『製品ライフサイクル』と『国別ライフサイクル!?』……今月のメッセージ(7月号)
2011年7月20日21:44:00
■急激に増えつつある、中小企業のアジア進出相談
最近、中小企業からアジア進出に関するご相談を受けることが大変多くなってきました。
日本にいると、アジア進出は自動車などの大手メーカーだけという感覚を持ちがちですが、中小製造業や中小サービス業からの相談が増えているのが昨今の特徴です。
6月中旬にはハノイ・ホーチミン、7月初旬には上海・蘇州等と、私自身も毎月のように顧問先様に同行してアジア各国に出張・視察する機会が増えてきました。
建築資材会社から、
「東日本大震災後で不足する建設資材輸入に関して、上海に一緒に行って欲しい」
東北地方の方から、
「上海の百貨店で東北の高級日本酒を販売してみたい。市場調査に一緒に行って欲しい」
印税収入のある個人事業主の方から、
「香港に居住地を移したらどうなるのか、8月に香港に同行して欲しい」―――
といった相談が、顧問先様から連日のように寄せられます。
特に、日本市場が縮小気味の昨今、成長するアジア市場や安い労働力市場を目指して、中小企業が進出するケースが増えています。
■ベトナム・ハノイ事情
6月中旬、顧問先企業に同行してベトナム出張。首都ハノイ~ホーチミン市まで、ベトナムを縦断して現地市場調査。
まずは、空路ハノイへ。 成田からハノイまで、約5時間半。時差は、日本より2時間遅れ。
日本時間の夕方にハノイに到着しても、まだ陽が高く明るくて、2時間、得をしたような気持ちになります。
ベトナムの人口は、約9,000万人。合併後の首都・ハノイは、約700万人。ホーチミンも700万人超。
「若い人が多いので、近い将来、人口1億2,000万人の日本を超しますよ」と、現地ガイドがやや申し訳なさそうに言う姿に、日本の少子化をここでも痛感。
ちなみに、平均寿命は男性70歳、女性72歳。ここでも日本の高齢化のほうが、はるかに進んでいることわかります。
ハノイから高速道路~国道1号を通ると、国道の分岐点には、日越の国旗が揃って掲げられています。高速道路が日本のODAで完成したことを記した、「感謝」と「友好」の証です。
■17%の超インフレ
2005年から、過度のインフレ。
紙幣も、200~50万ベトナムドン(VND)まであるくらいです。
インフレ率は、なんと17%。このままインフレが続けば、近いうちに、100万VND紙幣まで発行されるだろうとのこと。
ちなみに、この日のレートは1円=246VND。
建物に比べて、土地が高いのも特徴です。ハノイ中心部では、80万円/㎡、郊外でも2万円~3万円/㎡という土地価格は、日本とあまり変わらないかもしれません。
建物建築費は、3階建てで350万円。マンションはあまり人気がないとのこと。価格は、100㎡で2000万円、20万円/㎡くらい。
■信号に止まっただけで分かる---ベトナム進出の理由
それにしても、車に落ち着いて乗っていられないのが、良くも悪くもベトナムの特徴です。
高速道路では、中央分離帯のすぐ脇を逆走してくる自転車に出くわしたくらい。日本の常識では、考えられません。
一般道でも、ほとんどないに等しいセンターラインをまたいで、追い越しに次ぐ追い越し。
何度、ヒヤッとしたことか。
この国では、車の隙間を縫うように追い越し続けることが、上手な運転というのか、と思ってしまうくらいです。
信号もほとんどないので、なおさらです。
時々しかない信号で止まると、百台は優に超えるバイクの列。
それも、ほとんどが二人乗り。
HONDA、YMAMAHA、SUZUKI---まさに、日本企業が競ってベトナムに進出する理由が、信号に止まっただけで分かります。
■過去の蓄積でODA支援?
