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『過労死ライン』とは? 心身の健康を害する長時間労働をなくす

21.04.13
ビジネス【労働法】
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『過労死ライン』とは、健康や精神に障害が起き、死亡につながりやすくなると考えられている時間外労働・休日労働時間のことです。
わが国においては過労死が深刻な社会問題となっており、諸外国と比べても労働が長時間化しやすいと指摘されていることを背景に、定められました。
過労死ラインは、労働災害の認定において過労自殺・過労死の判定に用いられることもあり、労務管理においては欠かせない知識といえます。
今回は、この過労死ラインについて解説します。
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2019年に過労死で労災認定を受けた人は174人

『過労死』とは、過重な仕事が原因で発症した脳・心臓疾患による死亡や、仕事による強いストレスが原因で発病した精神障害によって引き起こされる自殺などを指します。

そもそも、日本人は体を壊すほど働いてしまうことがあるので、過労死という言葉が使われるようになりました。
海外ではあまり起きないことであるため、日本語の『Karoshi』が、『過重労働が原因の死』を表す言葉として国際的に使われるようになっています。
それほど日本の長時間労働は特殊なのです。

では、実際にどれくらいの数の過労死が起きているのでしょうか。

厚生労働省が2020年6月に発表した『過労死等の労災補償状況(2019年度)』によれば、過労死等に関する労災の請求件数は2,996件でした。
前年度比で299件増加しており、前年度よりも1割ほど多くなっています。

また、支給決定件数も725件となり、前年度より22件増えました。
過労により死亡(自殺未遂を含む)したと認定された人は、前年度より16人増え、174人にのぼっています。

この結果からもわかるように、日本では過労で精神や肉体の健康を害してしまうケースが多数存在しています。
特に多い要因の一つが長時間労働です。

労災認定基準においては、時間外労働が月45時間を超えて長くなればなるほど、業務と疾患発症の関連性が強まるとされています。
特に、以下のような長さを超える時間外労働をしている場合には、因果関係が認められやすいといわれています。

●疾患の発症前の1カ月間におよそ100時間
●発症前の2カ月間~6カ月間にわたって月80時間

この『100時間と80時間を超える時間外労働』こそが、病気や死亡リスクが高まるとされる過労死ラインなのです。

過労死ラインを日々の労働時間として置き換えてみると、月に100時間の時間外労働であれば、月に20日間の出勤で、1日5時間の時間外労働を従業員に課すことになります。
法定労働時間は1日8時間と決まっているので、そこに時間外の5時間をプラスすると、1日あたり13時間となります。
仮に始業が朝の8時だとしたら、1時間の休憩時間を間にはさんだとしても、夜の10時まで働いていることになるのです。

業務内容に関わらず、14時間もの拘束は従業員に健康被害をもたらすことが明白です。
過労死ラインを超えて働くということは、肉体的にも精神的にも、かなりリスクの高いことなのです。

ちなみに、健康被害があった場合、過労死ラインを超えていなくても長時間労働を原因とした労働災害と認められることがあります。
過労死ラインを基準にするのではなく、長時間労働を減らすという考え方が大切です。


長時間労働の削減を目指そう

度を越した長時間労働は労働基準法違反でもあります。

法定労働時間を超えて従業員を働かせるには、労働基準法第36条に定められた、いわゆる36協定を労使間で締結する必要があります。
しかし、36協定にも上限はあり、原則的に月45時間・年360時間を超える時間外労働をさせてはいけないと労働基準法では定めています(一部の産業では適用外)。

この月45時間を超過した場合は、特別条項付き労使協定を締結していない限り違法となり、労働基準監督署から指導が入ります
悪質な場合は雇用主に対し、6カ月以下の懲役刑または30万円以下の罰金刑が科されることになっており、違法な長時間労働が行われている実態があれば、すぐに改善が求められます。
特別条項付き労使協定を締結している場合でも、月100時間未満(法定休日を含む)、2~6カ月平均で月80時間以内(法定休日を含む)、年720時間以内となっています。

長時間労働を減らすために取り組めることは多くあります。
たとえば、業務内容を再度確認して無駄な手順を省く、人材を補充する、年次有給休暇の取得を促進するなどです。

厚生労働省では、『労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト(https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11202000-Roudoukijunkyoku-Kantokuka/0000138040_1.pdf)』を公開しています。
また、働き方や休み方に関する改善のアドバイス支援などもあります。
これらを上手く活用しながら、長時間労働削減に向けて取り組んでいきましょう。


※本記事の記載内容は、2021年4月現在の法令・情報等に基づいています。