『五十而知天命(五十にして天命を知る)』---今月のメッセージ(8月号)
2011年8月5日16:58:00
■『中国アジア進出ネットワーク』の反響
先月7月号のブログで、中小企業を含め、急速に進みつつある日本企業のアジア進出を背景に、ハノイ・ホーチミンの現地状況をレポートしました。
ブログ配信と同時に、反響が少なからずありました。
日本国内市場の縮小、中小企業でも高まりつつある海外市場進出の検討、さらに現実になりつつある日本の空洞化への懸念、しかしいつまでも経っても内向きで危機感に欠ける日本政治への憤り・失望等々ーーーお寄せいただいたメールのひとつひとつが、この国の向かいつつある危機に気づき、不安感を抱かれている証だと感じながら、返信を差し上げました。
もちろん、すぐに海外展開を、などと性急に申し上げている訳ではありません。しかしながら、海外に市場展開している企業の方が、国内市場に留まる企業に比べて、売上・利益ともに伸び、黒字化していることも時代の流れであることは事実です。
海外市場拡大や海外生産力の活用等は、もはや大企業のみならず中小企業も直面する問題であることを、まずはしっかりと認識する必要があろうかと思います。
「私よりも今度、息子を一度、中国に連れて行ってもらえないだろうか。長い意味で、これからの経営者としての視野を広げるだけでもいいので---」
こんな声にもお応えして、今月は中国レポートです。
■中国・上海事情
アジアでは、やはり中国、なかでも上海・香港に関する相談が多く寄せられます。
7月上旬、上海出張。 万博も終えて、街の発展が著しい上海。
高層ビル、マンションも日々、増えているかのようです。
上海だけで、100m超の建物が、6000棟。
152m超の建物が、800棟。地下鉄が、15本。GDPは、中国全体の5%。
まさに、中国の成長を牽引している上海。
■『点』から『面』『圏』の発展を急ぐあまり---
ちょうど、6月30日に上海〜北京間の新幹線が開通。1400㎞弱を5時間で結ぶのです。
料金は、一番安い席で約410元=5400円くらい。
東京〜博多間が1100㎞で21000円(自由席)なのに比べれば、比較的安く感じます。
私自身も、上海から蘇州までの移動に中国高速鉄道を利用しました。まさに、あの事故を起こしたのと同じ「和偕号」です。
料金は、片道40元円程度。距離も近いので、料金は安く済んだのですが、高速鉄道とは言い難い古びた汚い外観に、「これが新幹線、大丈夫?」と一瞬思ったのも事実です。
これまでの中国は、北京なら北京、上海なら上海というように、あくまでも『点』としての都市の発展が中心。
それが、『点と点』を結ぶ『面』、さらに広げて『圏』として、急速な都市間のネットワーク化を展開しています。
7月23日、温州市で起きた中国高速鉄道事故。
この事故も、北京、上海、広州、深圳、南京などを、いかに高速鉄道網を使って短時間で 結ぶかという、国策ともいえる『面』『圏』展開を、あまりにも急ぎ過ぎた過程で起きた惨事といえるでしょう。
■赤い資本主義
7月1日は、中国共産党90周年記念日。国内テレビも胡錦濤国家主席の演説に多くの時間を割いていました。
約9000万人ともいわれる共産党員---そして共産党一党支配。
自国をして「赤い資本主義」と評していた中国人もいましたが、これだけの経済大国と共産主義が同居している不思議を感じざるを得ません。
■上海=「混乱しているが、発展している」「発展しているが、混乱している」
最近、中国進出に関連するご相談が多いせいか、地元弁護士による「進出に伴う相談事例」の話には、聞く方の私達も自然と体が傾きます。
弁護士曰く、
「混乱はしているが、発展している」のが上海。
「発展しているが、混乱している」のも上海。
なるほど、 言い得て妙だと感心しながら聞いていました。
上海に進出している日系企業が抱えるトラブルの御三家は、①労務、②債権回収、③知的財産権。特に、2008年に労働契約法が発布されてからは、労務問題を抱える企業が多いのです。
労務問題を避けるべく、留意すべきポイント!
