「香港・広州レポート」
2012年5月7日11:42:00
■なぜ、中国・アジアネットワークを目指すのか?
4月号ブログで、『なぜ私達は、中国・アジアネットワークを目指すのか?』『どういう姿勢で、中国・アジアネットワーク業務に取り組んでいるのか?』について、昭和53年から54年にかけての、松下幸之助翁と鄧小平・国務院副総理(当時)とのエピソードもひも解きながら、お話いたしました。
5月号では、そんな原点も忘れずに、香港・広州レポートをお届けします。
■「香港人vs中国人」
4月4日、香港を拠点としてアジア全域で幅広く活動されている、中小田聖一・公認会計士と懇談。
1997年7月1日に、香港が中国に返還されて、もうすぐ15年。
その間、
「香港の中国化」
「中国の香港化」
が大きく進んだというのです。
会計事務所でも、中国から香港に移ってきた中国人スタッフが急増。
一人っ子政策の影響もあり、香港に来て、住み、働き、子供を産む中国人が増えて・・・
出産ラッシュで、香港では出産の病院が予約できないくらいという悲鳴すら、聞こえてきます。
香港返還後の急激な変化は、良い面ばかりではなく、様々な軋轢も生じさせているのです。
そんな軋轢が端的に表れているのが、 香港人に対する意識調査アンケート結果。
香港人に対する 「あなたは中国人ですか?」との問いに、最近はNOという答えが大変多くなっているというのです。
ひとつの国でありながら、複数の制度が混在する中国。
日本人の感覚では理解しきれない、この国の深い悩みが隠されているようです。
■OLYMPUS、AIJ、そして大王製紙の舞台・・・
それにしても、香港には世界中からマネーが集まっています。
もちろん、マカオを抱えていることもあるのでしょう。
銀行も税制も、まるで世界中から集まるマネーに対応しているかのようです。
懇談の最後に、中小田氏から、こんな興味深いコメントが・・・。
もし13年前に香港に来て、富裕層向けのビジネスをしていたら、どこかで“地雷"を踏んでいたかもしれません。
地雷・・・??
「これまで、香港を舞台にした事件が少なからずありました。
OLYMPUSの指南役も、香港在住
AIJも、香港の銀行が絡んでいた
大王製紙は、マカオのカジノが舞台
・・・等々。
夜景の下には、様々なマネーが集まってくるのです。」
なるほど・・・。
■中国でも強い、主婦パワー
広東省・広州市にある「広州ヤクルト乳製品有限公司」視察。
広州ヤクルトは、広州市の工業団地に2001年に進出。
2万㎡を超える広大な敷地で、一日150万本近くを生産。それでも2012年は前年比130%の伸びで、生産が追いつかない、という嬉しい悲鳴。
日曜日も、ライン・フル稼働で生産。 1ヶ月で28日稼働。
ラインを止めるのは、メンテナンスをする2日間だけという状態です。
ヤクルトの販売方法は、基本的に日本と同じ。
中国でも、YLと略称されるヤクルトレディも主力です。
YLの平均月給は、2,500~2,600元(1元=約8円)。
もともと働いていなかった家庭の主婦を雇用したことで、広州ヤクルトは広州市から雇用拡大貢献の表彰も受けるくらいの優良企業。
なかには、1日400本以上も売って、月に5,000元も稼ぐYLも・・・。
工場の生産部門従業員の基本給が1,500元。
家庭の主婦も、頑張り次第では、工場社員のなんと3倍以上も稼ぐことができるわけです。
■ヤクルト“5本パック”の理由が・・・
生産ラインの最終工程を見ているうちに、長年の疑問が頭をよぎりました。
それは・・・
ヤクルトは、なぜ5本パックなのだろう?
子供達が小さい頃、年子で喧嘩にならないように、1パック=5本という奇数を避けて、2パック=10本の偶数ずつ、まとめ買いをしていたからです。
案内をしてくれた工場長の傍に寄って、お恥ずかしながら、恐る恐る聞いてみました。
そして、その答えが、やっと分かったのです!
「毎日飲んでいただいたとすると、5本パックでは1週間=7本には足りないのです。
そこで、1週間で2パック買っていただければ…との意図で、5本パックにしているのです。」
「もっとも、ヨーロッパなど一部の国では、7本パックという例外もありますが・・・」
なるほど・・・。
奇数の使い方を、ビジネスでも考えてみなくては。
なんでもすぐにビジネスに結びつけてしまうところが、悲しい性分です・・・??