高速道路はじめベトナムの各地で、日本のODAが多大なる貢献をしていることは、確かに多くのベトナム人から感謝されています。
国の成熟期を過ぎ、衰退の懸念が指摘される日本。
その一方で、平均年齢が日本より20歳も若く、国の成長期を感じさせるベトナム。
衰退期に入りつつある国が、成長期に差しかかった国を過去の蓄積でODA支援し続ける。やがては、世界の投資も、衰退国から成長国にとって替わられる、そんなことにならなければよいが---と思わずにはいられません。
一日の仕事を終えてハノイのバーで寛いでいても、「混んでいて、キッチンから食事が上がって来るのが遅くて---」と女性店員がお詫びに来るほど、夜遅くまで賑わっているのです。
■製品ライフサイクル曲線
経営学で、「製品ライフサイクル曲線」というものがあります。
どんな製品にも、ライフサイクルというものがあり、「導入期」→「成長期」→「成熟期」→「衰退期」という、上っては下る曲線を辿るものなので、企業は成長する製品開発に務めなければならないという、考え方です。
①「導入期」は、製品が市場に導入されて販売開始され、徐々に販売数が伸びていく時期。
しかし、市場へ製品を導入するためのコストがかかっているために、利益は低い時期です。
②「成長期」は、製品が市場で受け入れられ、大幅に利益が得られる時期でもあります。
③「成熟期」は、製品が市場にほぼ行き渡り、成長期に比べて販売の伸びが減速する時期。
この成熟期の長短が、その製品自体のライフサイクルを決め、製品が生み出す利益総額に決定的な影響を与えるのです。
④「衰退期」は、市場における製品の売上が減少して、それに伴い利益も減少していく時期です。
■国別ライフサイクル曲線
翻って、今の日本とベトナム。
この「製品ライフサイクル曲線」に似ているように思うのは、私だけでしょうか?
ベトナムは、国としては世界市場が注目して、大幅な成長の見込める「成長期」。
日本は、過去の蓄積はあるものの、市場が縮小し、加えて少子高齢化などで国の勢いとしては下り坂を迎えつつある実態。
残念ながら「衰退期」に入っているといえるかもしれません。
国としてのライフサイクル曲線を、冷静に分析してみる必要があるように思えてなりません。
■ちょっと余談---ホーチミンからクチへ
ちょっと余談…少し話が外れるのをお許しください。
ホーチミン市から、北西へ約70km。カンボジア国境に近い所にあるクチ。
ベトナム戦争当時、南ベトナム解放戦線(ベトコン)の作戦本部が置かれていた場所です。
ゲリラ戦用の地下トンネルが掘り始められたのは、1960年。まだフランス領だった頃。当時は、1層で全長28km。
アメリカの侵攻に対抗するために、約20年かけて全3層、全長なんと250kmにも及ぶ地下トンネルが作り上げられたのです。
すべてが手作業で掘り進められたトンネルは、基地としてのみならず生活の場としても使われ、まるで巨大な地下都市のよう。
会議室、病院、食堂、台所まで備わっているのです。
■クチで見た「ベトコン」の知恵
地下トンネルへの入口、30cm四方くらいの鉄板に草がかぶせてあり、そこに入口があると教ええられるまで、全くわからないくらいです。
現地ガイドに、入ってみたらと進められるも、とても入れるような大きさには思えず断念。日本人の私でもためらうのだから、体の大きいアメリカ人なら、なおさらでしょう。
それにしても、ベトコンの知恵は凄いといわざるを得ません。
体の小さい自分達だけが入れて、体の大きいアメリカ人には絶対に入れそうにもない地下トンネル。観光用に1.5倍に広げたトンネルに入ってみましたが、100m進んだところで、もう限界。
落とし罠はもとより、ドア罠。
民家のドアを押しただけで、串刺し。
台所からも穴を掘って、別の場所から煙が上がるようにして、敵に居場所を知られないようにする。
サンダルも、かかとの方がつま先側よりも、幅が広くなっている。足跡を逆方向に追わせるため。そのサンダルも、アメリカ軍を襲った後のタイヤから、いとも簡単に作ってしまうのです。
とにかく、昼間は農民、かよわき女性、子供。夜は、ベトコン兵士。誰が農民で、誰が兵士だかわからないアメリカ軍の恐怖のほどが伺い知れます。
沖縄戦で、防空壕をアメリカの火炎放射器でやられた日本の敗因を、研究し尽くした戦法のようにすら見えるのです。
■ベトナムが寛容なのか、アメリカが魅力的なのか?
帰りの車中、ガイドと政治談義に。
これまでの外交関係を見て、「一番行きたい国はアメリカ」「一番嫌いな国は中国」 とかなりはっきりといいます。
そしてホテルに着くと、7月4日にはアメリカ独立記念ビュッフェと大きく宣伝しているのです。
クチの紹介ビデオでは、あれだけアメリカをボロクソに言いながら、アメリカに憧れアメリカで商売しているベトナム。
ベトナムがよほど寛容な国なのか、アメリカが全てを吸収してしまうくらい魅力的な国なのか、いったいどちらなのでしょうか?
海外出張が続いて、7月号メルマガをお届けするのが大変遅くなってしまいましたこと、心よりお詫び申し上げます。
次月8月号では、上海・蘇州はじめ中国事情をお届けします。
平成23年(2011年)7月
山 崎 泰