない!!
「社会の制度設計」と聞くと、将来世代が目に浮かび、
議員だった頃の血も騒いで、熱く語ってしまった次第です。
2019年9月
山 崎 泰