個人事業主も該当する場合がある『源泉徴収義務者』の基準

23.12.22
ビジネス【税務・会計】
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法人が従業員に給与を支給する際には、あらかじめ所得税の分を給与から差し引いた額を支払います。
外注先等(個人事業主)に報酬を支払う際も同様に、原則、報酬から所得税の分を差し引きます。
差し引いた所得税は、所得が発生した月の翌月10日までに納付しなければいけません。
この仕組みを『源泉徴収』といい、源泉徴収を行う必要がある者のことを『源泉徴収義務者』と呼びます。
また、個人事業主でも、状況によっては源泉徴収義務者になるケースがあります。
今回は、個人事業主が源泉徴収義務者になる基準について解説します。
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源泉徴収をする理由と源泉徴収義務者の範囲

所得税とは個人の所得に対してかかる税金で、基本的には本人が1年間の所得から所得税の額を計算し、みずから税務署に納付する必要があります。
個人事業主が確定申告を行うのは、この所得税を申告して納付するためでもあります。

しかし、会社に勤めているすべての人が自分で確定申告を行うことになると、混乱が生じ、税務署側も対応しきれなくなります。
そこで、日本では会社が給与から差し引いて自社従業員全員の所得税分を預かり、まとめて納付する源泉徴収という方法が採用されています。
会社員はみずから所得税を計算したり、納付したりする手間が省け、税務署は徴税手続きの簡略化と申告漏れの防止が実現できます。

この源泉徴収を行う源泉徴収義務者は、法人だけではなく、給与の支払いが発生する学校や官公庁、人格のない社団・財団なども該当します。
また、個人事業主も従業員を雇用していると源泉徴収義務者になります。

源泉徴収義務者に該当するか否かは、従業員を雇用して給与を支払っているかどうかで決まります。
ただし、個人事業主が常時2人以下の家事使用人のみを雇用している場合は、給与を支払っていたとしても源泉徴収をする必要はなく、源泉徴収義務者にもなりません。

源泉徴収義務者は従業員だけでなく、外注先等(個人事業主)に報酬を支払う際も、源泉徴収を行う必要があります。
源泉徴収の対象になる報酬は、国税庁によって以下のように定められています。

1.原稿料や講演料など
2.弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金
3.社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
4.プロ野球選手、プロサッカー選手、プロテニス選手、モデルや外交員などに支払う報酬・料金
5.映画、演劇その他芸能(音楽、舞踊、漫才など)、テレビジョン放送等の出演などの報酬・料金や芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金
6.ホテル、旅館などで行われる宴会などにおいて、客に対して接待等を行うことを業務とするいわゆるバンケットホステス・コンパニオンやバー、キャバレーなどに勤めるホステスなどに支払う報酬・料金
7.プロ野球選手の契約金など、役務の提供を約することにより一時に支払う契約金
8.広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金

源泉徴収義務者がこれらの報酬を支払う際には、あらかじめ所得税分を報酬から差し引いて、その分を納付する必要があるということです。

源泉徴収をされる・する側の両方になる場合

注意したいのは、源泉徴収義務者である個人事業主は、源泉徴収をされる側とする側の両方になる可能性があるということです。

たとえば、源泉徴収義務者の個人事業主であるAさんが法人のB社から仕事を受注し、業務の一部を別の個人事業主であるCさんに発注したとします。
Aさんは自分の報酬に関しては、B社から源泉徴収をされる立場となり、Cさんに支払う報酬に関しては、源泉徴収を行う立場になります。
この場合、Aさんの所得税分はB社が源泉徴収によって税務署に納付し、Cさんの所得税分はAさんが源泉徴収によって税務署に納付することになります。
一方で、もしAさんが源泉徴収義務者でなければ源泉徴収の必要はなく、Cさんが自分で所得税を納めることになります。

また、本来、税理士や弁護士、司法書士などに報酬を支払う場合は、支払金額に応じて源泉徴収をする必要がありますが、源泉徴収義務者でなければこれらの報酬も基本的に源泉徴収は不要です。

では、これまで源泉徴収義務者でなかった個人事業主が、新規事業を始めることで給与を支払う立場になり、源泉徴収義務者になった場合はどうでしょうか。

源泉徴収義務者になったのは、従業員に給与を支払っていることが主な要件となります。
そのため、法人やこれから開業する個人が新たに給与の支払いを行う場合は『給与支払事務所等の開設届出書』を、給与支払事務所等を開設してから1カ月以内に管轄の税務署に提出しなければなりません。
一方、もともと開業している個人事業主は、基本的に開業した際に『個人事業の開業等届出書』を提出しています。
そのうえで新規事業によって給与を支払うことになった場合は、『給与支払事務所等の開設届出書』を提出する必要があるのです。
   
そのほかの注意点として、源泉徴収義務者になった場合は『源泉徴収票』を作成する必要があります。
国税庁の公式サイトでひな形をダウンロードできるので、利用すると便利です。
源泉徴収の際には、請求書の作成時に消費税を別にすること、確定申告で源泉徴収の還付申告をすることなども忘れないようにしましょう。

源泉徴収義務者が源泉徴収せずに給与を支払っていた場合、正当な理由があると認められないと『不納付加算税』が課税され、さらに納付が遅れると『延滞税』も課税されます。
徴収した所得税を納付し忘れることのないように注意しましょう。


※本記事の記載内容は、2023年12月現在の法令・情報等に基づいています。