KUMA Partners株式会社

発注者や受注者との建設トラブルを解決する『建築ADR』とは

25.01.07
業種別【建設業】
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建設工事を巡るトラブルを解決する手段の一つとして、裁判がありますが、それ以外にも「建築ADR」という方法があります。
ADRとは「Alternative Dispute Resolution」の頭文字を取ったもので、「裁判外紛争解決手続」と訳すことができます。
裁判以外のトラブルの解決手段である建築ADRは、工事の発注者でも受注者でも利用することができ、いくつか種類があります。
もし、建設トラブルが発生した場合に利用を検討したい建築ADRの詳細について説明します。

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建築ADRを利用できる弁護士会と行政の審査会

工事代金の未払いや完成した建造物の不具合、追加工事に、工事の中断まで、建設工事にはトラブルがつきものです。
こうした建設トラブルを解決する手段に民事訴訟(民事裁判)がありますが、裁判は費用もかかりますし、解決までに長い時間を要することがほとんどです。
そこで、裁判の前に利用を検討したいのが「建築ADR」です。

建築ADRは当事者同士の話し合いによってトラブルの解決を目指す制度で、弁護士や建築技術の専門家などで構成された中立・公正な立場の紛争処理委員が間に入り、話し合いを進めていきます。

裁判よりも手続きが簡単で、費用はそこまでかからず、解決までのスピードも早いというメリットがあります。
また、原則として非公開で行われるため、企業秘密なども守ることができます。

ただし、建築ADRには裁判のように出頭義務がないため、相手に出頭を拒否されたら、利用することができません。
もし建築ADRによる解決が不可能であれば、裁判を行うことになります。

建築ADRを運営する機関には、弁護士会が設置した「住宅紛争審査会」や、国土交通省と各都道府県が設置した「建設工事紛争審査会」などがあります。
弁護士会による「住宅紛争審査会」は民間のADR機関で、主に評価住宅と保険付き住宅に関する紛争を取り扱います。
たとえば、住宅の不具合に関する補修の方法や金額についてのトラブルや、工事代金および工期の食い違いを巡るトラブルを解決する場合などに向いています。

一方、建設工事紛争審査会は、売買契約や設計契約以外の建設工事の請負契約を巡る紛争に特化した公的機関です。
住宅以外の建設トラブルも扱っており、元請と下請など事業者間で起きたトラブルの解決に適しています。

建設工事紛争審査会は管轄が国土交通省と各都道府県に分かれており、当事者の片方、もしくは両方が国土交通大臣許可の建築業者、もしくは当事者の両方が建築業者で許可した都道府県知事が異なる場合は、国土交通省に設置された「中央建設工事紛争審査会」が当事者からの申請を受理します。
また、当事者の片方だけが建築業者で都道府県知事許可の場合、もしくは当事者の両方が建築業者で許可した都道府県知事が同じ場合は、各都道府県に設置された「都道府県建設工事紛争審査会」が受理します。

あっせん・調停・仲裁の違いと必要な手数料

住宅紛争審査会と建設工事紛争審査会は、どちらも紛争処理委員が「あっせん」「調停」「仲裁」のいずれかの手続きで、紛争の解決を図ります。
手続きの種類は申請者が選べます。

あっせんと調停は当事者同士の歩み寄りによる解決を目指し、仲裁は裁判所に代わって判断を下す手続きです。
仲裁で出た判断は裁判の判決と同じような効力があり、覆すことはできません。
仲裁はあっせんや調停のように和解による解決を目指すわけではありませんが、仲裁手続きを行なった結果、和解に至ることも少なくありません。

調停はトラブルが起きた建設工事に関して、技術的・法律的な争点が多い場合に適しています。
あっせんは、3種類のなかでは一番簡易的な手続きで、技術的・法律的な争点が少ない場合におすすめです。

紛争処理委員はお互いの主張を聞きながら、両方の当事者から提出された証拠をもとに紛争の解決を図ります。
場合によっては紛争処理委員が立入調査を行い、事実関係を明らかにすることもあります。

また、どの手続きでも申請手数料がかかります。
住宅紛争審査会に申請する場合は1万円ですが、建設工事紛争審査会は、解決方法や相手に請求する金額によって手数料が変動するので確認しておきましょう。

原則として話し合いによる解決を目指す建築ADRですが、相手が話し合いに応じなかったり、ADRでも解決できなかったりする場合は、裁判を起こすことになります。
トラブルが起きないのが一番ですが、いざというときのために、建築ADRについて知っておくとよいでしょう。


※本記事の記載内容は、2025年1月現在の法令・情報等に基づいています。