社会保険労務士法人村松事務所

スタッフの技術練習は『労働時間』に入れるべき?

20.06.30
業種別【美容業】
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スタッフの不満やリクエストを募れば、必ず出てくる『残業時間』の問題。
店長はもちろん、美容室オーナーなら、リスク回避のためにも詳しく理解しておきたいポイントです。
特に、技術練習や研修などが多い美容業界では、他業種に比べて営業時間外の活動が多く、労働時間の線引きがあいまいになりがちです。
今回は、多くの経営者が目をつぶりがちな『技術練習』の時間について考えてみましょう。
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残業を軽んじると“ブラック企業”に認定!?

2019年に株式会社アライド・システムが行った『「若手美容師アシスタントの本音」に関するアンケート調査』によると、調査対象となった若手美容師アシスタント1,041人のうち、少なくとも3人に1人は長時間労働をしていることが明らかになりました。
労働基準法上の法定労働時間は、1日8時間以内、1週間では40時間以内と定められているのに対し、調査によると、『出勤日の店内での平均滞在時間』で最も多かったのが、8時間以上(25.3%)。
次いで7時間(21.7%)、10時間(17.3%)、9時間(11.8%)という回答で、9時間以上と答えた人の合計は全体の29.1%に及んでいます。

そもそも、スタッフが開店前または閉店後に店内で作業している時間は、無条件に『労働時間』と見なされるのでしょうか?
労働時間の拡大=残業代(人件費)の増大にもつながるため、経営者の中には、なるべくスタッフに残業をさせたくない人もいるでしょう。
しかし、技術力向上のため、特に若手アシスタントにはトレーニングの時間を設けて練習に勤しんでもらうことも重要です。

2019年4月1日に施行された働き方改革関連法により、美容業界でも労働時間と有給休暇について管理体制を整備する動きが見られていますが、今なお多くの店舗が古い体制のままスタッフを抱えています。
残業代も出ないし給料も低い、福利厚生もない……。
そうした現状は“ブラック”な印象を増幅させ、スタッフの離職にも直結します。
このような悪循環を回避し、クリーンなサロン経営をしていくためのヒントを深掘りしてみましょう。


法的に『残業代』が発生しないケースも

先述したアンケート結果から見ても、美容室で働くスタッフ、特にアシスタントの場合は残業が“当たり前”の店舗も決して少なくありません。
法定労働時間を超える場合、雇用者は、通常1時間につき賃金の125%の残業手当を支払う義務があります
しかし、支払われていない店舗も多いと聞きます。

ある美容室で働くアシスタントのAさんは、1日でも早くスタイリストに昇格するため、日夜カット練習に励んでいました。
営業時間は午前10時~午後8時、火曜が定休で、シフト制を導入している会社です。
朝は開店の準備で忙しく、夜は8時に最後の客が帰ってから店を閉じる作業があり、それに毎日およそ1~2時間はかかります。
Aさんがカットの練習をするのは、毎回開店前の朝7時からか、夜10時以降です。
この場合、業務時間外での『技術練習』は、『残業』と見なされるでしょうか?

答えは、『残業と⾒なされる可能性は⾼い』といえます。
理由は、Aさんがアシスタントであり、上司から指示がなかったとしても、“必要最低限の技術力向上のための時間”として暗黙の業務命令がされているような場合は、残業時間として扱われる可能性があるからです。
つまり、Aさんが自主的に朝早く来ても、夜遅く残っていても、技術力向上のため練習をしている時間は、会社にとって必要な時間=残業時間として手当の対象になるのです。

一方、残業と見なされないケースもあります。
たとえば、トップスタイリストがより高い技術を得るためや、コンテストなどに出場するために自主的に練習をしている時間
あくまでも“自主的”な練習であれば、深夜まで残っていても残業とはなりません。

スタッフが早朝や夜遅くまで店内にいる場合、最低限必要な労働時間と見なされれば、『残業』という認識で賃金も対応していく必要があります。


増加している離職スタッフからの『残業代請求』

美容業界における『残業』は、経営者にとって非常に頭を悩ます問題です。
都内のサロンで働くBさんは、毎日時間外でカット練習をしていたうえに、休日を返上して月一度の美容セミナーにも参加していました。
それでも、残業代はゼロ。

人手不足のために、毎日休憩なしで9時間以上働いていたBさんは、友人が未払いの残業代を請求して回収したことを知り、上司に残業代について相談をしました。
ところが、会社側との話し合いは思うように進まず、Bさんは会社を相手に訴訟を起こすことにしました。
訴訟から数カ月後、時間外業務に対しては残業と認められましたが、月一度の美容セミナーは“自主参加”ということで残業と認められませんでした。
それでもBさんは、100万円以上の残業代を回収することに成功したのです。
また、これをきっかけに、会社は業務の規定を改め、スタッフが働きやすい環境に改善されました。

人件費削減や利益拡大のため、『残業代』を支払うことに躊躇する経営者は少なくありません。
しかし、スタッフのモチベーションを高め、よい店づくりを目指すうえでは、避けて通れないポイントといえるでしょう。


※本記事の記載内容は、2020年6月現在の法令・情報等に基づいています。