賃貸物件の設備の故障は誰が直す?『大家の修繕義務』とは
アパートやマンションなどの賃貸物件で暮らしていると、「エアコンが動かない」「お湯が出ない」「雨漏りがする」といった設備の故障に遭遇することがあります。
賃貸物件では、設備の故障や不具合などの修理は、賃貸物件の持ち主である大家が行うという「修繕義務」が法律で定められています。
しかし、どこまで直してくれるのか、どんな場合に直してくれるのかといった具体的なルールを把握していないと、思わぬトラブルに発展しかねません。
安心して快適な賃貸生活を送るためにも、「大家の修繕義務」の基本を押さえておきましょう。
大家に求められる修繕義務の基本と範囲
民法601条では、賃貸人は賃借人に対して、目的物を使用および収益させるという義務を定めています。
使用とは、賃借人がその目的物を自由に使えることを意味し、収益とは、賃借人がその目的物を使って利益を得ることを指します。
また、賃貸人の修繕義務について定めた民法606条でも、賃貸人は、賃貸物の使用および収益に必要な修繕をする義務を負うとされています。
つまり、賃貸物件において、大家である賃貸人は、借主の住んでいる部屋に不具合を生じさせないようにしなければなりません。
そして、テナントとして貸している物件であれば、商売に不都合が出ないようにしなければならない、ということになります。
そして、もし物件に不具合や不都合が出たら、大家は直ちに借主が生活するために必要な修繕をしなければならないということです。
この「生活するために必要」という考え方が、修繕義務の範囲を判断するうえでの大きなポイントになります。
大家が修繕するのは、その物件で普通に生活するために必要な部分と考えられています。
たとえば、備え付けのエアコンや給湯器、コンロ、トイレ、お風呂といった生活に不可欠な設備が壊れて使えなくなった場合や、ドアや窓がきちんと閉まらない場合、雨漏り、排水管の詰まりなどが対象となります。
一方で、壁紙の日焼けや小さな傷、電球の交換といった、生活するうえで大きな支障がない軽微なものについては、大家の修繕義務の対象外とされることが一般的です。
賃貸契約書に「電球などの消耗品交換は入居者負担」といった特約として具体的に書かれていることも多いため、自身の契約書を確認してみることも大切です。
また、大家の修繕義務は、単に「古くなったから」という理由だけで、すぐに発生するわけではありません。
その不具合によって、借りている人が普通に生活できなくなった、あるいは支障が出た場合に発生します。
つまり、客観的に見て「修理が必要な状態」であることが基準となります。
借りている人から「壊れました」と連絡があって初めて大家が知るケースも多いため、不具合に気づいたら速やかに大家や管理会社に連絡することが重要です。
修繕の程度と借主に故意・過失がある場合
法律上、修繕の程度については、必ずしも「新品同様」に戻すことまでは求められていません。
契約時に想定されていた「普通に使える状態」まで回復させることが基本となるため、たとえば、古いエアコンが壊れた場合は、修理して再び動くようになれば問題なく、最新モデルの新品に交換することまでは義務づけられていません。
さらに、もし故障や不具合の原因が、借りている人の「故意」や「過失」にある場合は、事情が異なります。
「子どもが遊んでいて窓ガラスを割ってしまった」「掃除不足で排水溝が詰まり水漏れを起こした」「うっかり重いものを落として、床をひどく傷つけてしまった」といったケースです。
このような借主の使い方や管理不足が原因で修理が必要になった場合、その修理費用は、借主が負担するのが原則となります。
修繕してくれない場合は段階的に対応する
賃貸物件のトラブルにおいて、意外と多いのが修繕に応じてくれないケースです。
法律で修繕義務が定められているとはいえ、実際に大家や管理会社に対応してもらえなければ、生活に支障が出てしまいます。
もし、大家に修繕をお願いしても動いてくれない場合、まずは電話だけでなく、メールや書面で、故障の具体的な状況、いつから困っているか、そして修理をいつまでに実施してほしいかをあらためて具体的に伝えます。
場合によっては内容証明郵便など、連絡した証拠が残る形にしましょう。
それでも対応してもらえない場合や、緊急を要する場合は、一定の条件のもと、借主が自分で修理業者を手配し、かかった費用を後で大家に請求する(または、その分を家賃から差し引く)ことが認められるケースもあります。
ただし、認められるには「大家に修繕が必要な旨を通知したこと」や「相当な期間待っても修繕してくれないこと」などの条件が必要になることがあります。
トラブルに発展しそうであれば、消費者センターや国民生活センター、あるいは不動産問題に詳しい弁護士に相談することも視野に入れておきましょう。
賃貸物件で快適に過ごすために重要なのは、トラブルを未然に防ぐことです。
そのためには、入居時に物件の状態を写真などで細かくチェックしておき、万が一不具合が発生した場合は、できるだけ早く大家や管理会社に連絡・相談することが大切です。
※本記事の記載内容は、2025年12月現在の法令・情報等に基づいています。