TFSコンサルティンググループ/TFS国際税理士法人 理事長 山崎 泰

30年後の夢・・・一緒に描いてみませんか!

14.05.30
【バックナンバー】山崎泰の月刊メッセージ(2014年5月まで)
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2013年12月2日18:06:00

■1946年~1976年~そして2010年

 1976年(昭和51年)11月3日、PHP研究所から刊行された一冊の本。
 松下幸之助翁の著書「私の夢・日本の夢~21世紀の日本」。

 その刊行から遡ること、ちょうど30年前。
 1946年(昭和21年)11月3日、終戦直後の物心ともに荒廃、混迷した姿から、「平和(Peace)と幸福(Happiness)を通じて繁栄(Prosperity)を!」の願いを込めて、PHP研究所が創設されたのです。

その刊行から将来に向けて、およそ30年後の姿。 
「私の夢・日本の夢~21世紀の日本」は、2010年における日本のあるべき姿を描いているのです。
 決して学問的な未来予測にとどまらず・・・

 まさに幸之助翁らしく、自身で見届けることのできない将来をも心配して
 「21世紀は、こういう好ましい状態であってほしい」
 「21世紀には、こういう社会を実現していかなくてはならない」
 そんな、国家の姿が描かれています。

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■幸之助翁が描いた、社会保障のあるべき姿とは・・・

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 同書は、外国からの視察団が来日。
 日本各地を視察しながら、理想を実現させた日本について語り合う場面を設定し、物語風に進んでいきます。
 厚生省(現・厚生労働省)で、社会保障・年金について語り合う場面です。

 「他国では、社会保障費がうなぎのぼりで、30%~35%にもなりつつあるのです。
 老人年金が非常に増えてきて、まだこれでも足りないといわれているのです。
 それに比べれば、日本の場合は、ずいぶん少ないですね」

 「日本では、国民の不満は
出てこないのですか。

 もっと生活を保障しろとか、福祉施設を充実しろといった要望は・・・」

 「今の日本は、国としての一つの方針を立てており、
 国民もおおむねその方針を理解してくれているのです」

 「まず一つは、あくまでも国力にふさわしいものでなければならないということ。」

 社会保障というものは、国として大いに推進していかなければならない聖なる仕事ですが、
 国としての実力に相応した範囲でやっていくということです」

 「もし国力を超えて社会保障に力を入れれば、どうしても国民にかかる税率が高くなってきます。
 教育、医療もタダ、老人も子供も生活費はすべて保障する、というような社会保障を無理に進める
と、国民が負担しきれなくなって破綻をきたすということが、実際に出てくると思うのです」


 「もう一つは、人間の本性、人情に即した政策でなければならないということ」

 「至れり尽くせりの社会保障を長く続けていると、人間は怠惰になり、勤労意欲が衰えて、
 国民活動が不活発になり、やがてそれまで実施してきた社会保障が維持できなくなるばかりか、
 国家国民全体が脆弱になり、窮乏に陥るということになってしまうでしょう」

 「国民の勤労意欲を増進しつつ、しかも社会保障を充実していくという、
 その調和点を、人間性に照らして考え、実施していくことが大事だと思うのです」


■30余年も前に、すでに指摘されていた課題に・・・直面していないか?

 理想の姿として描かれた2010年から、すでに3年が過ぎた2013年。

 →国力を超えて、社会保障費がうなぎのぼりになっていないだろうか?
 →社会保障費が重すぎて、国民にかかる消費税負担を上げざるを得ないのでは?
 →このままの年金制度を無理に進めると、将来世代が負担しきれなくなるのでは?
 →生活保護費と基礎年金が逆転して、勤労意欲が失われている事態は?
 →社会保障が維持できなくなるばかりか、国家国民全体が疲弊していないか?

