退職者に対する『源泉徴収票』の交付義務とは
社会保険の資格喪失手続きや離職票の準備など、従業員の退職に際して、会社が対応すべき手続きは多岐にわたります。
そのなかでも税務で重要な手続きの一つが「源泉徴収票」の交付です。
企業は、退職した従業員に対して、その年の1月1日から退職日までに支払った給与や賞与、源泉徴収した所得税の額などを記載した源泉徴収票を必ず発行し、交付しなければなりません。
法律で定められた企業の義務でもある『退職者への源泉徴収票の交付』について解説します。
源泉徴収票を交付しないと罰則の可能性も
退職者への源泉徴収票の交付は、所得税法第226条第1項によって定められた給与支払者(=会社)の法的義務です。
原則として、この交付義務は正社員だけではなく、パートやアルバイトであっても、給与を支払った従業員が退職した場合には発生します。
退職者は多くの場合、次の転職先で年末調整を受けるか、あるいは自身で確定申告を行うことになります。
その際、退職した会社から受け取った給与額や、すでに納めた所得税額を証明する書類として、この源泉徴収票が必要になります。
退職者にとっては非常に重要な書類の一つである源泉徴収票ですが、会社側が正当な理由なく交付しないと、所得税法第242条に基づき、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性もあります。
意図的に事実と異なる内容を記載して交付したり、期限内に交付しなかったりした場合にも、同様に罰せられる可能性があるので注意してください。
特に交付期限は、日常の業務に追われるなかで見落とされがちなポイントです。
在職中の従業員への源泉徴収票の交付は翌年の1月31日までが期限ですが、退職者の場合「退職の日以後1カ月以内」と短いため注意が必要です。
源泉徴収票の交付までの具体的なプロセス
発行手続きは、退職者の最終給与が確定した時点で作業を開始します。
まず、退職が決定したら、その従業員の退職日を正確に把握しましょう。
そして、その年の1月1日から退職日までに支払った給与・賞与の総額、差し引いた社会保険料の合計額、さらに源泉徴収した所得税の合計額を正確に集計・確定させます。
この時、注意したいのが「年末調整」の扱いです。
年の途中で退職する従業員については、原則として会社は年末調整を行いません。
そのため、源泉徴収票の「年末調整未済」といった欄に印がつくことになります。
必要な数字がすべて確定したら、「給与所得の源泉徴収票」を作成します。
基本的には、給与計算ソフトや会計ソフトを利用して自動的に作成するケースがほとんどですが、年の途中で給与改定があったり、特殊な手当があったりする場合は、手動で確認する必要があります。
作成が完了したら、退職者本人へ交付します。
期限は前述の通り「退職の日以後1カ月以内」です。
最終出社日に手渡しできるのが理想的ですが、最終給与の計算が間に合わない場合も多いので、その際は後日郵送することになります。
もしくは、本人の同意があれば、電子メールの添付など、電磁的方法による交付も認められています。
源泉徴収票の発行の際によくあるミスと対策
退職者への源泉徴収票発行業務は、慣れているつもりでも意外な落とし穴があります。
よくあるミスは、記載内容の誤りです。
特に、支払総額や源泉徴収税額、社会保険料の控除額といった数字の間違いは、退職者の転職先での年末調整や確定申告に迷惑をかけることになります。
たとえば、中途入社だった従業員が退職する際に、前職分の源泉徴収票の内容まで誤って合算して記載してしまう、といったケースもあります。
自社が支払った金額のみを正確に記載しなければなりません。
ミスを防ぐためには、給与計算ソフトの出力結果だけを鵜呑みにせず、担当者による確認はもちろん、可能であれば別の担当者によるダブルチェック、もしくは税理士に最終確認を依頼するのも一つの手です。
また、「すでに退職した人」という意識からか、手続きが後回しにされ、気づいた時には交付期限を過ぎていた、あるいは退職時に確認した住所が間違っており、郵便物が返送されてしまうケースも少なくありません。
退職手続きのチェックリストに「源泉徴収票の作成・送付」を組み込み、誰がいつまでに対応するかを明確にするようにしましょう。
住所確認は退職時の面談などで必ず行い、その記録をしっかり残しておき、記録が残る方法で郵送することでミスを防ぐことができます。
退職者への源泉徴収票の交付は、企業の重要な責務です。
「退職後1カ月以内」という期限を守り、支払った給与や徴収した税額を正確に記載した書類を、確実に本人の手元に届けましょう。
※本記事の記載内容は、2025年12月現在の法令・情報等に基づいています。