夫が消息不明になってしまったら離婚手続はできるのか

21.10.12
ビジネス【法律豆知識】
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婚姻関係を結んでいると、思いのほか色々なことが起こります。
たとえば、何らかの理由で配偶者が家を出て行ってしまう、ということは、映画やドラマでは一大事のように扱われますが、実は珍しいことではありません。
出ていった配偶者の居所が不明になってしまうこともあり、そのようなケースで離婚をしたい時は複雑な手続きが必要です。
今回は、『消息不明の配偶者』との離婚方法について、紹介します。
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原則的に、離婚には配偶者の関与が必要

「夫がリストラを気に病んで、家を出てしまいました。いまはどこで何をしているのか分かりません。私は離婚したいのですが、どうしたらよいですか」

このような相談が法律事務所に寄せられることはよくあるそうです。
ご存知のように、通常、配偶者と離婚をしようと思えば、双方が署名・押印をした離婚届を役所に提出する必要があります。
つまり、少なくとも配偶者と連絡を取れることが前提となっているのです。

これは、家庭裁判所の調停で離婚をする場合も同様です。
家事調停の申立ては、家庭裁判所に書類を提出し、裁判所が配偶者に書類を送付するところからスタートします。
その際、配偶者の居所が分からなければ申立書を送ることもできないのです。

配偶者が自分の住民票を出奔先に移しているようなケースでは、戸籍の附票をとれば、配偶者の住民票上の現住所を確認することができます。
しかし、家を出て行ってしまった配偶者は、住民票はそのままになっているというケースが多く、住民票から相手方の住所が判明することは、あまりないのが実情です。


7年以上生死不明なら、打てる手もある

では、相手の所在が不明であるときは、どうすれば離婚できるのでしょうか。

もしも配偶者が失踪してから7年間が経過している場合には(震災などが原因の場合は1年間)、失踪宣告という制度を利用することができます。
これは、失踪者の利害関係人(配偶者や子など)が申立てを行い、裁判所が調査を行った結果、確かに行方が知れないということが分かれば、裁判所の宣告により、当該失踪者は死亡したものと扱うという制度です。

失踪宣告の場合は、離婚ではなく死亡扱いなので、相続が発生します。

死亡扱いではなく、確実に配偶者と離婚したいという場合には、次に説明する離婚訴訟の手続をとる必要があります。


訴訟手続は公示送達を利用する

離婚手続を進める場合には、原則として配偶者の関与を欠かすことは不可能です。
しかし、家庭裁判所に離婚訴訟を提起する方法であれば、配偶者の関与がなくとも、離婚というゴールに到達することができます。
いわゆる欠席裁判のような形をとるのです。

実は、訴訟という手続においては、被告が欠席したとしても、被告に訴状さえ届いていれば、裁判官が判決を出すことが可能です。
『被告に訴状さえ届いていれば』とあるのは、法律上、訴訟は、被告に訴状が届いたことをもって初めて成立するとされているからです。

では、配偶者が失踪してしまって居所が分からない場合には、訴訟を提起することすらできないのかというと、そんなことはありません。
この場合には、裁判所に対して公示送達という制度の利用を求めていくことになります。

公示送達とは、裁判所の掲示板に「あなたに訴訟が提起されました。訴状等を受け取りに来てください」といった内容の呼出状を貼り出し、貼り出してから2週間経過したところで、被告が訴状を受け取ったものとみなすという制度です。
これにより、配偶者が失踪していて居所が分からなかったとしても、最終的には訴訟を提起して離婚判決を得ることによって、離婚手続を完了することが可能になるのです。

なお、公示送達を行うことが認められるには、相応の調査を行っても被告の居所や就業先が見つけられないことを裁判所に示す必要があります。
この部分については、ややハードルが高いので、場合によっては弁護士への依頼を検討してみてもよいでしょう。

長い人生のなかで、結婚生活はさまざまな局面を迎えます。
仕事や家庭に何らかの問題が起きてしまった際に、何もかも嫌になって逃げだしてしまうということは、ままある話です。
ただ、相手が失踪してしまうと、離婚の手続きは大いに煩雑になります。
もし、離婚協議中で、まだ相手と連絡を取ることができる段階にあるとしたら「まとめられるときにまとめる」という視点を持つことも大切です。


※本記事の記載内容は、2021年10月現在の法令・情報等に基づいています。