どちらが子どもを引き取る? 親権者になる条件と全体的な流れ

23.10.24
ビジネス【法律豆知識】
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未成年の子どもがいる親は、子どもを育てるために必要な権利と義務である『親権』を持ち、法律上は『親権者』と呼ばれます。
婚姻中は父母の両方が親権を持っています。
しかし、離婚した場合、日本では父か母のどちらか一方しか親権者になれません。
通常は、夫婦間の話し合いで子どもを引き取る親権者を決めますが、話し合いで親権者が決まらないときは調停や裁判で親権者を決めることになります。
議論が進んでいる『共同親権』に関する話題なども交えながら、離婚時に親権者となる条件や全体的な流れについて解説します。
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子どもの利益を守るための権利と義務

親権は民法で定められた親の権利と義務で、原則として子どもの利益を守るために行使されるものです。
日本では、2022年4月に施行された改正民法によって成年年齢が20歳から18歳に引き下げられました。
親権は子どもが成年になるまでは存続するため、父母は子どもが18歳になるまで、子どもの監督・保護、教育、財産の管理などを行う必要があります。
ただし、子どもが18歳になれば、親権は消滅します。

親権は身上監護権、財産管理権、法定代理権で成り立っており、すべて民法によって定められています。
身上監護権とは、子どもの成長のために必要な世話や教育を行う権利のことで、さらに子どもの居所を定める『居所指定権』、子どもの就業を許可する『職業許可権』に細かく分けることができます。
たとえば、未成年の高校生がアルバイトをするときに親の許可がいるのは、この職業許可権が存在するためです。

また、財産管理権は子どもの財産を管理する権利で、法定代理権は子どもの代理として契約などを締結する権利のことです。
親権者は、これらの親権に含まれる権利のすべてを持つことになります。

婚姻中は父母の両方がこの親権を持ちますが、離婚時にはどちらか一方しか親権を持つことができません。
どちらが親権者になるのか、まずは当人同士で話し合いを行います。
話し合いで合意に至れば、離婚届に親権者となる親の名前を書き込み、役所に提出することで、親権者が確定します。

しかし、当事者間だけでの話し合いで合意に至らない場合は、家庭裁判所で離婚調停を行い、調停委員を交えた話し合いをすることになります。
場合によっては、調査官が子どもの生活環境や養育状況を調査することもあり、それらの結果もふまえながら、話し合いが進められます。
離婚と親権者について双方が合意に至れば、離婚調停が成立します。
家庭裁判所から送られてくる調停調書とあわせて離婚届を役所に提出すれば、親権者が確定します。

親権者として指定されるための要件

離婚調停は話し合いの手続きであり、調停委員から結論を強制されることはありません。
つまり、離婚調停で合意に至らなければ、不成立となり、親権者を決めるための裁判に進むことになります。

裁判で親権者を決めるためには、離婚訴訟を家庭裁判所に申し立てる必要があります。
離婚訴訟では、裁判官が資料や調査官調査の結果をふまえて、親権者にふさわしい親を指定します。
判決が出ると、自動的に親権者も確定します。

このとき、家庭裁判所は、どういった基準で親権者を指定するのでしょうか。
大切なのは、民法でも定められている「子どもの利益を守る」という視点です。

たとえば、判断材料の一つに「現状尊重の原則」があります。
これは、子どもの生活環境が安定しているのであれば、その環境をあえて変える必要はないという原則です。
そのため、これまで子どもと同居し、監護を担ってきた親が引き続き親権者として指定される可能性が高くなります。
逆に、別居などをしており、子どもと離れている親は不利になるといえるでしょう。

ほかにも、資産や収入などの経済状況や、体や精神の健康状態、監護能力、愛情の度合い、親族のサポートの有無なども判断するための要素になります。
また、兄弟や姉妹は一緒に育てることが子どものためになるという「兄弟姉妹不分離の原則」から、兄弟や姉妹を一緒に引き取れる親のほうが有利に働くこともあります。

さらに、乳幼児の場合は、母親の存在が欠かせないという考え方をもとにした「母性優先の原則」から母親が有利になります。
ただし、子どもがある程度の年齢になると、子ども本人の意思も考慮されるようになります。
たとえば、15歳以上の未成年であれば、子どもが親権者を選ぶこともできます。

このように、これまで日本では父母のどちらか一方しか親権者になれないため、裁判に至るケースが少なくありませんでした。
しかし現在、離婚後も共同で親権を持つことができる『共同親権』についての協議が進められています。
共同親権が認められることで、片方の親だけに負担がかかったり、子どもに会えなくなったりといったことはなくなります。
一方で、子どもに精神的な負担がかかったり、家庭内暴力や虐待が継続してしまったりするなどの懸念もあります。

現在、日本では、共同親権か単独親権かを選べる仕組みづくりなども含めて、議論が進められている最中です。
離婚の当事者でなくても、社会の動きとして今後も注視しておく必要があるでしょう。


※本記事の記載内容は、2023年10月現在の法令・情報等に基づいています。