コーディアル人事労務オフィス

不利益変更を行う場合に注意しておきたいこと

23.03.28
ビジネス【労働法】
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コロナ禍を得て日本経済は回復傾向にあるといわれていますが、厳しい経営状況が続いている企業も決して少なくありません。
そのため、「事業の縮小を検討している」という話を耳にすることもしばしばありますが、その際、併せて検討したいのが就業規則の見直しです。
労働基準法では従業員の不利益になるような、就業規則の『不利益変更』は原則として禁止されています。
しかし、変更に合理性がある場合は、認められることもあります。
今回は、就業規則の不利益変更のルールや、合理性を判断する要件などについて解説します。
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労働条件の不利益変更とは何か

就業規則とは従業員の労働条件などを定めた規則のことで、常時10人以上の従業員を使用する企業は就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署長に届け出なければならないと、労働基準法第89条において定められています。
就業規則は一度作成して届け出ればよいといったものではなく、法改正や経営環境が変化したタイミングなどで見直す必要があります。
就業規則を変更する場合は、労働者の過半数で組織する労働組合か、もしくは労働者の過半数の代表者の意見を聴取したうえで、変更したものを所轄の労働基準監督署長に届け出ます。

このとき、労働組合や代表者の意見を聞く必要はありますが、同意を得ることは義務ではありません。
では、企業は意見を聞きさえすれば、就業規則を自由に変更することができるのかといえばそうではありません。
また、従業員の賃金や手当、休暇や就業時間といった労働条件などについて、現在の条件よりも従業員に不利になるような変更を不利益変更といい、原則として不利益変更は禁止されています。

では、「業績が悪化し、倒産しないよう持ちこたえるために、賃金や手当を減らしたい」といった場合はどうすればよいのでしょうか。
このようなケースを想定し、労働契約法では不利益変更が認められる要件を以下のように定義しています。

(1)企業と従業員との合意があるとき
従業員と話し合って合意を得ることができれば、不利益変更が認められることがあります。合意がなく一方的に就業規則を変更した場合には、不利益変更は認められません。また、不利益の程度が大きい場合や、労使間で結んでいる労働契約や労働基準法に反する変更であった場合は、合意があったとしても無効とされます。

(2)変更後の就業規則を周知させ、かつ変更内容が合理的なものであるとき
従業員との合意がなくとも、変更後の就業規則を従業員に周知すると同時に、その内容に合理性がある場合には、不利益変更が認められることもあります。


不利益変更が認められる合理性の要件


前述したように労働条件の不利益変更が認められるか否かは、その合理性によるものとされており、その判断は、以下の項目が考慮要素とされています。

・労働者の受ける不利益の程度
・労働条件の変更の必要性
・変更後の就業規則の内容の相当性
・労働組合などとの交渉の状況、経緯
・その他の就業規則の変更に係る事情

これらの要素は、「いずれか一つを満たせば認められる」というものではなく、また、「すべてを満たさなければならない」というものでもありません。
その基準は個別のケースによって異なりますが、過去の判例によって、ある程度の目安を知ることはできます。

たとえば、給与の引き下げや手当のカットは従業員にとって影響が大きいため、その合理性は厳しく判断されるケースが多いと考えられます。
一方、就業時間を1時間前倒しするといった変更は、そのほかの条件にもよりますが、給与カットに比べて認められやすいケースが多いでしょう。
年間休日数の削減による労働日数の増加などは、給与引き下げよりは要件は緩くなりますが、就業時間の前倒しよりは厳しく判断されると考えられます。

また、賃金や退職金のカットなどについては、数十回にわたって労使交渉を行ってきた、その間に経営状況について説明を尽くし、役員数の削減や役員報酬の減額など、可能な措置をすでに講じてきたといった実績がある場合、賃金引下げなどが認められたケースもあります。

一般的に、労働条件の不利益変更は安易にできることではありませんが、経営状況によっては必要なケースもあるでしょう。
やむを得ず不利益変更を行う場合は十分に従業員と話し合い、できる限り不利益を減らすように努めながら、経営の立て直しにつなげていきましょう。


※本記事の記載内容は、2023年3月現在の法令・情報等に基づいています。