①中国人幹部について
目を見張りながら活用すること。活用はするが、一方では100%は信用していないことが伝わるようにしておくこと。
②中国人従業員について
会社に付いて行くのではなく、『人に付いて行く』ことを忘れないこと。
面倒をみてくれた(採用してくれた)総経理に付いて行く---といったようなことは頻繁に起きるといいます。
特に、ヒトやカネに制約のある中小企業は、一人二人の少数幹部に任せがちになるので、要注意です‼
■第4次中国進出ブーム
日系企業にとって、今は第4次中国進出ブームといわれています。
第1次は1980年代、第2次は1990年代、第3次は2000年~2007年、そして2010年~の第4次ブーム。
第4次ブームの特徴を整理してみると---
- 中小企業の進出が目立つこと。
- これまでの、「中国で製造→日本で販売」から今回は、「日本で製造→中国で販売」または「日系企業が中国で製造→中国で販売」
という形態に変わったこと。
要は、日本の購買<中国の購買力となりつつあるという厳然たる傾向に、経済市場が敏感に反応しているということです。 - 合弁会社が増えていること。
それも形態は、日系企業+中国企業のみならず、(新規進出)日系企業+(既出)日系企業という合弁も増えているのが特徴です。
さらに、合弁ではなく外資だけでの会社設立等も、以前に比べるとかなりハードルが低くなりつつあります。
■ワンストップで日系企業誘致~蘇州工業団地
私が日本を発った7月2日、日本経済新聞一面に、三越伊勢丹HDが、中国・蘇州に売場面積15万㎡の百貨店開設という記事が載りました。
日本での新規店舗開設ではなく、蘇州も含めて中国で4店舗開設するとの報道に、目を見張りました。
ちょうど、その2日後。その蘇州の地に入りました。
既に海外から4000社が進出する蘇州工業団地。うち日系は400社、日本からの駐在者は約6000人。
不動産価格は、上海の1/3程度。最低資本金は1万元、中国の最低資本金は10万元であるのに比べて、特区としての優遇措置をとっています。
会社設立までは、約2週間。数ヶ月かかる中国としては異例の速さです。法人関係の関係部署が、特区に集約され、進出企業はワンストップでサービスを受けられるように配慮されていまるのです。
まさに、国策ともいえる海外企業誘致。
大規模な商業施設や住宅、そしてゴルフ場までも備える蘇州工業団地---三越伊勢丹HDが、日本を超えて店舗進出する理由もよく分かるような気がします。
■米デフォルト(債務不履行)危機は、対岸の火事ではない!?
8月2日、米国の連邦債務の上限をめぐる問題は、期限間際で米議会が合意に至り、デフォルト(債務不履行)という最悪の事態だけは回避しました。そもそも米国では、医療費や年金等による政府による無尽蔵な借金増を抑制すべく、法律で債務残高の上限を決めているのです。
米国の過剰債務は、2008年秋の金融危機後の財政支出に端を発しています。
翻って、今の日本。
東日本大震災からの復興、膨張し続ける社会保障費等の財政支出。その一方で、財源を賄うための増税すら明示できない政治。デフォルトのリスクは、米国より高いかもしれません。
同夜、税務当局との意見交換会。
その席でも特に経営者の間から、将来的な日本のデフォルトへの強い懸念が寄せられました。
「政経塾の先輩でもある財務大臣に、よく伝えておいて欲しい!」。
「野田大臣は1期生で、国家財政を立て直すという松下幸之助翁の理念を、もっとも理解している方のはずなのでーーー」としか言えない私。
■『五十而知天命(五十にして天命を知る)』
「政治」と「経済」の対立。
一向に有効な手を打てない国内「政治」に見切りをつけて、海外にシフトする「経済」。
政府・与党のなかに、本当の実体経済を知り、厳しい経営を乗り切ってきた経験をもつ政治家があまりにも少な過ぎるからなのではーーーとも思いたくなります。
企業の苦しさを最も身近で見続けている職業会計人として、何ができるのだろうか。
子曰、
「吾十有五而志干学」(十五にして、学に志す)
「三十而立」 (三十にして、立つ)
「四十而不惑」 (四十にして、惑わず)
「五十而知天命」 (五十にして、天命を知る)
「六十而耳順」 (六十にして、耳従う)
「七十而従心所欲、不踰矩」(七十にして、心の欲する所に従って、矩を踰えず)
論語第二編「為政」にある、孔子の言葉を何度も反芻しつつも、『天命』を悟りきれていないもどかしさを抱えながら、8月1日に50歳を迎えました。
平成23年(2011年)8月
山 崎 泰