経営者が知っておきたい社会保険の基礎知識

21.01.26
ビジネス【労働法】
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社員が一人でもいる会社は、すべて社会保険および労働保険の加入対象事業所となります。
これらの社会保険および労働保険は、労働災害や突然の解雇など、生活上のさまざまなリスクから労働者を守るために作られたもので、経営者としては、それらについて理解しておくことが重要です。
今回は、従業員を守るための社会保険および労働保険について解説します。
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保険ごとに定められている加入条件

会社が加入する公的な社会保険制度には『健康保険(医療保険)』『労災保険』『雇用保険』『厚生年金(年金保険)』『介護保険』の5つがあります。
このうち健康保険と厚生年金保険は通称『社会保険』とよばれ、労災保険と雇用保険は『労働保険』とよばれます。
あるいは、すべての保険を総称して『社会保険』ということもあります。
ここでは、健康保険と厚生年金保険を『社会保険』、労災保険と雇用保険を『労働保険』とします。

上記にあげた5つの公的な社会保険制度は、それぞれによって加入条件が異なります。
たとえ雇っている従業員がいなくても、経営者自身に報酬の支払いがあれば、経営者は自分自身のために社会保険に加入することになります。

従業員に関しては、フルタイム勤務の正社員は社会保険および労働保険の加入対象です。
パートやアルバイトも、労災保険は全員が対象となりますし、雇用保険も、従業員の労働時間が週20時間以上で、31日以上にわたって雇用を継続する見込みがある場合は、加入の対象となります。
社会保険は、労働時間や日数で違いますが、週の労働時間および1カ月の労働日数が概ね正社員の4分の3以上であるときに、加入手続きが必要になります。

このように従業員ついては、正社員やパートタイマーなどの雇用形態に関わらず、勤務する時間数や日数によって加入する社会保険および労働保険は異なります

労災保険は、正式には『労働者災害補償保険』と呼ばれ、自社の従業員が業務中や通勤途中にケガや病気をした場合に保険金を給付する制度です。
万が一従業員が死亡した場合には、遺族に保険金が給付され、その後の生活を助ける仕組みになっています。

労災保険は、原則的に法人・個人に関わらず、従業員を雇用する全ての事業者に対して加入義務があり、保険料に関しては、会社が全額負担することになっています。
そして、従業員がケガや病気、もしくは死亡した際には、会社に代わって国が補償を行います。

雇用保険は、その名の通り、労働者の雇用の安定と就職を促すための制度です。
雇用の際に、雇用保険被保険者資格取得の届出を管轄のハローワークに提出する必要があり、きちんと手続きを行っておけば、何らかの理由で従業員が離職・失業した場合に、本人が保険金の給付を受けることができます。


『組合健保』と『協会けんぽ』は違う

続いて残りの3つの保険について解説します。
よく聞く厚生年金、健康保険、介護保険は、それぞれ公的年金制度、介護保険制度、公的医療保険制度のうえに成り立っています。

公的年金制度は、国民年金と厚生年金保険に大別され、国民年金は、すべての国民が共通して加入する年金制度で、厚生年金は会社に勤める会社員や公務員を対象とした制度です。
厚生年金保険に加入していると、国民年金に上乗せされて厚生年金も支給されます。

また、介護保険は、満40歳以上の人が加入する保険で、労働者が疾病や老化で介護が必要になった時にサービスを受けられるよう、あらかじめ積み立てておく保険です。
介護保険制度はまだ新しく、給付やサービスの内容は随時新しくなっているので、これからも変わる可能性があります。

公的医療保険制度は、加入者と被扶養者が病気やケガをした際に、治療費の補償を受けるための制度です。
これは保険の種類によって、加入者と保険契約を結ぶ『保険者』が異なり、法人ではない個人事業主や農家などは、自治体が運営を担う『国民健康保険』に入ることになります。

一方、会社が従業員を雇用する際の健康保険は、大手企業や企業グループによる健康保険組合か、もしくは、健康保険組合のない企業が加入する全国健康保険協会によるもののどちらかになります。
この2つの医療保険組合は、『組合健保』と『協会けんぽ』と呼ばれます。

組合健保は、常時700人以上の従業員が働いている大企業が自社で設立する組合で、たとえば、大手自動車メーカーのトヨタはトヨタ自動車健康保険組合があり、インターネット関連サービスの楽天には、楽天健康保険組合があります。
この保険組合は複数の会社が共同で設立することもできるので、出版関係の会社で構成された出版健康保険組合や、食品関係の会社で構成された東京都食品健康保険組合なども存在しています。

一方、協会けんぽは、全国健康保険協会が運営しています。
現在の加入者数は200万社以上、都道府県別で保険料が決められ、事業主と被保険者が折半して納めます。
一般的に、組合健保は保険料率を自ら決めることができるので、協会けんぽよりもやや低い保険料率であることが多いようです。

これら5つの社会保険は、従業員を守るための大切な制度であるといえます。
保険料の支払い義務を守り、加入漏れがないように注意しましょう。


※本記事の記載内容は、2021年1月現在の法令・情報等に基づいています。