『日本の政治の早い動きをつかむには、松下政経塾!?――ワシントン・レポート』
2011年10月7日12:41:00
■野田首相・玄葉外相就任直後の訪問だけに---
9月初旬、ワシントンを訪問。
訪問団の団長は、上甲晃・元松下政経塾塾頭。
図らずも、ちょうど数日前に政経塾出身の野田首相、玄葉外相が誕生しました。
その直後でもあり、なおかつ政経塾時代の恩師が団長ということもあって、米国政府・議会・シンクタンク、そしてマスコミ関係者からも注目を集める訪問となりました。
米国大使館、米国議会はじめ、訪問した各地各所で異例の待遇なのです。
「政経塾での教育方針、政経塾時代からの足跡を聞くことができれば、今後の政策や日米関係への姿勢などのヒントが得られるだろう」
大変お世話になった日本大使館も含めて、こんな感じなのです。
これは偏に、政経塾のおかげ、野田先輩のおかげ、いや我らが恩師である上甲団長のおかげにほかなりません。
■「日本の政治の早い動きをつかむには、松下政経塾」
米国きっての知日派で知られるCSIS(米戦略国際問題研究所)日本部長・マイケル・グリーン氏が、シンクタンク主催の会合の冒頭、こんな挨拶をしていたのが、とても印象的でした。
「上甲晃氏は、松下政経塾の塾頭として、新しい世代のリーダーを育ててきた」
「野田佳彦氏、前原誠司氏、玄葉光一郎氏が、まさにそうだ」
「山田宏氏からは、野田内閣の展望とともに、新党をなぜ創設したのか、同じ政経塾としてどう協力していくのかも語っていただきたい」
そして、最後のコメントがとても印象に残ったのです。
「日本の政治の早い動きをつかむには、松下政経塾がポイント!」
“Power” of Matsushita Institute of Government &Managementと、パワーという言葉を使っていたのには、さすがに驚きました。
一大勢力という認識なのでしょうか。
■子供のことを心配する親の気持ちのよう---
グリーン氏の紹介を受けて、上甲団長が挨拶。
「松下政経塾出身の野田首相誕生は、誇らしい気持ちとともに心配な気持ち。子供のことを心配する親の気持ちと同じ。」
「松下幸之助が齢85歳で政経塾を創設したのは、決して金持ちの道楽ではない。21世紀の日本のことを、真剣に心配していた。明確な国家としての理念・国家百年の計がない‐‐‐と」
上甲団長は、食い入るようにメモをとる外国人記者の前で、さらに幸之助翁の政経塾にかけた思いを語り続けるのです。
「日本の政治家は、目先にとらわれがち。それでは、日本は必ず行き詰まる。」
「幸之助は、首相や外相を出すことを願ったのではない。明確な意味で、理念をもって世界に貢献できるリーダーを出すことを願った。」
そして最後に念を押すように、
「野田、玄葉氏も、その理念をもってあたってくれていると信じている。」
この言葉を、野田さんや玄葉さんにも伝えなければ‐‐‐同じ政経塾で教わった一人として、そう強く思ったのです。
■日本の存在をアピールし続ける駐米大使の苦悩
マイケル・グリーン氏との会合から遡ること半日。
今回のワシントンでの一連の訪問は、藤崎一郎・駐米大使への表敬から始まりました。
「世界の中での日本の位置付けを、米国各地でアピールしているのです。」
と、大使自らが『What Japan Is in the World』(世界の中での日本)と題する資料を手に、熱心に説明してくださる姿には敬服しました。
1.Population(人口)に関して、
Least Obesity Rate (非肥満率)は、Male(男性)が2.9%で2位、女性は3.3%で1位。
Life Expectancy at Birth(出生時平均寿命)は、82.73歳で日本が世界1位。
Population over 65(65歳以上の人口)は、22.7%で日本が世界1位。
まずは、日本がいかに健康で長生きの国かをアピールして‐‐‐。
2.Education(教育)に関しては、
Punctuality( % of students not late for school in the last 2 weeks) 2週間以内に学校に遅刻をしなかった生徒の割合は、92.6%で日本が3位と、日本の勤勉性を強調しながらも、さすがにこの辺で米国にも配慮してNobel Laureates(ノーベル賞受賞者数)は、326人で米国が世界一と持ち上げてみせるのです。
日本のトップセールスマンとしての大使も、本当に大変です。
■ミシュランに載っている三ツ星レストランの数?
