KUMA Partners株式会社

2026年4月改正法適用! 高齢スタッフを守る「労災防止措置」の実務とは

26.05.05
業種別【介護業】
dummy

介護業界におけるシニア層の活躍は、もはや「補助的な戦力」ではなく、事業継続に不可欠な存在となっています。
しかし、その一方で加齢に伴う身体機能の変化による労働災害のリスク管理が、経営上の大きな課題として浮上しています。
特に2026年4月からは、改正労働安全衛生法に基づき、高齢労働者の特性に配慮した安全衛生管理体制の構築が事実上義務化されました。
今回は、介護業界における高齢労働者活用の現状と、高齢労働者が安全に働き続けるために事業所が講じるべき労災防止措置について考察します。

dummy

介護現場を支えるシニア層の力

介護保険制度が開始された2000年以降、介護に対する需要は右肩上がりに増加してきましたが、介護業界を支える労働力不足は一層深刻さを増しています。
そのような状況下で、60代以上の労働者は豊富な人生経験と高いコミュニケーション能力を武器に、事業継続に必要不可欠な存在として介護現場の貴重な担い手となっています。
2024年度の介護労働実態調査の結果によると、シニア層の割合や労働実態について以下のようなデータが出ています。

65歳以上の労働者割合(職種別)
・訪問介護員(ホームヘルパー):24.0%
  約4人に1人が65歳以上。
・介護職員(施設など):10.9%
  施設系でも約1割強が65歳以上。

この調査結果からみえる最大の特徴は、「訪問介護」における高齢化の深刻さと、業界全体での「65歳以上の雇用」が一般化していることです。
これらのデータから、シニア層の介護労働者がいなければ日本の介護業界は立ち行かなくなる可能性があるといえます。
また、事業所の雇用実態結果でも65歳以上を雇用している事業所は約70%となっており、年金受給世代を貴重な戦力として受け入れていることがわかります。
利用者にとっても、年齢の近いスタッフは価値観を共有しやすく、安心感につながるというメリットもあります。
一方で、スタッフの高齢化は、現場における「安全管理」の難易度を押し上げている側面も否定できません。

シニア層の労働者は、介護事業所にとって貴重な戦力となっていますが、一方で、高齢労働者の増加に伴い、労災事故の発生件数も増加傾向にあります。
厚生労働省が発表した「令和6年労働災害発生状況について」によると、労働災害による休業4日以上の死傷者数は、60歳以上の層で高い割合(30.0%)を占めているというデータが出ています。
介護事業における被災状況も同様に高齢労働者が高くなっており、次のような介護現場でのリスク要因が労働災害につながっている可能性があると考えられます。

(1)身体機能の低下
筋力、平衡感覚、視力・聴力の低下により、段差や濡れた床でのつまずきや転倒が発生しやすくなる。
(2)腰痛の発症
長年の蓄積や、無理な姿勢での移乗介助により、重度の腰痛を引き起こすケースが目立つ。
(3)判断の遅れ
突発的な事態(利用者の急な動きなど)に対し、反応速度が追いつかず、自身や利用者が負傷するリスクがある。

介護事業所における「労災防止措置」とは

シニア層が安全に長く働くためには、単なる個人への注意喚起に頼るのではなく、組織的な「仕組み」としての防止策が必要です。
2026年4月に施行された改正法で、高年齢労働者の身体的特性に配慮した環境整備が全事業者の努力義務となっています。

(1)物理的環境の整備
・福祉用具の積極活用:ノーリフティングケア(持ち上げない介護)を徹底し、スライディングボードや介護リフトを導入することで、腰部への負担を物理的に排除する。
・照度と足元の安全確保:施設内の照明を明るくし、わずかな段差にもスロープや識別テープを設置することで、転倒事故を未然に防ぐ。
(2)作業管理と配置の工夫
・エイジフレンドリーなシフト編成:夜勤回数の調整や、連続勤務の制限など、疲労が蓄積しない勤務形態を検討する。
・業務の切り分け:重度の介助が必要な業務は若手とペアで行う、あるいはシニア層には生活支援(掃除・調理)を中心に担当してもらうなど、体力に合わせた職務配置(ジョブ・マッチング)が有効。
(3)健康管理と教育の徹底
・身体機能チェックの実施:定期的な健康診断、握力や片足立ちテストなど、自身の身体能力の現状を把握する機会を設ける。
・「ヒヤリハット」の共有:高齢労働者が感じた「ヒヤリハット」を積極的に収集し、現場の改善に活かす。
特に「以前はできたことができなくなった」という主観的な気づきを拾い上げることが重要です。

今回の法改正により、企業には「高齢労働者の身体特性に応じた安全健康管理」が、これまで以上に厳格に求められるようになりました。
高齢労働者が持つ経験やコミュニケーション能力を活かしつつ、身体的な安全を保障することは、職場全体の「働きやすさ」の向上にも直結します。
介護ロボットやICTの導入による負担軽減を進めると同時に、年齢を重ねても安心して働ける環境を整えることが、今後の介護経営の安定と持続につながるのではないでしょうか。
「シニアが安心して働ける職場」こそが、これからの採用競争力を決めるカギとなるのです。


※本記事の記載内容は、2026年5月現在の法令・情報等に基づいています。