介護報酬の不正請求が多発! その原因と解決策とは

23.10.03
業種別【介護業】
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介護事業所の運営や報酬請求の状況、高齢者の尊厳の保持などに関する理解について、行政が定期的に行う指導を『運営指導』といいます。
その指導により、介護報酬の不正請求などの事実が発覚した場合、介護サービス事業者としての指定を取り消されるといった行政処分が行われる場合もます。
しかしながら、介護報酬の不正請求などにより指定の取り消しを受ける事業者は、後を絶ちません。
今回は、介護事業所が不正請求に至ってしまう原因と、解決策について考えていきます。
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不正請求の発端は人手不足である可能性大

介護事業所は、介護保険法に基づく一定の要件を満たすことにより、都道府県または市町村の行政庁から指定を受け、介護保険を利用した介護サービス事業を行うことができます。
介護事業所の収益構造は、そのほとんどが介護サービスごとに定められた『介護報酬』であり、被保険者である利用者が介護サービスを利用することで、被保険者の自己負担のほか、保険者から介護事業者に対して介護報酬が支給されるという仕組みです。
そして、各介護サービスの基本的な報酬に加えて、それぞれの介護事業所のサービス提供体制や利用者の状況などに応じて、加算や減算が行われます。

そのため、介護保険制度の適正な運用が行われているか、介護報酬の請求状況が適正であるかを確認することや、介護サービスの質の確保、高齢者の尊厳の保持などを目的とし、行政庁による実施指導である『運営指導』や、講習会などで一斉に指導を受ける『集団指導』が定期的に実施されています。
この指導により、不正等の事実が発覚した場合は監査が行われ、状況に応じて勧告・命令・指定の取り消し等の行政処分が実行されることになります。

厚生労働省が令和5年3月に公表した『全国介護保険・高齢者保険福祉担当課長会議資料』によると、介護事業所が行政庁から指定の取り消し、または効力停止の処分を受けたケースは、2021年度の1年間で105件あったことがわかりました。

調査結果によると、指定の取り消し、または効力停止の処分を受けた施設・事業所の74.3%が営利法人、19.0%が社会福祉法人で、医療法人とNPO法人はともに2.9%となっています。
指定取り消しの主な理由としては、介護報酬の不正請求が28.0%で最も多く、虚偽申請16.0%、法令違反15.0%、人員基準違反13.0%と続いています。

実際に介護報酬の不正請求により指定の取消処分を受けた事例としては、次のようなケースが多いようです。

<指定の取消処分の対象例>
・サービス提供のために必要なサービス担当者会議やモニタリングを行っていないなど、運営基準違反があるにもかかわらず居宅介護支援費を減算せずに不正に請求した。
・実際には通所介護サービスを提供していない日にサービスの提供を行ったとする虚偽のサービス提供記録を作成し、介護報酬を不正に請求した。
・指定訪問介護サービスの提供をしていなかった日について架空のサービス提供記録を作成、介護報酬を不正に請求した。
・無資格者や事業所職員でない者が提供したサービスについて、虚偽のサービス提供記録を作成し、介護報酬を不正に請求した。
・実際には行っていない介護サービスについて介護報酬を不正に請求。さらに、その不正請求の隠蔽のために、すでに退職した職員が介護サービスを提供したと、虚偽の内容を記載した。
・介護職員処遇改善加算を受けているのに、従業員の賃金に一切反映させなかった。
・利用定員が超過していることを記録改ざんにより隠蔽し、定員超過による介護報酬の減算を行わず介護給付費を請求し、不正に受領した。   など

いくつかの課題解消に直結するICT化

指定取り消しを受けた場合は、介護事業が運営できなくなるため事業所を廃止せざるを得なくなり、その後5年間は新たな指定が受けられなくなります。

このような重い処分を受けるリスクを抱えながら、指定取り消しの処分に該当する不正請求が多発するのは、なぜでしょうか。
その最大の原因として、人材不足の問題が考えられます。

介護事業のなかでも特に訪問介護事業は人件費率が高く、人材不足に陥ると赤字経営により廃業の危機が迫ります。
廃業を回避するためには人材を保持・確保しなければならず、そのためには一定の賃上げも必要となってくるでしょう。
ところが、資金力に余力の無い事業所の場合、これらの資金にあてるために介護報酬の水増しなどの不正請求を行うという悪循環が発生するケースが目立っています。

介護報酬の不正請求を防ぐには、人材不足の問題を解決することが重要となります。
しかし、慢性的な人材不足である介護業界では人材確保は容易ではありません。

そこで解決策の一つとなるのが、ICT化による生産性の向上です。
ICTとは情報通信技術のことで、介護業界においても、これまで紙で管理していた情報をデジタル化することにより業務負担を軽減するのを目的に、ここ数年で多くの事業所に取り入れられています。

たとえば、介護システムの導入により、これまで手書き等で作成していた介護記録や資料の作成などがスマホ・タブレット等の端末で行うことができるようになります。勤務時間の削減と共にスタッフ間の情報共有も容易になるでしょう。
また、利用者情報や介護状況の情報共有がシステム上で行なえることにより、会議や引き継ぎの削減といった業務の効率化に繋がります。
スタッフ一人ひとりの業務に余裕が出てくれば、事業所全体にける介護サービスの向上も見込めます。

ICT化を実現するには、導入コストやスタッフへの周知などいくつかの課題もあります。
しかし、補助金の活用や、定期的な教育訓練の実施によりこれらの課題を解消できる可能性は充分にあります。

今後、介護業界のICT化は急速に進化すると見られています。
不正請求が発生しそうな状況をなくすためにも、人材不足の解消や業務の効率化を目指し、ICTの導入に取り組んでみてはいかがでしょうか。


※本記事の記載内容は、2023年10月現在の法令・情報等に基づいています。