TFSコンサルティンググループ/TFS国際税理士法人 理事長 山崎 泰

「やったもん勝ちから正しい成長へ、反日デモの渦中、緊迫の上海へ!」

14.05.30
【バックナンバー】山崎泰の月刊メッセージ(2014年5月まで)
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2012年10月9日21:09:00

■いざ、上海へ・・・
 
 9月16日正午、上海浦東(プードン)国際空港到着。

 成田空港から、所要時間3時間5分。東京⇔新大阪間の新幹線と大して変わらず、あっという間に上海に。

 浦東空港で、現地で様々な手配をしてくださる日本人税理士が、旅行会社スタッフとともに出迎えに・・・まずは無事に着いて、固い握手。
仙台出身のその先生は、一昨年、日本での税理士法人業務をすべてパートナーに任せて、妻子の了解を得て単身、渡中。年齢も私と同じ。
単身上海に乗り込んで、若い人たちと一緒に語学学校で学び、今では語学も含めて中国業務のエキスパート・・・日中間で、毎日のように視察準備の連絡を取り合ってきました。

「そんなすべてを任せられるパートナーと、すべて理解してくれる妻子か~~」と心の奥底で思いながら、ふと羨ましく思ってしまうことも・・・。


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■決死隊のような、運命共同体のような・・・
 

 視察ツアー総勢、12名。

 日本を発つ前から、現地からの細かな情報提供がありました。

「あきらかに日本人とわかるような格好で、大声を出して歩かないこと。できれば、背広にネクタイは止めたほうが良い。セミナー時も、ネクタイなしで・・・」等々。


 空港から上海市内へと向かうバスの中でも、現地の情勢に関する報告と注意が。 

「今日16日は、週末。上海では反日デモが予定されています。上海総領事館の周辺には近づかないように、領事館から連絡がきています。もっとも注意すべきは、18日。満州事変の発端となった柳条湖事件(1931年)から81年目にあたる9月18日には、中国全土で尖閣諸島国有化に反対する抗議デモがあります。」

 総領事館からメールで送られてきた上海、蘇州市内での反日デモのルートをなぞりながら、中国内での行動についてこと細かく注意が。

「とにかく、全員で安全に行動して、視察の目的を達成して無事に日本に帰ろう!」なにか決死隊のような、運命共同体のような・・・不思議なフシギな連帯感を背負って、上海視察がスタートしたのです。
 


■上海のマンション価格・・・東京とだいたい同じくらい

 
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 空港から市内に向かう途中で、いつも確認するのが上海の住宅建設状況。

 住宅や商業建物などの建設状況を見ていると、その時点での経済的な勢いを肌で感じることができるのです。
 上海、人口2,800万人。うち市民権を持つのは約2,000万人。
 上海市内に向かう途中に林立するマンションは、4万元~5万元/㎡。3LDK、120㎡くらいの広さなので、日本円にして5,000万円~6,000万円。
東京とだいたい同じくらいの価格帯でしょうか。中心部になると、6万元~20万元/㎡という高級マンションも。
(1元=約12円)

もちろん、中国は土地の所有権は国。建築主が、借地権を保有してマンションを販売。
マンション販売時はスケルトン渡しが多いというのも、中国ならではの特徴。
 
 

■上海の賃貸事情・・・いちいち水漏れに驚いていたら、上海には住めない??

 ちなみに賃貸事情は・・・。

 同行してくれている日本人税理士は、80㎡、家賃9,500元/月、一年契約で住んでいたものの、上海は貸し手市場で、短期間での値上げ要求にたまりかねて、100㎡、7,500元/ 月のより安いマンションに引っ越したとのこと。

 市内で30坪、家賃9万円なら、日本人の感覚からすれば、かなり格安感・・・。
でも、例えば上海で働く若い女性の月給は、手取りで3万~3.5万円くらい。家賃5万~6万円くらいのマンションを、2~3人でシェアして借りているケースが多いと聞くと、日本の相場との違いが肌でつかめます。

 上海では、この貸し手市場がかなり問題となっていて、契約ごとに1.5倍もの値上げ要求がされることも。それゆえ、飲食店などは3年~5年くらいで、別の場所に映っていくことも多いそう・・・馴染みになりかけたら、別の場所へというのでは、日本人的にはさびしい感じがします。

 加えて、上海の建築物は内装も含めて、かなり雑。水漏れ、床ごと落ちるなどといったケースも、上海に長く駐在していると、特段驚かなくなってしまうくらい。

 今では、上海でも、家具・テレビ・ソファ・ベッド付の賃貸マンションも増えてきましたが、内装や水のトラブルなどに関しても、中国は急いで作る粗製⇔日本は時間をかけてしっかり作る・・・という、根本的な考え方の違いを押さえておいた方がよいと思います。


