『新型インフルエンザ』の落し物
2009年5月28日05:43:00
『新型インフルエンザ』の落し物
私どもの顧問先は、まさに北は北海道から南は九州まで、日本全国にわたっています。
先日、甲信越地方で広く観光ホテルやスキー場を営まれる顧問先のご子息が上京され、今後の事業展開について意見交換していた折の話。
そのスキー場は、皇族方も長年にわたりスキー宿として利用なされてきた、まさに歴史と文化ある施設です。修学旅行や冬のスキー学校、夏の合宿施設としても、親しまれてきた施設でもあります。
せっかく修学旅行やスキー合宿に来られた学生の皆さんに、スキーだけでなく、その楽しい思い出の地にまつわる文化や歴史を持ち帰ってもらうべきでは。
歴史と文化ある施設を営む経営者としても、スキー施設として提供することに加えて、その土地にまつわる文化や伝統を語り部として伝える意義は大きいはず。
昼食をともにしながら、私なりの考えを顧問先にお伝えしました。なにも皇族方が来られていることをことさら強調しようというのではありません。
学校教育の一環としても来訪している生徒さん達に、その土地の 歴史の一端にふれてもらうだけでも、思い出を超えた幅が広がるだろうと思うのです。
もちろん、将来子供ができた時などに、家族そろって思い出の地を再訪して下さるようなことになれば、事業としてもこんなに嬉しいことはありません。
先月、丁度、恩師と食事をしていた時、「奈良県・明日香村の御井さんという方を知っているか」と聞かれました。
私も含めて、誰もその方の名前を存じませんでした。
目の不自由な鍼灸師だった御井さんは、桜や桃の花が咲く美しい明日香村の棚田を残すために、松下幸之助翁が明日香を訪れた折、棚田の美しさを切々と語った。
目の見える人以上に危機感を持って語られる姿に心を動かされた松下幸之助翁は、御井さんに頼んでその声をテープに録音。そのテープが、時の総理・佐藤栄作氏に届けられ、声の直訴状に総理が心動かされ、明日香保存に関する法律ができた――
お恥ずかしながら、そんな先人の苦労などまったく知らずに、今年の正月、子供達とのんきに明日香村を自転車めぐりしていた私。
あの棚田の光景を思い浮かべることすら恥ずかしいような気持ちでした。
その明日香村に、長男が修学旅行に行くと聞き、この土地が残された話を聞かせてから、送り出そうと思っていた矢先――新型インフルエンザの影響で東京都からも要請があり、修学旅行が延期になってしまいました。
『新型インフルエンザ』が、落としてくれた貴重な時間。
もう少し時間をかけて、しっかりと勉強し、先人の努力を聞かせてから送り出したいと思っています。
平成21年(2009年)5月 |