社会保険労務士法人村松事務所

「組織原則が組織運営の問題を解決する」編

18.10.01
ミニコラム
<モデル賃金は自分で設計の原則>

社員からの質問で、経営者にとってとても嫌な質問に次のものがあります。

「社長、この会社で頑張ったら、昇給・賞与は増えるのでしょうか」

経営者は社員の成長によって処遇を決めてきました。ただし社員の成長以外に、
会社の業績という要因があります。そのため、会社の業績が悪く、成長した社員、
成長点数が伸びた社員にも昇給・賞与を増やせなかった年があることは事実です。
しかし、一生懸命指導して成長させ、結果として昇給・賞与を出してあげたいと
いうのは経営者の揺るぎない思いです。

ただ、これは社員に説明しても正しく伝わることはありません。そこで経営者が
やらなければならないことがあります。経営者の思いをもとに昇給・賞与の決め
方を伝え、社員1人ひとりが自分のモデル賃金を設計できるようにしてあげることです。

「この会社で成長してたくさんの賃金を獲得したい」と社員が発言したのであれば、
成長することを前提にその発言をしてくれたのでしょう。ですからその社員に賃金
が増えるときの要因を説明し、自分でモデル賃金を設計できるようにしてあげなけ
ればなりません。

モデル賃金とは、例えば60歳まで賃金がどう増えていく可能性があるのかという
ことを、3つの要素から設計したものです。その3つの要素とは、

①会社の業績 ②成長等級 ③成長点数 です。

まずは、自分が60歳になるまでにこの会社の業績がどう推移するかを考えてもらいます。
仮に現在40歳だとすれば、60歳までは20年あります。20年間、会社の業績がどうなるか
を考えてもらうのです。

20年間連続で増収増益になるでしょうか。そうならない可能性もあるでしょう。しかし、
自分の賃金が増えていく、最大の昇給を獲得するためには、会社の業績が連続して、
しかも高い伸長率でなければ、原資ができないことを社員は知ります。

業績が悪いのに、「社長、頑張って仕事をしましたので昇給をしてほしい」と社員から
言われたという笑えない話もありますが、それは、昇給の決め方を知らないがために
発生した残念な発言と言わざるをえません。

2つ目は、成長等級です。ステップアップには、標準昇格と最短昇格があります。

もっとも、それ以外はないというわけではありません。もっとゆっくり成長したい
という社員もいるでしょう。

どのくらいの年数をかけて昇格するかということに合わせて、社員の昇給は当然ながら
違ってきます。最短で昇格する社員と標準で昇格する社員では、当然ながら昇給は違ってきます。

そして、毎年の成長点数です。社員も企業もそうですが、継続して毎年成長していくこと
はとても至難の業であると言わざるを得ないでしょう。

しかし、成長しなければ社員の昇給は去年と変わらないばかりか、場合によっては昇給
そのものがないこともありえます。そのため、毎年の成長点数が伸びることを前提に
考えるようになるでしょう。

自分の成長点数が昇給を決める際に大きな要因であることは薄々は分かっていたでしょう。
昇給予定表を1年前に全社員に発表することによって、自分の成長点数と昇給額の関係を
1年前に知ることができるようになります。

これらを知ることによって、社員は自分の昇給がどういう条件が整ったら増えるのかと
いうことがはっきりと理解できます。そのため、昇給が仮になかったとしても、それに
対する不平・不満は一切出ないことになります。

金額の不平・不満、または昇給がなかったことの不平・不満は、昇給が決まる際の理由が
分からないために生まれています。そのままではその不平・不満は永久に続くかもしれません。

昇給予定表を通じて、自分の昇給がどうなるかということを考えながら、自分のモデル賃金
を設計してもらうこと。社員が理解できれば経営者はあの嫌な質問を受けることも減るでしょう。


   = この続きは、来月またお送りいたします。 =