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 まさに、
 あくまでも、国力にふさわしいレベルで、かつ国民の勤労意欲を増進しつつ、しかも社会保障を充実していく30余年も前に、すでに指摘されていた課題に・・・
 今、現実の壁として直面する事態になってしまっているように思えてなりません。

■超高齢社会でも「持続可能な年金制度」を考える・・・


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 日本を含む多くの国では、賦課再配分方式により、世代間で扶養する年金制度をとっています。
 すなわち、今働いている世代が、年金基金などに保険料を納付し、その基金を資金源として、今の退職者に対して再配分が行われているのです。
 このような年金制度は、国によって管理・運営されているので、税金による財政的な援助も受けているのです。
 世代間で支える年金制度をとる以上、退職者の年金受給額が、これまで働いてきた期間に納付した年金負担額を下回る事態は、構造的に起きうるわけです。
 特に、超高齢社会が進めば進むほど、事態は深刻になります。


■シンガポールの「中央積立基金制度」

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 これに対して、シンガポールでは積立方式による年金制度をとっています。
 給料から天引きされた拠出金が、個人口座に積み立てられていきます。
 この年金制度は、「中央積立基金(Central Provident Fund)」と呼ばれ、すべてのシンガポール人就業者は、CPFへの加入が義務付けられます。
 給与から天引き、長年にわたってCPF口座に積み立てられた拠出金は、55歳になると、積立金+利子の受給額を引き出すことができるのです。
 自分の拠出金を、自身の口座で積立・管理していくわけですから、年金受給額が年金拠出額より少なくなることはあり得ません。
 むしろ利子が付くくらいです。
 シンガポールでは、就業者が強制拠出した資金を、国が運用することが認められているので、国にとっても財政的な基盤になりうるわけです。
 その意味でも、CPFはシンガポールの経済を発展させ、世界でも最も成功した年金制度と称されています。

■日本の賦課年金制度 ⇔ シンガポールのCPF

日本の年金制度イラスト

日本の年金制度は・・・
1、「国民年金」「厚生年金」という、二つの強制加入の公的年金制度
  ⇔「中央積立基金」は、一定以上の収入のある就業者が強制加入

2、年金基金は一括運用、利回りは相場によって決まる
  ⇔拠出した積立金には個人口座ごとに管理。2.5%超の利子がつく

3、「国民年金」は個人負担、「厚生年金」は労使折半負担
  ⇔「中央積立基金」は、「労使折半」で積み立てる

4、年金保険料は、社会保険料として所得控除の対象
  ⇔「中央積立基金」は、積立金+利子ともに「非課税」

5、納付した保険料>受給する年金額の事態あり
  ⇔納付した保険料<受給する年金額

6、年金加入して保険料を納付した期間を満たした場合、65歳から受給資格。
  ⇔55歳以上で、積立金利用可能に。
  ⇔55歳未満でも、住宅購入資金・教育費・医療費等に充てることが可能

■もちろん、良いことばかりではないCPF・・・

 CPFでは、なによりも、「拠出した金額>受け取る年金受給額」という事態のないことが、制度としての特徴。
 世代間で支え合う仕組みではないからです。
 日本のように年金制度の綻びを税金により補てんするという仕組みでもないため、
 日本のような財政負担という事態もありません。
 さらには、利回りも保証されています。

 でも、良いことばかりではないのも事実・・・
 CPFは、年金受給前に住宅購入資金等に充てることを認めているので、55歳になった段階では年金積立不足、安心した老後が暮らせないという事態も・・・。

■「日本型」+「シンガポール型」を併用する時期!

 もう一度、冒頭でご紹介した「私の夢・日本の夢~21世紀の日本」のくだりを読み返してみたいと思います。

 日本の国力に会った社会保障・年金制度。
 そして、一定程度の自己努力。
 幸之助翁が30年前に指摘された、社会保障・年金を考える2つの視点!

 私自身は、やはりかねてから主張しているように・・・
 「個人の自立」「世代間の不公平解消」という点に加えて、「年金への国の財政負担を軽減」するという観点からも、日本型の「世代間扶養型の賦課年金制度」に加えて、シンガポール型の「自助努力型の積立方式」を併用する時期にきていると思えてなりません。

20131218 

今年も一年間、本当にお世話になりました。
 年末に向けて、寒さが増します。くれぐれもお体にはご自愛くださいませ。


      平成25年(2013年)12月
                  山  崎   泰