■中国人社員は、終身雇用 !?
中国沿岸部、上海・天津・青島などを中心に、100人もの弁護士を擁して業務展開している「広東敬海法律事務所」。
広州・東方会館ホテルの会議室で、最新法務のレクチャー。
「中国では、書面による労働契約を締結しなければなりません。」
「書面で結ばなかった場合のペナルティは、
①1ヶ月を経過したら、2倍の賃金を支給しなければならず、
②1年が経過したら、無固定期間労働契約(終身雇用)を結んだものとみなされてしまいます。」
特に注意しなければならないのは、会社創立時のメンバー。
会社ができる前から手伝ってくれ、会社設立後、そのまま社員に。そもそも会社ができる前からなので、労働契約など交わさずにそのまま・・・。
2〜3年後にトラブルになった時に、労働契約を結んでいなかったことに気づく・・・というトラブルには要注意‼
ちなみに、佛山市の場合
①勤務年数が10年を超えた場合
②2008年1月1日以降、連続して2回の固定期間労働契約を締結+労働者が無固定期間労働契約(終身雇用契約)の締結を求めた場合
いずれかの場合には、会社は終身雇用を結んだものとみなされることになります。
要は、2008年以降、最初に雇用契約の更新を迎える時期が、最終判断のタイミング!
ここで契約更新すると、従業員は事実上、会社に終身雇用を要求できる権利を得ることになるのです。
労働契約や労働条件の日本との大きな違いが、日本企業が進出を躊躇ってしまう要因にもなっているのでしょう。
■さらに、試用期間にも注意!
さらに、中国では試用期間の設定にも注意が必要です。
労働契約3ヶ月未満⇒試用期間0
労働契約3ヶ月〜1年未満⇒試用期間1ヶ月以下
労働契約1年以上〜3年未満⇒試用期間2ヶ月以下
労働契約3年以上⇒6ヶ月以下
雇用者側のポイントとしては、雇用契約を3年間にして、6ヶ月という長めの試用期間を確保しておくこと!
そうすることで、従業員採用後
①6ヶ月以内、
②3年目
という2回にわたって、その従業員を雇用継続するかどうか、判断するタイミングが確保できるのです。
■さらに、試用契約~本採用の条件も明確に!
試用期間中に無償解雇して、トラブルになることも往々にあります。
そうならないためにも、試用契約から本採用する際の採用条件を明確にしておくこと!
例えば・・・
・日本語レベルの到達度
・本採用になるためのテスト実施等々。
これは、日本においても同じことがいえるでしょう。
いずれにしても、言語も文化も慣習も異なる中国・アジア進出を検討する際には、労務関係が大きなポイントであることだけは、留意しておきたいものです。
■4時間20分
香港空港を、16時15分発。
羽田空港に、21時35分着。
1時間の時差を入れて、フライト時間は4時間20分。
それにしても、羽田空港離発着で、本当に早くて便利になりました。
実は、今回の香港出張には、法人業務とともに、もう一つの業務がありました。
それは、ある顧問先企業の経営者から
「香港へ、居住しようと思うのだが、どうだろうか・・・」との相談を受けていたのです。
最近、このような相談が本当に増えてきました。
香港は、高卒初任給8,000HK$(1HK$=約10円)、大卒初任給10,000万HK$。
中国では、土地は国の所有なので、家だけを買うか、家を買わなければ香港政府から賃貸マンションを賃借することも。家賃は、2LDKで700~1,200HK$/月くらい。
水道代は200HK$/月、光熱費は400HK$/月、香港は温暖であまり暖房の必要がない分、日本よりも光熱費がかなり安くて住むのです。
外国人が住むような中心部のマンションは、家賃が30坪(100㎡)で約40,000~50,000HK$/月。かなり高額です。
超高級マンションを買うとなると、なんと1,500万HK$超もする物件も。
空港までの帰り道でも、様々な建築現場を見ましたが、毎日どこかで工事している・・・といった感じで、帰り間際まで、香港という街の勢いが感じられるのです。
日本人にとっては、物理的にも心理的にも、近くて親しみのある香港・・・。
果たして、先の経営者は、そんな香港を選択されることになるのでしょうか・・・?
2012年(平成24年)5月