3.Society(社会)に関しては、
Number of International Migrants(移民数)は、さすがに米国が世界一。
移民の国といわれる所以です。
面白いのは、
The number of the 3-star restaurants (the Michelin Guide 2010) ミシュランガイドに載っている三ツ星レストランの数、日本が26で世界一なのだと、大使に教えていただきました。
大使に三ツ星レストランの数まで教えていただくと、あまりに申し訳ないような、でもなにかホッとしたような温かな気持ちになってしまうのが不思議です。
日本人の我々がそうなのですから、米国人はなおさらでしょう。きっと、日本に親近感を覚えて聞いていただいていることでしょう。
4.Economy(経済)に関しては、
Unemployment Rate (May 2011) 失業率は、4.2%で日本はベストワン。
その一方で、General Government Gross Debt(債務残高のGDP比率)は、212.7%とワーストワン。
■中国の台頭も横目で見ながら‐‐‐
大使のプレゼンテーションの後半は、
『What Japan Does in the World』 (日本は、世界で何をしているか)です。
1.UN Contribution (2010) and Official Development Aid Contribution
国連やODAの貢献額では、米国に次いで2位の座。
2.Carbon Emission caused by Producing Dollar of GDP
同じGDPを生むために排出する二酸化炭素の量では、日本がいかに低く、環境に配慮した国であるかが数字に如実に表れています。
いずれも、日本の世界に対する貢献(Does)を示しているのです。
そして、最後には台頭する中国の新幹線事故をチクッと刺すように、
High Speed Railways in the World (世界の高速鉄道)の比較表も用意されていました。
1964年開業と、いかに日本が高速鉄道建設に先行着手し、長い歴史をもっているかとともに、Experience in Safety(安全経験)を、頭文字をとって9つの“E”のトップバッターとしてアピール。
まさに高速鉄道は日本へ---という感じです。
■アーミテージ・元国務副長官~なぜ150カ国もが日本を支援したのか!
大使室を出て、大使館内会議室で待っていると、日本のテレビでもおなじみの笑顔でアーミテージ・元国務副長官が会議室に入って来られます。
親日派のアーミテージ氏だけに、震災2ヵ月後には来日したという話から切り出されました。
「被災地を見たときは、まさにUnbelievable(信じられない)光景だった!」
「しかし、日本が様々なグローバルな問題に対して第一線に立つ国であって欲しいから、150カ国もの国が支援したことを忘れないで欲しい」
そして共和党だけに、日本の防衛力増強を、念を押すように強く求めるのです。
「1960年の日米安保以来、人道的な慈善事業で在日米軍を送り込んでいるのではない。米国の利益にもなるからだ」
「方向性としては、日本の防衛力予算の強化を。」
「そのためにも、外務大臣・防衛大臣が、米国と早期にカウンターパートとして同盟力を強化できるように、話し合う機会を早期に作るよう、野田首相が指示して欲しい。」
確かに米国の立場からは、当然の主張だろうと思うのです。
■オバマ大統領は、Accidental President???
民主党のオバマ大統領へのコメントも、かなり辛らつです。
「オバマは、決して先頭に立つタイプのリーダーではない。いろいろな人の意見を聞いてまとめ上げていく、コミュニティ・オーガナイザー。」
「言ってみれば、Accidental President(たまたま偶然なった大統領)だ!」
最後に、野田新首相とオバマ大統領へのアドバイス。
「再選のことは考えるな。」
「自分の国、国民のために、やるべきことは何なのか、を考え、手を携えて頑張って欲しい。」
長年、日米関係を心配し続けてきたアーミテージ氏。
政党の枠を超えて日米のトップに関係強化を期待し、託している胸の内が、ひしひしと伝わってくるようでした。
■シーラ・スミスCFRシニア・フェロー~しっかりと再興を遂げた日本の存在が必要!