 
 ■上海浦東新区

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 中国開放改革経済のシンボルともいえる、上海浦東新区。

 1990年4月、当地区の開発開放が宣言されて以来、開発が止まることを知りません。 
1,210㎢、居住人口412万、ともに上海市全体の1/5を占める地域で、なんと5,484億元の域内総生産(GDP)。なおかつ毎年、10%以上の高い成長率。

 新区を一望できる上海環球金融中心(ワールドフィナンシャルセンター)展望台から、日々、成長し続ける上海市の街並みを見下ろす視察ツアー一行。100階・474mの世界一高い展望台はじめ、そこまで世界一にこだわるか・・・と言いたくなるくらい、経済成長を至上命題とし、上(上昇志向)を見続ける上海市の姿が、随所に溢れているように感じました。

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■日本食フードコートは、閑古鳥・・・
 

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 残念だったのは、上海環球金融中心の地下1階から地下2階にかけての日本食フードコートが、閑古鳥だったこと。中国本土には、「はなまるうどん」「丸亀製麺」「ココイチ」などが出店し、中国人にもかなり人気になっています。

 市中心部のテナントだけに、家賃は売上高の30~35%、かなりの高負担。

 視察したのが、日曜日夕方だったせいもあろうかと思いますが、特に地下2階の日本食フードコートはとてもさびしく感じました。早くデモが落ち着いて、平日の昼間、ビジネスマンやOLでにぎわってくれれば・・・。

 訪れたとき、ちょうどかかっていたBGMが、いとしのエリー。日本の曲を聞けて嬉しい反面、大丈夫かなと思ったのは・・・私ひとりではなかったように思います。


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■日中経済を犠牲にしてでも、台湾問題を進める???
 
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上海でのセミナーでは、NAC名南の小島成樹・総経理の講演が欠かせません。上海に進出している日系企業の現状を詳細に把握された講演を受けて、参加者全員との熱心な意見交換がなされました。

 上海市は、高所得者層10%、中所得者層20%、低所得者層70%なる構造。

 その上海市民に、日本はどのように映っているのか・・・

「日本国内の空洞化が指摘されているが、上海に進出している日系企業の親会社は、進出していない会社よりも、雇用が伸びている。日本企業の信用力は、海外展開するうえでも、まさに大きな財産」との小島総経理の冒頭のメッセージに、一同大きくうなずきながら、セミナーがスタート。

 日中外交の距離が離れていくなか、日中経済まで離れていってしまうのか・・・

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「中国のもうひとつの懸案は、台湾問題。一つの中国を目指し、内向きの愛国心を煽るため、日中経済を犠牲にしてでも台湾を・・・ということは、あり得る。」
「しかし、共産党政権の中国は、政権が短期で代わってしまう日本とは異なり、5~10年レベルの長期的スパンで物事を見ていくことができる。だから、短視眼的に日中経済を犠牲にしてでも台湾問題をあせって進める、ということまではないのでは」
 
 
 

■給料は上がるが、生活はどんどん苦しくなっていく・・・
 
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上海市の最低賃金は1,500元(約18,000円)/ 月。失業手当は700元(約8,400円)/月。個人所得倍増計画で、最低賃金を15~20%引き上げる目標を掲げるも、米国の金融量的緩和の影響で物価上昇。

 日本の医療保険は、個人負担3割。一方で中国の医療保険は、個人は個人口座積立制、法人は医療基金という二階建て構造。世代間で支え合う構図ではなく、医療基金で足りなくなれば、積み立てておいた個人口座から支払わなければならない仕組み。だから、医療費に関する負担も重い・・・。

 給料は上がるが、生活はどんどん苦しくなっていく・・・そんな構図です。

 内需拡大しない大きな要因は、この社会保障費負担が重いことと、不動産価格の上昇。中国では、マンションは男性の親が用意する時代。しかし、一生懸命お金を貯めでも、不動産価格のほうが先に上昇していってしまう。

 内需拡大のためには、せめて年収の5倍くらいで家が買えるようにしないと・・・。

 中国の土地は国有地ゆえ、上海市では地方歳入の50%が土地売却収入。土地需要減退で、土地売却収入も大幅ダウン。不動産利回り2%<定期金利3.5%(現在は3.0%程度に下落)も影響していると思います。
 
 
20121009


■家電も売れなくなった・・・

 
 家電製品すら、売れなくなりつつあります。

 所得控除額引き上げなどの個人所得税減税、営業税から増値税にシフトしてサービス業も後押し、さらにインフラ整備型の公共投資等々・・・内需拡大のために中国政府は、かなりなりふり構わず景気対策を打っているようにも思えます。

