「プリズム」としての「リスクと機会」分析(第1部・第1章・第2節)
永続を目指し続ける~非上場・中堅・中小企業のための「持続可能な経営の設計技法」~
今回は、青字の部分です。
第1部:永続戦略としての4バリュー経営モデル(総論)(Plan)
1.非上場・中堅・中小企業にこそ必要・重要な「リスクと機会」のマネジメント
1.1リスク回避と機会追求こそ、経営者の仕事
1.2「プリズム」としての「リスクと機会」分析
1.3「ESG評価」は、「リスクと機会」の着眼点リスト
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1.2「プリズム」としての「リスクと機会」分析
世の中にはたくさんの問題があります。そのすべてに一企業が対処しなければならないとすると、負担が重すぎて耐えきれないでしょうし、そもそも、どうにもできないことのほうが多いはずです。これは、トヨタや日本製鉄といった超大企業でも同じです。
しかし、だからといって、何もできない、何もしなくてもよい、というわけでもありません。これは、中小・零細企業、当社のような1人企業でも同じです。
では、世の中にあるたくさんの問題から、「自社」が経営課題として取り組むべきものと、そうでないものを、どのように見分け、仕分けしたらよいのでしょうか。
この見分け、仕分けの装置となるのが「リスクと機会」分析です。ガバナンス、リスク管理、戦略、目標と指標の4本柱(4ピラー)でいうと、リスク管理&戦略のプロセスに該当します。
中学1年の理科で光の反射・屈折を学びます(中学校学習指導要領(平成29年3月告示)が、そこで出てくる、あの透明な三角柱=プリズムを思い浮かべてみてください(思い浮かばない方は・・・冒頭の写真をご覧ください)。
白色に見える光は、実は白色という1色ではなく、異なる波長の光線が合成されてできています。波長により屈折率が違うので、白色光をプリズムに通すことで、七色の光に分かれて出てきますね(分光といいます)。
「リスクと機会」分析は、社会の問題を、「自社」が経営課題として取り組むべきもの(リスクまたは機会)と、リスクでも機会でもないものを見分け、仕分けするプロセスです。
世の中にあるたくさんの問題のうち、何らかの理由で「自社の」リスクまたは機会になるものはあるかを識別し、あるとすれば、それはお金に換算するとどのくらいの損失や収益になり得るのか、影響度を評価します(リスク管理)。
そして、その影響度に応じて、経営においてリスクの回避または機会の追求に、どれだけの経営資源を投入してよいか、具体的にはどのように取り組むのか、どれだけの効果・成果を得たいのかを明確化します(戦略)。
このプロセスを通じて、社会の問題が経営の課題に「変換」されます。当然、自社にとってはリスクでも機会でもない、という問題群もたくさんあります。
ただし、何がリスクまたは機会となり得るのかの判断は、1社ごとに異なります。同じ地域の、同じ業種・業態、同じ規模、同じような社歴の会社でも、異なります。経営状態が1社ごとに異なるのと同じです。
それゆえ、「リスクと機会」分析のプロセスを踏むことで、「自社が回避すべきリスク、自社が追求すべき機会」という形で「自社固有の経営課題」として特定することができ、それが結果的に、「社会課題を自分ごと化した」ということになります。
また、このプロセスで重要なのは、「リスクと機会」を金額評価することです。いろいろな仮定・想定をしなければなりませんが、仮でもよいので、起こり得る損失または収益の評価額を算出することで、リスク回避にかけてよい費用の上限、機会追求にかけてよい投資の上限が明確になります。
たとえば、100万円の損失を回避するのに100万円より多くの費用をかけたら、費用対効果はマイナスですね。100万円の収益を得るのに、100万円より多く投資したら、投資回収はマイナスですね。いずれも経済合理性がありません。
しかし、100万円の損失を回避するのに10万円の費用で済む、あるいは、100万円の収益を得るのに10万円の投資で済むとしたら、どうでしょうか。どちらも、正味90万円の経済的メリットが期待できます。もし、このような戦略が実行可能なものなら、やらない理由はないですね。
損失や収益の想定金額が妥当なのか、過小評価なのか、過大評価なのか、精度の問題はありますが、定量的に見積もることで、意思決定がしやすくなります。
具体例で考えてみましょう。たとえば脱炭素経営。
規模の大小にかかわらず、事業活動において、電気や燃料などのエネルギーをまったく使っていないという会社はないでしょう。そのエネルギーで機械を動かしたり、車を走らせたり、オフィスワークをしたりして、事業活動を実施しているわけですが、「ただ」ではないわけです。決算書では、光熱水道費や燃料費といった費目で、支払った金額が計上されているはずです。
たとえば、ガソリンを1ℓ燃やすと、CO2が2.29kg排出されます(CO2排出係数:2.29kg-CO2/ℓ)。
仮にあなたの会社では社有車の使用に伴って、ガソリン由来のCO2が1t-CO2排出されているとした場合、ガソリン消費量は約437ℓです(1,000kg-CO2÷2.29kg-CO2/ℓ=436.7ℓ)。
車両にもよりますが、普通乗用車なら満タン給油10回ぐらいでしょうか。
ガソリン価格は2025年一杯で暫定税率(25.1円/ℓ)が廃止され、現時点では150円台になってきているようです。
計算を簡単にするために150円/ℓとすると、437ℓ×150円/ℓ=65,550円となります。
要するに、「65,550円払って1t-CO2を排出している」ことになります。
ガソリン代が何らかの理由で再び高騰すれば、経費増という「リスク」となります。
一方、エコドライブなどで燃費改善に取り組めば、同じ仕事をこなす上で必要なガソリン購入量=ガソリン購入費を削減し、その分、利益増の「機会」となります。
脱炭素経営と聞くと、脊髄反射的に、「いやー、そんなことやってる余裕ないよ」「それ、大企業がやることでしょ」「うちあたりが何をやろうがやるまいが世の中変わらないでしょ」といった反応に遭うことが多いのですが、皆さん、「お金を払ってCO2を出している」という事実を忘れているようです。
「口座から65,550円おろして、燃やしますか?」と聞けば、Yesと答える人はいませんが、実際、社用車でガソリン車を使っている会社は、そうしているのです。
ガソリンに支払っている金額を上限として、脱炭素に費用を投じることには経済合理性があります。ちなみに、エコドライブの基本は、走行時は運転手のアクセルとブレーキの踏み加減です。これ、実行するのにお金(直接経費)はかからないですね?エコカーを導入する場合は、車両費用と燃費向上による燃料費削減効果をシミュレーションして費用対効果がプラスなのかマイナスなのかを考えることができます。
「CO2のお値段」
ガソリン車の例でご説明しましたが、もちろん、ディーゼル車の場合も基本的な考え方は同じです。CO2排出係数(軽油:2.58kg-CO2/ℓ)と単価(140円台/ℓ)が違うだけです。
ボイラーや加熱炉などの熱源として重油や都市ガスを燃やしている場合も、電気の場合もそうです。しかし、何にどれだけ払っているかは、会社ごとに異なります。自社はどうなのか、決算書をみればわかります。
あなたの会社は、CO2を排出するために、何円支払っていますか?
もちろん、気候変動のリスクと機会は、エネルギーコストだけではありません。
また、経営課題として考えるべきリスクと機会は、気候変動だけではありません。
では、どのような問題群があるのでしょうか?
次回はそのあたりに触れていきたいと思います。