顧客の本当のニーズを見失う『近視眼的マーケティング』に注意!

26.04.07
ビジネス【マーケティング】
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事業を進めるなかで、「広告を出してもまったく成果が出ない」「新製品を開発したのに思うように売れない」といったことは頻繁に起こります。
しかし、その原因は具体的なマーケティング施策ではなく、そもそもの視点の歪みにあるのかもしれません。
ハーバード・ビジネス・スクールのセオドア・レビット教授が提唱した「近視眼的マーケティング」は、その名の通り、『近視眼的』になった視野の狭いマーケティングを指します。
変化の激しいビジネス環境において、多くの産業や企業が陥りがちな「近視眼的マーケティング」について解説します。

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いつの間にか顧客視点が抜け落ちてしまう

「近視眼的マーケティング」とは、一言で言えば「マーケティングに対する視野が極端に狭くなっている状態」を指します。
1960年にセオドア・レビット教授が発表した論文のなかで提唱されたこの概念は、企業が「自社が提供している製品やサービスそのもの」に固執しすぎるあまり、顧客が本当に求めている「価値」や「便益」を見失ってしまう危うさを指摘したものです。

本来、ビジネスとは顧客の悩みや課題を解決するために存在します。
しかし、自社の技術力に自信があったり、過去の成功体験が強すぎたりすると、いつの間にか「何を売るか」ばかりを考え、「顧客がなぜそれを欲しがるのか」という視点が抜け落ちてしまいます。
これが、目先のことしか見えていない、『近視眼的』と呼ばれる理由です。

この概念を説明する際に、よく引用されるのが、アメリカの鉄道会社の事例です。
かつて鉄道会社は圧倒的な黄金時代を築いていましたが、自動車や航空機が普及すると共に衰退していきました。
レビット教授は、その原因は輸送技術の欠如ではなく、「自分たちは鉄道事業をやっている」と思い込んだことにあると指摘しました。
もし、「自分たちは輸送(トランスポーテーション)事業をやっている」と考えていれば、みずから航空事業に進出したり、より便利な物流システムを構築したりするなど、柔軟に進化できたはずです。

また、マーケティングの世界で有名な例え話の一つに「ドリルの穴」があります。
「顧客が欲しいのは、30cmのドリルではなく、30cmの穴である」という言葉です。
顧客はドリルという鉄の棒を買いたいのではなく、壁に穴を開けたいという「目的」のためにドリルという「手段」を選んでいるに過ぎません。
この本質を忘れてしまうと、より簡単に穴を開ける新しい技術やサービスが登場した瞬間に、どんなに高性能なドリルをつくっていても顧客からは選ばれなくなってしまいます。

視野の狭さに気がついたときの対処法

優れた経営者であっても、「近視眼的マーケティング」の罠に驚くほど簡単にはまってしまいます。
その理由の一つに、短期的な成果を求めるプレッシャーがあります。
月々の売上目標やコスト削減といった目の前の数字に追われると、どうしても「今ある商品をどう売るか」という短絡的な思考に陥りがちです。

また、成功している企業ほど「目的と手段の逆転」が起こりやすくなります。
本来は顧客満足のための手段であったはずの製品開発が、いつの間にか「いかに優れたスペックを実現するか」という自己満足的な目的へとすり替わってしまいます。

さらに、現在の市場が永遠に続くという楽観的すぎる未来予測も、マーケティング担当者の視界を曇らせます。
時代や技術の変化を直視せず、今のやり方が通用し続けると信じ込むことが、変化への対応を遅らせる原因となります。

では、どうすれば近視眼的マーケティングを回避できるのでしょうか。
第一に徹底したいのは、常に「顧客の立場」に立ち返ることです。
自社の商品を「モノ」として見るのではなく、顧客のどのような生活シーンを豊かにし、どのような不便を解消しているのかという「体験」のレベルでとらえ直す必要があります。

同時に、事業を長期的な視点で定義し直すことも重要です。
「うちは○○をつくる会社だ」と定義するのではなく、「うちは顧客の○○を支える存在だ」という広い視点を持つことで、市場環境が変わっても進むべき方向を見失わずに済むでしょう。

そして、社内の視点が偏らないよう、多様な意見を取り入れることも欠かせません。
開発、営業、カスタマーサポートなど、異なる接点を持つメンバーが顧客の声を共有し、時には自社の主力事業を否定するような大胆なアイデアにも耳を傾ける姿勢が、企業の持続的な成長を支えます。

1960年に提唱された近視眼的マーケティングは、決して過去の古い理論ではありません。
テクノロジーが進化した現代においても、マーケティングの視野が狭くなってしまう状況は起こりえます。
もし、マーケティング施策が停滞していると感じているなら、近視眼的な視野に陥っていないか、立ち止まって確認することをおすすめします。


※本記事の記載内容は、2026年4月現在の法令・情報等に基づいています。