地域のライフラインにも! 自然災害を想定した建設プロジェクト

26.02.03
業種別【建設業】
dummy

近年、気候変動による豪雨や巨大地震のリスクが、かつてないほど高まっています。
そのため、新たな建設プロジェクトの立案においては、いかに地域の命を守る砦になれるか、という視点が必要不可欠になってきました。
特に自然災害の多い日本では、計画段階から地域のハザードを読み解き、最悪の事態を想定して対策を織り込むことは、発注者の資産を守るだけでなく、地域の安全・安心を担保することにつながります。
国内外の事例を通じて、災害を想定した建設プロジェクトの意義と、そのために求められる具体策を紹介します。

dummy

イオンの奇跡と呼ばれたベトナムのモール

2025年10月末、ベトナム中部の古都・フエは同国史上最大の豪雨に見舞われ、市内の大部分が冠水する深刻な事態となりました。
そのなかで、湖に浮かぶ島のように無傷で佇む「イオンモール」の姿が、現地で大きな話題を呼びました。

地元紙で「イオンの奇跡」と呼ばれたこの姿は、偶然ではなく、イオン側の周到な災害対策によるものでした。
イオンは建設にあたり、過去に発生した大規模洪水の推移や被害状況を徹底的に分析し、建物の基礎を過去の洪水のピークよりも1.5メートル高く、道路の路面より2.5メートル高くする設計を採用しました。
この備えによって、店舗は浸水を免れただけでなく、冠水した街のなかで地域住民に施設を避難所として開放し、食料や生活物資の提供を継続できたとされています。

地域の安全を支える日本の建築物

自然災害を想定した設計思想は、建物が地域のライフラインとして機能するために極めて重要です。
特に災害大国である日本においては、欠かすことのできない視点だといえるでしょう。
実際に、日本国内にも地域の安全を支える建築物が少なくありません。

2013年に完成した愛知県の「知多信用金庫豊浜支店」は、伊勢湾に面した港のすぐ近くに位置しています。
同エリアでは、大地震の際には標高10メートルに達する津波が予想されており、同支店は地域貢献のために「津波避難ビル」としての機能を備えたうえで、建て替えられました。

構造は堅牢な鉄筋コンクリート造ですが、特徴的なのは1階部分の設計です。
外壁の一部を津波の衝突時に意図的に破壊される構造とすることで、波の力を逃がし、建物本体への衝撃を軽減させる「水抜き」の考え方が取り入れられています。
3階と屋上には約350人が避難できるスペースを確保し、平時は3階の集会所を地域住民に開放するなど、日常から地域に溶け込んだ防災拠点となっています。

また、東日本大震災で被災し、復興のシンボルとして現位置で建て替えられた「福島県須賀川市庁舎」も、防災拠点としての工夫が随所に凝らされています。
新庁舎では、災害対策を想定したフロア構成が採用され、3階には市長室の隣に「防災会議室」を配置し、有事の際には即座に情報収集と意思決定ができるよう、作業室も併設して初動対応の迅速化を図っています。

さらに、建物の角地には広い「防災広場」を整備し、周辺地域からの避難者受け入れや救援活動のスペースを確保しました。
建物本体の耐震設計はもちろんのこと、停電や断水が起きても行政機能が止まらないよう、非常用発電機や非常用飲料水貯水槽などのバックアップ設備も充実させています。
こうした「街全体のレジリエンス(復元力)」を高める設計は、これからの公共・民間建築のスタンダードといえるでしょう。

リスクを洗い出し適切な計画を立案する

自然災害を想定した建設プロジェクトを成功させるには、いくつかの重要なポイントがあります。

まず、洪水、津波、噴火、竜巻など、建設地ごとに潜むリスクをハザードマップ以上に深く読み解く必要があります。
そのうえで、建物を揺れから守る「免震」や「制震」の技術を適切に選定することが有効です。
同時に忘れてはならないのが、「非構造部材」への対策です。
東日本大震災では、建物の骨組みは無事でも、天井や壁が崩落して怪我をしたり、建物が使用不能になったりする被害が続出しました。
室内の安全を確保するためには、こうした部分の耐震補強が不可欠です。
また、病院や生産施設などでは、建物本体だけでなく、水や燃料を供給する付属設備への液状化対策も事業継続のカギを握ります。

さらに、地震とセットで発生しやすい「火災」への対策も重要です。
建物の耐火性能を向上させることは、自社ビルを守るだけでなく、周辺への延焼を防ぐことにもつながります。
その他、津波のリスクがある沿岸部での建設プロジェクトにおいて、最も重要なのは「水の威力」をどう制御するかという視点です。
知多信用金庫の事例でも触れた通り、建物を過度に剛構造とし、波の衝撃をすべて正面から受け止める設計は、構造計算上、非常に困難な場合があります。

そこで有効なのが、「ピロティ構造」や「水抜き」という考え方です。
1階部分を駐車場や吹き抜けにする、あるいは波の圧力で外壁が外れるように設計することで、津波が建物の中を通り抜けられるようにし、建物全体にかかる水平方向の負担を軽減させます。

南海トラフ地震や首都直下型地震のリスクが叫ばれる今の日本において、自然災害を想定した建設は単なるコストではなく、未来への投資といえます。
災害時に「あの建物に行けば助かる」と思われる建築物をつくることは、建設事業者にとっての重要な地域貢献であるということを認識しましょう。


※本記事の記載内容は、2026年2月現在の法令・情報等に基づいています。