有限会社 サステイナブル・デザイン

「リスクと機会」のマネジメント(第1部・第1章・第1節)

26.02.10
4バリュー経営
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永続を目指し続ける~非上場・中堅・中小企業のための「持続可能な経営の設計技法」~
今回は、青字の部分です。

第1部:永続戦略としての4バリュー経営モデル(総論)(Plan)

1.非上場・中堅・中小企業にこそ必要・重要な「リスクと機会」のマネジメント
1.1リスク回避と機会追求こそ、経営者の仕事
1.2「プリズム」としての「リスクと機会」分析
1.3「ESG評価」は、「リスクと機会」の着眼点リスト

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第1部:永続戦略としての4バリュー経営モデル(総論)(Plan)

1.非上場・中堅・中小企業にこそ必要・重要な「リスクと機会」のマネジメント

「サステイナビリティ開示」の4本柱(4ピラー)と呼ばれるフレームがあります。

概略、こんな内容です。

 

・ガバナンス:「リスクと機会」をモニタリング・管理・監督する「体制」

・戦略:「リスクと機会」が経営に与える影響の評価と、それに対処する経営の「戦略」

・リスク管理:「リスクと機会」を識別・評価・優先順位付けし、モニタリングする「プロセス」

・指標と目標:「リスクと機会」に関するパフォーマンスの「測定」

 

4本柱ということではありますが、ガバナンスは組織、他の3本は活動なので、土台にガバナンスがあって、その上で戦略・リスク管理・指標と目標のマネジメントが行われている、と理解するとわかりやすいでしょう。



これは情報開示のフレームなので、戦略の実行が柱に入っていませんが、それは経営陣の仕事。外部の人間が、それをずっと横にいて見ているわけにはいきません。そこで、組織(ガバナンス)、計画(リスク管理・戦略)、結果(指標と目標)の情報を開示して、その仕事ぶりを外から評価できるようにしてね、というのが「サステイナビリティ開示」の趣旨です。

 

重要なのは、すべては「リスクと機会」を会社がどうマネジメントするかに関係している、ということ。

 

サステイナビリティ開示の義務化は、現時点では時価総額3兆円以上のプライム上場企業から適用され、1兆円以上、5千億円以上まで適用されることがスケジュール化されています。

 

とはいえ、それ以外の上場企業(時価総額5千億円未満のプライム上場、その他上場企業)、非上場の中堅・中小企業には、「リスクと機会」のマネジメントは無縁かといえば、そんなことはありません。本質的にはどんな会社でも、必要不可欠なことです。

 

なぜかといえば、リスクのマネジメントができなければ、会社の存続が危機にさらされることになるし、機会のマネジメントができなければ、会社の発展は望めないからです。

 

後継者の立場で考えたら、そのような会社を継ぎたくはないでしょう。

社員の立場で考えたら、そのような会社で働く未来には不安を感じるでしょう。

顧客や取引先の立場で考えたら、そのような会社との取引に、自社のリスクを感じるでしょう。

オーナー社長の立場で考えたら、後継者・社員・顧客・取引先に、自分の会社をそのような会社と思われたくないでしょう。

 

1.1リスク回避と機会追求こそ、経営者の仕事

では、会社にとっての「リスクと機会」とは、何でしょうか?

 

ここではざっくり、リスクとは、会社の存続を危うくする可能性のある要因、機会とは、会社の発展につながる可能性のある要因、としておきましょう。

 

(1)リスクのマネジメント

何があったら、わが社はつぶれるのか?この問いの答えがリスクです。

 

すぐに思いつくのは、震災や台風などの自然災害、風評被害、サイバー攻撃、感染症のパンデミック、などなどかもしれませんが、これらは「事象」です。

 

しかし、同じ「事象」が起きても、存続し続ける会社とそうでない会社があります。

 

その違いは、経営に必要なヒト・モノ・カネ・情報(経営資源)が、それらの「事象」により、事業を継続できないほどのダメージを受けるかどうかにあります。

 

中小企業庁の推進する「事業継続力強化計画」認定制度において「事業継続力強化計画策定の手引き」(令和8年1月1日版)は、

 

●想定した自然災害等のうち、最も大きな被害が想定される自然災害を対象として、「ヒト」、「モノ」、「カネ」、「情報」の観点から事業活動に与える影響を想定します。

 

としています。ちなみに、2025年12月末時点で累計92,523件の事業継続力経営強化計画が認定を受けてます。

 

具体的には、次のような問いを立てて考えるとよいでしょう。

 

たとえば、社員が0人になってしまったら?

たとえば、商品の在庫が0になってしまったら?

たとえば、サービスの提供ができなくなってしまったら?

たとえば、製品の製造ができなくなってしまったら?

たとえば、口座の残高が0円になってしまったら?

たとえば、顧客情報がすべて失われてしまったら?