CFR(Council on Foreign Relations)米外交問題評議会は、民主党系のシンクタンク。
なかでも、シーラ・スミス氏は、日本語までも流暢に話します。
野田新首相選出後、すぐに「FOREIGN AFFAIRS」にコメントを配信するなど、まさに日本通です。
「日米のパートナーシップという点からだけでなく、強い、しっかりと再興を遂げた日本の存在が、北東アジアにとっても重要だ。」
「経済的、政治的、社会的にも、強い日本を望んでいる。」
「中国をいかに巻き込みながら、北東アジアを安定させていけるかという点がポイント!」
スミス氏は、“engage”という言葉を使っていたのです。
この単語には、「従事する」「携わる」という訳から、さらに「引き込む」、反対に「交戦する」という訳まであります。
中国をいかに引き込むか、引き込みに失敗すると交戦までありうるかも?‐‐‐そんな単語の意味合いが、今後の日・米・中の緊張感ある関係と、無縁とも思えないのです。
日本で11月までの懸案になっているTPP加入に関しても、はっきりとコメント。
「TPPは平等でオープンな通商システム」
「特に中国との関係でも、日本の参加・協力がなければ成り立たない!」
■ダニエル・イノウエ上院議員、87歳の誕生日に
日米関係にとってなくてはならない知日派・親日派の代表格であるダニエル・イノウエ上院議員との面談は、日米関係を心配して渡米した我々にとっては感動的でした。
福岡県八女市出身、日系二世、ハワイ州選出、民主党。上院議員として51年。
上院の歳出委員長という、副大統領に次ぐ要職を務められています。今年の6月には、日本で叙勲まで受けられています。
ちょうど、訪問した9月7日は、ダニエル・イノウエ議員の87歳の誕生日。
「3月11日の、Tomodachi Operation(友達作戦)は、日米関係がいかに素晴らしいかを示した。言ってみれば、兄弟のような関係だ。」
■最大の懸念は、「普天間の辺野古移転」と「海兵隊のグアム移転」
「でも最大の懸念は、普天間の辺野古移転と海兵隊のグアム移転。」
「11年前に、辺野古移転とともに、海兵隊+家族の18,000人を沖縄からグアムへ移転するという合意をした。日米双方で合意した、最も力をもつ合意のはずだ。調印された合意が、実施されないまま今日に至っている。」
日米関係を長年最も心配しているトップの言葉だけに、ずっしりと重く響きます。
「日本は、6年間で7人の首相。その都度、外相も防衛相も交代する。各内閣は、その都度、日米合意にコメントしたがる。これでは、交渉するのが難しい。」
「その間、米国は10億ドルを使って、グアムへの受け入れを準備してきた。待ってきた分、当初よりかなりコスト増になってしまっている。これ以上、遅延することなく、早急に解決することを強く望んでいる。」
■握手する姿に、日米の“絆”を
私が現役でいるうちに、日本サイドで解決してくれ。
国家間で約束をしたことは、守って欲しい。
予算の確保もあり、これ以上は待てない。議会が持たない‐‐‐ギリギリだ。
日米関係を守り続けてきた我々の立場もわかって欲しい。
静かに語る姿が、かえってダニエル・イノウエ議員の、そんな心の声を届けているようでした。
1941年12月、米国在住日系人を敵国民に指定。敵国民に指定された70年後の今、上院NO3のポジションに立つダニエル・イノウエ議員。
第2次世界大戦(対独戦)で失った右手に代わり、左手で一人一人と握手を交わす姿に、戦争をも越えてきた日米の“絆”の長い歴史、支えてきた人々の重さ、そして未来へ継続する大切さを感じざるを得ませんでした。