『訪問歯科』を導入するにあたって決めておきたいこと

26.11.03
業種別【歯科医業】
dummy

本格的な超高齢社会を迎える日本では、歯科医療の現場でも大きな変化が起きています。
ここ数年で、これまで通院できていた患者が、加齢や病気を理由に外来受診が困難になるケースが増えてきました。
そうした状況下では、住み慣れた場所で歯科治療を継続し、患者の口腔機能や全身の健康を維持して生活の質(QOL)を支えるために、『訪問歯科』の重要性が高まっています。
訪問診療の導入を検討している歯科医院に向けて、導入前に整理・決定しておくべきポイントを解説します。

dummy

『訪問歯科』を実施している医院は増加傾向

団塊の世代がすべて後期高齢者となり、医療や介護のニーズが急増したことで、2026年現在、在宅医療体制の構築は喫緊の課題となっています。
歯科医療においてもこの波は例外ではなく、厚生労働省の資料では、居宅で訪問歯科診療を行う歯科診療所は微増、施設で訪問歯科診療を行う歯科診療所は増加傾向にあります。
こうした状況から、訪問歯科診療の導入を検討する歯科医院も増えていくと考えられます。

訪問歯科の対象は、高齢者に限らず、疾病や障害などによって通院が困難な患者です。
そのため、外来で行うような大がかりな処置よりも、義歯の調整や製作、誤嚥性肺炎を予防するための専門的な口腔衛生指導、そして歯周病の管理といった、生活に密着したケアが中心となります。
食べる喜びを維持し、会話を通じたコミュニケーションを支えることは、患者の日々の生活の質を保つことにもつながります。

こうした地域社会における医療機関としての貢献は、社会的に意義のある事業といえるでしょう。
長年通っていた患者が通院できなくなったとき、自宅や施設へ赴いて診療を継続することは、かかりつけ歯科医としての役割を果たすことにつながります。
地域の高齢者を支えるインフラとして、歯科医院の存在価値を高めることにもつながります。

また、歯科医院の安定経営のために、訪問歯科に力を入れる歯科クリニックも少なくありません。
人口減少と少子高齢化が進むなか、従来の外来の患者を待つ経営スタイルでは、長期的な展望を描きにくくなってきました。
特に都市部から離れた地域や、高齢化率の高い地域では、外来患者数の確保がむずかしくなる可能性があります。

訪問診療という新たな柱を立てることで、医院の収益基盤を分散し、安定化を図ることができます。
介護保険制度との絡みもあり、当初は制度の理解に時間を要するかもしれませんが、適切な運営体制を整えることで、定期的な診療につながる可能性があります。
社会的な要請に応えることが、医院の経営基盤の強化にもつながる点は、訪問歯科のメリットといえます。

立ち上げの準備とルール決めを入念に行う

実際に訪問歯科を立ち上げるにあたっては、事前の綿密な準備とルールの策定が必要です。
行き当たりばったりで始めてしまうと、外来診療とのバランスが崩れ、現場のスタッフに過度な負担を強いることになります。

最初に確認したいのは、算定する項目に応じた施設基準の届出や、保険請求のルールです。
訪問歯科では医療保険だけでなく介護保険も関わってくるため、算定の要件が外来よりも複雑になります。
訪問先の施設の種類や、同一建物内で診療する患者数などによって点数が異なるため、事前に正しい知識を身につけ、適切な請求体制を構築しておく必要があります。

次に、訪問する対象エリアの範囲も確認しておきましょう。
保険診療の算定上、訪問先は原則として医院から16キロメートル以内とされ、これを超える場合は、その医院からの訪問を必要とする理由が求められます。
また、最初から広範囲を対象にしてしまうと、移動時間ばかりがかさみ、効率的な診療ができません。
まずは医院から車や自転車で15分から20分程度で到着できる近隣エリアに限定し、無理なく往復できる範囲から始めましょう。

スタッフの配置と業務の役割分担も明確にしておく必要があります。
院長一人で訪問するのか、歯科衛生士や歯科助手と同行するのかによって、提供できる治療の幅や診療効率が変わります。
外来診療を休診にして訪問の時間を設けるのか、それとも外来をほかのドクターに任せて並行して行うのかといった、クリニックの方針もあらかじめ決定しておきましょう。
誰が運転をし、誰が機材を運び、誰が家族やケアマネジャーとの連絡調整を行うのかといった細かなオペレーションのルールを明文化して、スタッフ間で共有しておくことで、導入後の混乱を未然に防ぐことができます。

厚生労働省の調査によれば、高齢になるほどクリニックへの通院がむずかしくなる患者が増えていることがわかります。
訪問歯科はこうした課題の解決につながると同時に、地域に求められる役割を果たせる、やりがいのある事業です。
立ち上げを検討しているのであれば、まずは現在のスタッフ体制や地域の状況を確認し、範囲や対象など、全体のルール決めから着手することが大切です。


※本記事の記載内容は、2026年11月現在の法令・情報等に基づいています。