たとえば、突然、需要が消失してしまったら?

 

震災や台風などの自然災害、風評被害、サイバー攻撃、感染症のパンデミック、などなどにより、こうしたことが実際に生じてしまったら、会社はまさに存亡の危機に直面します。そんなことにならないようにするのが、リスクマネジメントです。

 

事業継続マネジメント(BCM)や事業継続計画(BCP)という枠組みの中では、通常、自然災害のような外来・急性の「事象」を想定した対策を検討します。

 

たとえば、内閣府策定の「事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-(令和5年3月)」では、次のように定義しています。

 

●大地震等の自然災害、感染症のまん延、テロ等の事件、大事故、サプライチェーン(供給網)の途絶、突発的な経営環境の変化など不測の事態が発生しても、重要な事業を中断させない、または中断しても可能な限り短い期間で復旧させるための方針、体制、手順等を示した計画のことを事業継続計画(Business Continuity Plan、 BCP)と呼ぶ。

 

しかし、2019年までに策定された事業継続計画(BCP)で、2020年の新型コロナのパンデミックを想定していたものがどれだけあったでしょうか?

 

地震・火災・水害などの「事象」への対策では、

 

「設備も原材料も無事だけど、要員が確保できず生産できない」(製造業)

「施設も社員も無事だけど、予約がキャンセルされ、新しいお客さんも来ないので営業できない」(観光業・飲食業)

 

といった事態は想定外だったはずです。

 

現在では感染症のパンデミックを想定した事業継続計画(BCP)への改訂が行われているとしても、震災やパンデミックに匹敵する「次の」想定外事象は生じるでしょう。

 

会社の「永続」を考える際には、外来・急性の「事象」への対応は必要条件といえますが、十分条件ではありません。通常の事業継続マネジメントは、永続をめざした会社づくりの全部ではなく、一部です。

 

長い目で見れば、少子高齢化といった人口構造の変化、人々の価値観の変化などの外来・慢性の「事象」も、認識が遅れ対応がずれるとリスク要因になります。気候変動リスクは、長期間にわたり少しずつ進行する気温上昇等に伴うものなので、本質的には外来・慢性といえますが、すでに豪雨や大雪等の災害の激甚化、猛暑日の長期連続など顕在化している「事象」もあります。

 

一方、コンプライアンス違反の放置、心理的安全性の低い職場が改善されない、市場・顧客ニーズの変化への対応の遅れなど、内在・慢性の「事象」も、じわじわと会社を蝕み、やがて存亡の危機につながる可能性があります。

 

不祥事の発覚、設備の致命的な損傷などは内在・急性の「事象」ですが、これらは不正や故障の前兆など内在・慢性の「事象」を正しく認識できなかった、または、認識しても軽視・無視・放置・先送りしてきた結果が、ある時点で顕在化したものです。



どんな「事象」がいつ起きるかを、事前にすべて予見するのは困難です。つまり、どんなに考えたつもりでも、「想定外」の「事象」は生じ得るものです。

 

しかし、こうなったら「わが社はやばい!」状況になるかは想定可能です。これを特定し対策を講じるのが、本質的な意味での事業継続マネジメントです。「わが社の急所はここだ!」となれば、そこをいかに守るか、できればその急所をなくせないか、と考えるはずです。

 

江戸の商家では、火事の際には番頭さんが「大福帳」を井戸に放り込んでから避難していた、という話があります。「大福帳」は、売掛帳ですね。店も、商品も、何もかも焼けてなくなったとしても、貴重な人材が生き延び、大福帳さえあれば、売掛金を回収して商売はいくらでもやり直せる、というわけです。

 

当時の商家の経営者は、ヒトと情報こそが、守るべき最大の経営資源であると認識して、リスクマネジメントを行っていた、といえます。

 

今日の経営における大福帳は、顧客台帳や経理データですね。これを狙ったサイバー攻撃は、まさに会社の急所、生命線を脅かすものです。

 

私もこれまで何件も事業継続力強化計画の策定を支援してきましたが、最新の手引きでは、事業活動に与える影響の記載例として、①自然災害、②感染症に加え、③サイバー攻撃が挙げられています。

★まとめ&しつもん「ノックアウト・ファクター」

ボクシングで、いくら優勢に試合を進め、ポイントをリードしていても、たった一発のパンチでノックアウト(KO)をくらい、逆転負けを喫することもあります。そのような、「一発KO」になり得るリスク要因のことを「ノックアウト・ファクター」といいます。この見逃しは致命的です。

 

あなたの会社の「ノックアウト・ファクター」は、何ですか?

