株式会社が『会計参与』を設置するメリットと手順

25.12.19
ビジネス【企業法務】
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会計参与は、2006年の会社法施行時に新設された株式会社の「役員制度」として位置づけられています。
具体的な仕事内容としては、取締役と共同で会社の重要な貸借対照表や損益計算書、株主資本等変動計算書などの計算書類一式を作成し、その内容の正確性を担保します。
税理士や公認会計士といった会計の専門家が、会社の内部から計算書類の作成に関与するという点が、会計参与の大きな特徴です。
会計参与の設置を考えている企業に向けて、基本的な役割や、設置することで得られる具体的なメリットなどを解説します。

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任意で設置できる会計参与の職務や義務

会計参与は、会社法において取締役や監査役と並ぶ役員として位置づけられています。
最も重要な職務は、取締役と共同して、会社の計算書類およびその附属明細書を作成することです。
そして、会計参与になれるのは、会計の専門家である公認会計士(監査法人を含む)または税理士(税理士法人を含む)に限られています。
専門家が会社の内部に入り、役員という重い責任を負いながら、計算書類の作成プロセスそのものに関与する点がほかの機関との大きな違いです。

また、会計参与は作成した計算書類等を会社とは別に10年間保管し、株主や債権者からの閲覧請求に応じる義務を負います。
この義務により、会社の外部の利害関係者も専門家が関与した信頼性の高い会計情報へのアクセスが担保されるという仕組みです。

会計参与の設置は、一部の例外を除き、基本的には任意となります。
役員であるため、選任は株主総会の普通決議によって行われ、その報酬も定款または株主総会決議で定める必要があります。

「監査役」や「会計監査人」との違いとは

会計参与の役割を理解するためには、よく似た役割の「監査役」や「会計監査人」との違いを明確にしておきましょう。

「監査役」は、取締役の職務執行が法令や定款に違反していないかをチェックする機関です。
会計に関する監査も行いますが、あくまで作成された計算書類が適法か否かを確認する立場であり、作成そのものには関与しません。

「会計監査人」は、主に資本金5億円以上または負債200億円以上の大会社で設置が義務づけられる外部の監査機関です。
公認会計士または監査法人が就任でき、作成された計算書類が適正か否かをチェックし、監査報告書を作成します。

これに対し、会計参与は計算書類が出来上がってからチェックするのではなく、作成の段階から専門家として関与し、正確性を内部から確保します。

では、企業が任意で会計参与を設置することに、どのようなメリットがあるのでしょうか。
最大のメリットは、計算書類のクオリティが向上することです。
特に経理体制がまだ盤石ではない中小企業にとっては、会計の専門家が内部から作成プロセスを監督・指導することで、法令に準拠した正確な決算書を作成することが可能になります。

また、会計参与が作成に関与した計算書類には、「会計参与報告書」が添付されます。
この書類は、計算書類の内容の正確性を保証するためのものです。
したがって、金融機関が融資審査を行う際、会計参与報告書が添付された決算書は、非常に信頼性の高い情報として評価されます。

さらに、定款に違反する重大な事実を発見した場合、会計参与は株主(監査役設置会社の場合は監査役)に報告する義務があり、取締役と共同で計算書類を作成するという性質上、取締役による不適切な会計処理や利益操作を未然に防ぐという『牽制機能』が働きます。

会計参与を設置するためのプロセス

実際に会計参与を設置するには、法務的な手続きが必要です。
まず、公認会計士、監査法人、税理士、税理士法人のいずれかから、会計参与に就任してもらう候補者を選定します。
自社の業種や規模を理解し、経営陣と円滑に連携できる専門家を選ぶことが重要です。

次に、会社の根本規則である定款に「当会社は、会計参与を置く」といった規定を設ける必要があります。
定款の変更は、株主総会における特別決議(議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成)という、厳格な決議が必要です。

定款変更後、または定款変更と同時に、株主総会の決議によって、具体的な候補者を会計参与として選任します。
最後に、会計参与は役員であるため、選任の日から2週間以内に、法務局に対して、「会計参与設置会社の定め」の新設と、会計参与の氏名などを登記する変更登記申請を行わなければなりません。

会計参与の設置は任意であり、こうした設置のための手間と役員報酬という名のコストも発生します。
そのため、特にリソースが限られる中小企業にとっては、導入のハードルが高く感じられるかもしれません。
一方で、計算書類の正確性を担保できるうえに、金融機関や取引先との関係強化、経営判断の精度向上、社内のガバナンス強化などが期待できます。
メリットとデメリットを踏まえたうえで、設置を検討してみてはいかがでしょうか。


※本記事の記載内容は、2025年12月現在の法令・情報等に基づいています。