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『振込手数料』は誰が払う? 受注者負担は違法になるリスクあり

26.05.26
ビジネス【企業法務】
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これまで発注者と受注者の間で『商習慣』として行われていた「振込手数料の差引き」が、今後は従来どおりの差引き処理が認められるとは限らず、違法になる可能性があります。
2026年1月から新しく施行された『製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律〔通称:中小受託取引適正化法(取適法)〕』や、2024年11月に施行された『特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)』では、こうした商習慣が「代金の不当な減額」とみなされるかもしれません。
なぜ振込手数料の扱いを抜本的に見直さなければならないのか、その法的背景と具体的な対策について解説します。

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取適法とフリーランス法による規定

民法において、金銭債務の支払いは原則として「持参債務」とされています。
これは、債務者(代金を支払う側)が債権者(代金を受け取る側)の住所や指定する場所へ代金を届けなければならないというルールです。
現代のビジネスにおいては銀行振込が一般的ですが、この「届けるための費用」、つまり振込手数料は「支払う側が負担すべきもの」というのが法的な基本原則です。

しかし、これまでの日本の商習慣のなかには、「振込手数料は受注側が負担するもの」という暗黙の了解も存在しており、振込手数料が差し引かれた額が受注側に支払われるというケースが少なからずありました。
ところが、この商習慣は近年の法整備によって、明確に否定されつつあります。
もし契約書に明記がないまま、あるいは一方的な通告だけで手数料を差し引いて振り込んでいる場合、それは本来支払うべき代金の一部を支払っていない「未払い」の状態であると判断されかねません。

その根拠の一つとなるのが「取適法」です。
これまでの「下請法」を改正・強化し、2026年1月1日から新たにスタートした「取適法」は、事業者間における適正な価格転嫁と取引の公平性を図ることを目的としており、旧来の下請法よりも適用範囲が大きく拡大されました。

下請法からの大きな変更点として、これまでの資本金要件だけでなく、新たに「従業員数要件」が設けられたことがあげられます。
これにより、資本金の額にかかわらず、一定以上の従業員を抱える企業であれば、これまで以上に多くの取引がこの法律の規制対象に含まれることになりました。

この取適法の第5条では「製造委託等代金の減額」が厳格に禁止されています。
受注者に落ち度がないにもかかわらず、発注者の都合で契約金額から一定額を差し引く行為は、たとえそれが振込手数料の名目であっても、「不当な減額」と見なされるリスクが高くなります。

さらに注意が必要なのが、特定の組織に属さない個人事業主との取引を保護する「フリーランス法」です。
この法律では、発注側の資本金要件が撤廃されており、従業員を一人でも雇用している事業者が個人のフリーランスに業務を委託する場合など、広い範囲で適用されます。
取適法と同様に、フリーランス法の第5条においても、正当な理由のない「報酬の減額」は禁止されていることに注意が必要です。

違法と認定されたときのペナルティ

手数料の差引きが「不当な減額」や「買いたたき」として違法認定された場合、発注者にはペナルティが課せられます。

まず、公正取引委員会や中小企業庁からの立入検査が行われ、違法性が確認されれば「行政指導」や「勧告」が出されます。
これに伴い、過去にさかのぼって差し引いた手数料の「返還命令」が下されることもあります。
一回あたりの金額は小さくても、取引社数や期間を合わせれば、返還額が数百万円にのぼるケースもあります。

さらに、勧告に従わない場合や違反が特に悪質であると判断された場合に、事業者名が公表される可能性もあります。
コンプライアンス違反による実名公表は、特に企業のブランドイメージを落とします。
SNSなどで拡散されれば、新規採用や既存顧客との取引にも悪影響を及ぼし、経営そのものを揺るがす事態になりかねません。

現状、自社において振込手数料を受注者負担にしているのであれば、すぐにでも「発注者負担」への切り替えを検討しましょう。
これは法的なリスクを回避するだけでなく、取引先との信頼を強固にし、結果として安定的な関係の構築と維持にもつながります。

具体的には、まず経理システムの変更が必要です。
自動的に手数料を差し引く設定を解除し、全額を振り込む体制を整えなければなりません。
同時に、現在使用している契約書や発注書の雛形を見直し、「振込手数料は発注者の負担とする」という旨を明記します。
また、過去の取引についても、一方的に不利益を強いていなかったか見直します。

これからは公正な対価を支払う姿勢こそが、持続可能な成長に直結します。
企業としての信頼を失わないよう、新しい商慣習への適応を進めることが重要です。


※本記事の記載内容は、2026年5月現在の法令・情報等に基づいています。