 いずれにせよ、増値税、営業税そして関税も、経済が成長すればするほど税収が上がる(間接税的な)仕組み。それゆえ、中国政府は経済成長し続けることによる税収増⇒新たな投資・消費というサイクルを続けることを至上命題としているようにも思うのです。
 
20121011 


■トヨタが、今のシャープのようにならないとも・・・
 
 もはや、中国へ安い労働力を求めて生産投資という時代ではありません。中国から、もっと労働コストが安い東南アジアへ生産拠点を移すケースも。世界の工場といわれた広州からも、低付加価値型の労働集約産業はじめ約5,000社が撤退。

 そんななかでも、エコカーはじめ自動車市場は販売台数20%増という快進撃。

 2011年は、中国1,800万台>米国1,200万台+日本400万台。

 2012年は、1,940万台の予測。13億人の人口に対して、車保有台数は7,800万台。まだまだ、市場が広がる余地が大いにありそうです。とりわけエコカー対策として、通常は有料取得のナンバープレートを6万元も補助して、国・上海市あげて販売促進しているのです。

 中国自動車市場は、熾烈な販売競争・・・

「液晶テレビで、シャープが韓国・サムソンにやられたように、5年後、自動車でトヨタが今のシャープのようにならないとも限りません」

 そう語る小島総経理の言葉には、即座に否定できない説得力がありました。
 


 
■国営企業がスポーツカー!?

 
 国営企業向けに、いわゆるぜいたく禁止令が・・・。国営企業のお金で住宅、海外旅行、フィットネスクラブ、はては高級スポーツカーまで購入していた実態も。

 中国では、先にも高官の不正蓄財が大きな話題となりました。  

 株式市場の利益の半分を金融機関が占めている実態にもメスが入りつつあり、金利の自由化をはじめとした改革も行われつつあります。

 これまでは、貸出金利6.5%⇔預金金利3.5%。

 金利自由化で、貸出金利6%~4.2%⇔預金金利3.3%~3%に・・・国や国営企業の利益が最優先される時代から、国民の利益にも目を向けた改革がなされつつあるのです。

 しかしこのような表の改革が進められていくと、裏でヤミ金等が横行するのも、世の常。中国で銀行以外のノンバンク金利は、年10%~15%程度といわれていますが、なかには月利7%というヤミ金もあったようで・・・改革の裏で地下に潜ってしまう暗闇はどこの国でも同じなのかもしれません。
 

 
■やったもん勝ちから、秩序ある正しい成長へ
 
20121010 

上海のみならず、中国では中国人が中国人を信じていない・・・といわれることがあります。

 通常の企業間取引、ネット販売、人事採用等々、中国では“信用コスト”に多大な時間と労力を使っているという実態。

「2004年、上海赴任当初、先輩から言われたこと。通りを歩く時、マンションの脇を歩くな!マンションの上から、いつゴミが降ってくるかわからないから。そのくらい、上海人はマナーを守っていませんでした。」
「しかし今、スターバックスでも列をなして並んでいます。」

 小島総経理の後日談・・・

 実は、ここに日本の中国進出のカギ、日本製品が市場に浸透していったキーワードが隠されているように思うのです。

 逆に言えば、今後「よりマナーの良くなった中国」と、日本はどう戦っていくのか、「やったもん勝ちから、秩序ある正しい成長へ舵を切った中国」と対峙していけるのか・・・

 日本としては、より厳しい立場に置かれそうです。
 

 
■蘇州人民政府から、突然メールが・・・
 
 そして翌日9月17日、蘇州を訪問して、そんな厳しい最前線で奮闘しておられる日系企業の視察、そして本音の意見交換をしたい、と夕食懇談会でも意気込んでいました・・・蘇州人民政府から、同行している王暁敏(当社中国アジア業務担当)のもとに、こんなメールが届いていることも露知らずに・・・
 

 

Subject: 苏州工业园区

王小姐:
鉴于安全考虑明天你们不要来苏州了。
原定来访的其他日本团体也都取消计划了。
展厅也关闭,拟拜访的企业日方代表们也因安全原因回到上海了。
收到邮件请回电话。
太晶

 

王さん
 
 安全の面を考慮し、貴社の団体は明日、蘇州に来ないでください。
 元々訪問する予定のほかの日本団体も蘇州に来るスケジュールを全部キャンセルしました。
 蘇州工業園区の展示庁も閉まって、貴社が訪問する予定の日本企業の代表の方も身の安全を考え、上海に戻りました。
 メールが届いたら、お電話ください。
 
太晶

 

 

 果たして、我々上海決死隊はどうなることやら・・・この続きは、次号で。
 
                   2012年(平成24年)10月

山  崎   泰