コーディアル人事労務オフィス

『建築物の外観・内装デザイン』も意匠登録可能に-2020年4月から改正意匠法

20.02.04
業種別【建設業】
dummy
2019年5月に成立・公布され、2020年4月から施行されることとなっている改正意匠法では、『建築物の外観・内装デザイン』が新たに意匠登録できるようになりました。
これによって建設業でも意匠登録が身近になると考えられます。 
そこで今回は、意匠登録の基本概要と改正のポイント、建築物においてなぜ意匠登録が求められたのかなどの背景について解説します。
dummy
これまでの建築物デザインの保護手段

街を見渡すと、都心を中心に個性的な建築物が数多く建設されています。
企業の多くが建築物のデザインを重視しており、そして、デザインによって個性や強みを打ち出そうとしています。
このような建築物のデザインは、どのように保護すればよいのでしょうか。

物のデザインを保護するための代表的な法律は『意匠法』です(ちなみに、意匠法は英語でDesign Actであり、意匠=デザインのことです)。
しかし、改正前の意匠法における『意匠』の定義は、『物品(物品の部分を含む。第八条を除き、以下同じ)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。』とされており、この『物品』は動産を意味します。
そのため、不動産である建築物はこれに含まれず、意匠法の保護対象ではないとされていました。

建築デザインの保護については、以上のように意匠法で保護できなかったため、著作権法上の『建築の著作物』としての保護が試みられていました。
しかし、裁判例では、建築の著作物として保護される建築物は、建築芸術といえるような芸術性・美術性のある建造物に限定されています。
つまり、芸術性・美術性のある建築物は著作権法による保護が可能で、類似した建築物が建てられた場合に著作権の侵害を理由に建築中止や損害賠償を求めることができますが、芸術性・美術性が乏しい建築物はそういった手段が取れません。


実用的建築物に関する権利保護ニーズの高まり

このように、建築物デザインについては意匠法の対象とならず、また、芸術性・美術性の高くない実用的な建築物は著作権保護の対象にもならないため、権利保護が不十分な状況でした。
そのため、建築物の外観・内装デザインを真似されたことによるトラブルも発生していました。

このような状況が見直される大きなきっかけとなったのが『コメダ珈琲店』の事件でした。
コメダ珈琲店は特徴ある建物や内装デザインの店舗を展開していますが、この外観と類似した店舗を建築・展開する飲食店が現れたのです。
しかし、コメダ珈琲店は意匠法では訴えることができませんし、店舗の外観はあくまで実用的な建築物デザインであるため著作権による保護を求めることも困難です。
そこで、コメダ珈琲店は不正競争防止法違反を理由に訴訟を行ったのです。
こうしたことから、実用的な建築物の外観や内装デザインについて、デザイン保護の代表的な法律である意匠法によって正面から保護するというニーズが高まっていました。
これが今回の改正内容に影響を与えました。


今回の意匠法改正によりもたらされる変化は?

改正意匠法は2020年4月から施行されます。
今回の改正の概略をまとめると以下の通りです。

(1)建築物の外観・内装デザイン等が新たに保護対象となった
前述の建築物の外観・内装デザインや、物品に記録・表示されていない画像デザインも意匠登録が可能になりました。
保護された意匠は独占的に製造することができ、権利を侵害された場合には行為の差し止めや損害賠償の請求などの権利行使が可能なので、意匠権による保護できるデザインの範囲が拡大したといえます。

(2)関連意匠制度の見直し
一つの意匠をもとに多くのバリエーションを有する意匠が生まれることがあります。
これを『関連意匠』と呼びます。
元となった意匠(これを『本意匠』といいます)と合わせて関連意匠まで意匠登録することによって類似のデザインを使われないようにすることを可能とする制度です。
これまでは、関連意匠の出願期限は本意匠の公報発行日前(通常、出願から約8カ月程度)までとなっていました。
しかし、今回の改正で、出願可能期間が本意匠の出願日から10年に延長されます。
また、これまで関連意匠は、あくまで本意匠と定めた意匠に類似していなければならず、関連意匠にのみ類似する意匠を関連意匠として登録することができませんでしたが、今回の改正により、これも認められるようになります。

(3)意匠権の存続期間が出願日から25年に変更
意匠権により、意匠の製造や販売を独占できるほか、権利侵害に対しても損害賠償の請求などの権利行使が可能です。
しかし、存続期間が終了すれば意匠権も消滅することになり、それ以降の権利行使はできなくなります。
今回の法改正によって、意匠権の存続期間が『設定登録の日から20年』から『出願日から25年』に変更となりました。
保護開始の時点が前倒しになりましたが、意匠登録までの審査期間は概ね1年以内といわれていますので、保護期間が延長されたといって差し支えないでしょう。

(4)その他
その他に、意匠登録出願手続の簡素化、間接侵害(意匠権の侵害を誘発するような準備的行為等を侵害とみなす制度)の規定の対象拡大などの改正もなされています。

今回の改正は、いずれも意匠権を強化し、利用しやすくする内容のものであり、特に、建築物の外観・内装デザインについて、意匠登録によって権利を守るという方法が取れることとなったのは大きな変化です。
個性的な外観や内装デザインの店舗展開をしている飲食店やアパレルブランド、雑貨店などにおいては、建築物のデザインを真似されることは死活問題です。
今後は、意匠権による建築物デザインの権利保護促進が期待されるでしょう。


※本記事の記載内容は、2020年2月現在の法令・情報等に基づいています。