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カンヌライオンズ2016から、世界の最新広告コミュニケーション事例のご紹介。その3

16.12.27
ビジネス【マーケティング】
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広告界の一大イベント“カンヌライオンズ2016”受賞作の特徴は、以下の3つでした。

(1)“現実世界での実験”を大掛かりな形で行ったもの
(2)データ&テクノロジーの、身体化・実体化
(3)デジタル時代だからこその“超アナログな実感訴求”

今回は、前回に引き続き(2)の例を1つ紹介し、その後に(3)の事例を紹介していきます。
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飛行機や宇宙船のメーカーであるロッキード・マーティン社による「The Field Trip to Mars」(アウトドア部門金賞、サイバー部門金賞など)も、(2)の特徴を持った話題作です。

ロッキード・マーティン社は「遠くない将来に火星旅行ができるようになる」と信じ、日夜、宇宙船の研究開発に努めています。同社は「今の小学生が火星旅行に参加する最初の世代になる」と設定し、小学生のスクールバスに仕掛けを施しました。

「いつものように学校に行く」と思っている小学生たち。ところがスクールバスの車窓に映し出されるのは、リアルな火星の風景でした。バスが右に曲がれば火星の風景も右に曲がり、火星の風景がバスの走行に合わせて、身体感覚として感じられるようにしたのです。しかも、ゴーグルもヘッドセットもなく、クラスメートたちと一緒にごく自然に、火星旅行を体験してもらったのです。

最新のテクノロジーを、小学生に対して身体化・実体化させ、その様子をウェブ動画等で公開することで、動画を視聴した大人たちに対しても、「この子供たちが大人になるころ(100年後ではなく10~20年後にでも)には、火星旅行が実現するのではないか」と感じさせることを可能にしたと言えるでしょう。


次に(3)の特徴を持つ受賞作を紹介していきましょう。(1)ほど大掛かりでもなく、(2)のようにテクノロジーを駆使するわけでもなく、あくまでも実感にこだわった“超アナログな実感訴求”の受賞作たちです。これらの受賞作は、「“ちょっとした思いつき”とも言えそうなワンアイディアが大きな成果をもたらしている」という点で、われわれの日々のビジネスにも大変参考になりそうです。

プロモ&アクティベーション部門金賞やサイバー部門金賞などを受賞した「Manboobs(男のオッパイ)」がその代表例です。クライアントは、MACMAというアルゼンチンの乳がん啓発団体。アルゼンチンでは乳がん検査の受診率が低く、自分自身で簡単に行うことのできる“セルフチェック”への関心が低い現状があります。そんな中でセルフチェックの動画を通じて、乳がん検査の大切さを広めたいのですが、女性の乳房をそのままソーシャルメディアに流すわけにもいきません。

そこで彼らが考えたのが、裸の女性が太めの男性を抱きかかえる形で登場すること。起用されたのは、髭面で胸毛も豊富な太っちょの男性の乳房を、女性の乳房に見立てるという方法でした。顔の見えない女性の細い指が、この男性の乳房を触りながら、セルフチェックの解説をしています。映像は不思議にユーモラスで、4000万回以上視聴されました。多くのメディアでも取り上げられ、乳がん検診についての社会的関心を高めたと評されています。

次回は「カンヌライオンズ2016から、世界の最新広告コミュニケーション事例のご紹介。その4』をお届けします。



佐藤達郎のマーケティング論 

[プロフィール] 
佐藤 達郎(さとう・たつろう) 
多摩美術大学教授(広告論/マーケティング論)、コミュニケーション・ラボ代表。2004年カンヌ国際広告祭日本代表審査員。浦和高校、一橋大学、アサツーDK、(青学MBA)、博報堂DYを経て、2011年4月より現職。著書に、『NOをYESにする力!』『アイデアの選び方』『自分を広告する技術』『教えて!カンヌ国際広告祭』がある。 


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