 

(2)機会のマネジメント

リスクとは反対に、何をしたら、わが社は発展するのか?その着眼点が機会です。

 

リスクマネジメントがうまくできても、新たな機会を発見し、それを追求し現実化することができなければ、会社は長期的には先細りになります。

 

VUCAの時代*と言われる昨今、同じ商品・サービスを、同じように売り続けること自体が難しくなっています。売り物、売り方のいずれか、または両方を社会と時代に即したものに変えていくこと、そのための技術革新を進めることが必要です。

*VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった略語


中小企業等経営強化法では、

 

●「経営革新」とは、事業者が新事業活動を行うことにより、その経営の相当程度の向上を図ることをいう。

●「新事業活動」とは、新商品の開発又は生産、新役務の開発又は提供、商品の新たな生産又は販売の方式の導入、役務の新たな提供の方式の導入、技術に関する研究開発及びその成果の利用その他の新たな事業活動をいう。

 

と定義しています(役務というのは、サービス/無形商材のことです)。

 

一定の要件をクリアする経営革新計画にまとめて申請し、都道府県知事の承認を得ると、様々な支援措置を受けられるようになります。2025年3月末時点で、累計108,553件の経営革新計画が承認を受けています。

 

多くの税理士さんや、私のようなコンサルタント、地域金融機関等の専門家・機関が、認定経営革新等支援機関として、経営革新の支援を行っています(2025年12月時点で、35,076者認定)。

 

計画の承認を受けるかどうかは別として、同じ商品・サービスを、同じように売り続けるだけでは自社の先がない、暗いと考えるすべての会社に、経営革新が必要です。

 

ちょっと脱線しましたが、機会追求の活動とは、まさに、新事業活動を行うための経営革新を計画し、実行し、成果を挙げることです。

 

しかし、火のないところに煙は立たず、ニーズのないところに需要は発生しません。

 

たとえば気候変動という問題があります。これを、世界のどこかで起きている、あるいは、今じゃないけど未来のいつか具体化する問題かもね、と思っている会社には、リスクでも機会でもありません。

 

一方で、気候変動を、今・現に世界も日本も直面している顕在化した問題だと認識したならば、どうでしょう。国連のグテーレス事務総長が「地球沸騰化」(Global Boiling)と発言したのは2023年7月のこと。これに象徴されるように、2023・2024・2025の3年間は、世界でも日本でも、観測史上最も暑い3年間でした。



https://climate.copernicus.eu/global-climate-highlights-2025より


地球温暖化は、世界のどこか・将来のいつか、ではなく、今・ここで起きており、、、「たとえば」、熱中症予防の対策を強化しなければならない、という切迫したニーズとして顕在化しました。

 

このとき、自社のビジネスで、熱中症予防に有効な商品やサービスを提供できないか、と考えれば、機会になり得る会社があります。自分の会社がそうだ、と気づけるか気づけないか、思えるか思えないか、認識・考え方次第です。

 

ちなみに「気候変動適応計画」にもとづいて「熱中症対策実行計画」が策定されていることは、ご存じでしょうか?「気候変動適応計画」は2021年10月に閣議決定され、2024年5月の一部改訂にもとづいて「熱中症対策実行計画」が策定されました。

 

この計画では、

 

中期的な目標(2030年)として、熱中症による死亡者数が、現状(※)から半減することを目指す(※5年移動平均死亡者数を使用、令和4年(概数)における5年移動平均は1,295名)

 

という目標が掲げられています。つまり、熱中症予防にビジネスとして取り組むことは、政策ニーズに対応し、社会的ニーズに応え、人の命を救うという大義と、需要があるわけです。

 

私の記憶が確かならば、小学校3年生のとき(1977年)、夏休みの自由研究で、厚紙で直径10cmほどの4枚羽根をつくり、乾電池・モーターと組み合わせて手製ミニ扇風機をつくったことがあります。羽根の固定とか角度とかがいまいちで、あまり涼しい感じがしませんでしたが、今思えば、ハンディ扇風機の先駆けでしたね。

 

もし、当時の私が発明起業家で、それを本気で製品化していたら?「新商品の開発」として新事業活動を行ったことになります。ただ、中小企業等経営強化法の制定は1999年ですから、経営革新という概念はありませんでした。ハンディ扇風機がヒット商品番付で西前頭5枚目にランクインしたのは2019年だったので、40年早すぎました。そして、何より需要がなかったので、当時はビジネスとして成功することはなかったと思いますが。

 

熱中症対策とハンディ扇風機というのはあくまで説明のための一例なので、何も、みなさんの会社がそれをすべきだという話ではありません。

 

★まとめ&しつもん:「社会のお困りごと」

社会には、まだ満たされていないニーズ、解決を待っているお困りごとがたくさんあります。あなたの会社がそうした満たされていないニーズを満たし、お困りごとを解決する商品やサービスを提供できたとしたら、どうでしょうか?とても感謝されて、繁盛する会社になるのではないでしょうか?世の中は、あなたの会社の出番を待っています。

 

自社の経営資源でできることで、まだやっていないことは何ですか