円満な退社を実現するための『オフボーディング』とは

26.02.10
ビジネス【人的資源】
dummy

「オフボーディング」とは、退職者と良好な関係を保つための取り組みのことを指します。
退職に伴う事務手続きや業務の引き継ぎ、貸与品の回収といったプロセスはとても重要ですが、それ以上に、退職する社員と最後まで真摯に向き合い、良好な関係を維持したまま送り出すことが、企業のブランド価値にとって大きな意味を持ちます。
退職をネガティブな出来事として終わらせず、企業にとってポジティブな経験に変えるための「オフボーディング」について、その重要性と実践のポイントを解説します。

dummy

「オフボーディング」に取り組むメリット

企業が社員の退職時のプロセスに力を入れるべき理由には、リスク管理と未来への投資という二つの側面があります。

まず、実務的なリスク管理として、オフボーディングの仕組みが整っていないと、退職時に貸与品の回収漏れが起きたり、アクセス権限の削除が遅れたりしてしまいます。
こうした不備は、情報漏洩のリスクを高めることにもなります。
しっかりとしたプロセスをたどることで、セキュリティリスクを確実に回避することができます。
また、業務の引き継ぎが不十分なまま社員が去ってしまうことによる、残されたチームのパフォーマンス低下や混乱を防ぐことができるのも大きなメリットです。

一方、オフボーディングに注力することは、「企業のブランディング価値の向上」や「将来的な資産の確保」というメリットもあります。

退職者は会社を去った後、その企業の「評判」を左右する存在になります。
退職時の対応が冷淡であったり、事務的すぎたりすると、会社に対する心象は悪化し、SNSや口コミサイトなどでネガティブな発信をされる可能性があります。
逆に、最後まで一人の人間として尊重し、温かく送り出すことができれば、彼らは社外における「会社のファン」となり、商品やサービスの推奨者になってくれるかもしれません。

さらに、近年注目されているのが「アルムナイ(卒業生)」としての関係性です。
一度他社を経験した元社員が、スキルアップして再び戻ってくる「出戻り採用(再雇用)」や、ビジネスパートナーとして取引が始まるといったケースが増えています。
円満な退職を実現しておくことは、将来の優秀な人材確保やビジネスチャンスの種まきにもつながります。
オフボーディングへの取り組みは、突発的な退職によって関係が断絶してしまうのを防ぎ、長期的なネットワークを築けるため、企業にとって計り知れないメリットといえるでしょう。

退職者と良好な関係を築くためのプロセス

では、実際にどのようなプロセスを踏めば、効果的な「オフボーディング」となるのでしょうか。
最も基本となるのは「業務の十分な引き継ぎ」ですが、これは単にマニュアルを渡すだけでは不十分です。
形式知化されていないノウハウや人間関係の機微を含め、後任者が不安なく業務を開始できるレベルまで伴走することが理想です。
会社側が主導して、十分な引き継ぎ期間と環境を用意することで、退職者は「責任を果たした」という達成感を持って去ることができ、残る社員も安心して業務を継続できます。

また、次に取り組むべきは「退職者への面談(エグジット・インタビュー)」の実施です。
面談は、在籍中には言いづらかった組織の課題や本音をヒアリングできる貴重な機会となります。
ここで得られたフィードバックを真摯に受け止め、組織改善に活かす姿勢を見せることで、退職者は「自分の意見が尊重された」と感じ、会社への信頼感を損なわずに済みます。

そして、最後に「退職者とのネットワーク形成」も重要です。
退職後も参加できるOB・OG会の案内や、定期的なニュースレターの送付など、つながりを維持する仕組みを提示しましょう。
「辞めたら終わり」ではなく、「場所は変わっても仲間である」というメッセージを伝えることが、心理的な結びつきを強めるカギとなります。

オフボーディングを成功させるためには、ただ制度をつくるだけでは機能しません。
特に、退職者への敬意を忘れないコミュニケーションを徹底することが重要です。
組織内において、退職が決まった途端に態度を変えたり、裏切り者のように扱ったりすることは絶対に避けなければなりません。

これには、現場の管理者や同僚への意識付けも必要です。
そのため、関係者への研修を実施することも有効な手段です。
退職は個人のキャリア選択であり、尊重されるべきものであるという認識を社内に浸透させることで、チーム全体で気持ちよく送り出す雰囲気が醸成されます。

オフボーディングとは、企業と個人の関係を「雇用関係」から「良き理解者・パートナー」へと移行させるための重要なプロセスといえます。
退職者に対して誠実に向き合い、感謝と敬意を持って送り出すことは、リスク回避やブランディング向上といった経営的なメリットをもたらすだけでなく、残された社員に対しても「この会社は人を大切にする」というポジティブなメッセージとなります。

まずは自社の退職手続きを見直し、事務的な作業になっていないか、そこに「対話」や「コミュニケーション」が含まれているかなどについて、確認してみましょう。


※本記事の記載内容は、2026年2月現在の法令・情報等に基づいています。