労働基準法の大改正でも注目!『つながらない権利』とは

25.12.19
ビジネス【労働法】
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「つながらない権利」とは勤務時間外や休日に、仕事上のメールやチャット、電話などへの応答を拒否できる権利のことを指します。
スマートフォンの普及やリモートワークの浸透により、いつでも、どこでも仕事ができるようになりました。
しかし、利便性が向上する一方で、労働時間と私生活の境界線があいまいになり、常に仕事とつながっている状態が従業員の心身の負担になるという課題も出てきました。
現在、40年ぶりの労働基準法の大改正に向けた検討が進められていますが、その重要な論点の一つである「つながらない権利」について解説します。

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どこでも連絡がついてしまう常時接続の弊害

労働者の働き方の基盤となる労働基準法は、1947年の制定以来、時代に合わせて改正が重ねられてきました。
しかし、働き方の多様化やデジタル化の急速な進展といった変化に対応するため、現在、約40年ぶりともいわれる抜本的な見直しに向けた検討が進められています。
早ければ2026年にも改正法案が国会に提出される可能性があり、企業経営に与える影響も非常に大きいと考えられます。

この大改正の議論のなかで、社会的な関心と共に注目を集めている論点の一つが「つながらない権利」の扱いです。
「つながらない権利」とは、労働者が勤務時間外や休日に、業務上の連絡(メール、チャット、電話など)への対応を拒否できる権利を指します。

その背景には、テクノロジーの進化による「常時接続」の弊害がありました。
かつては会社の外に出れば、仕事から物理的に切り離されるのが当たり前でしたが、現在は会社支給のスマートフォンや個人のデバイスに、時間外でも業務連絡が届くケースが少なくありません。

特にリモートワークの普及は、この傾向に拍車をかけました。
自宅が職場となることで、仕事とプライベートの「オン」と「オフ」の切り替えが非常にむずかしくなり、時間外の連絡に即時対応することが「当然」といった空気感が生まれ、従業員は十分な休息をとることができなくなりました。

十分な休息がとれなければ、心身の健康を損ない、メンタルヘルス不調や燃え尽き症候群を引き起こす原因となります。
また、時間外の連絡に対応する時間が実質的な労働とみなされれば、それは「隠れ残業」となり、企業は労働時間管理の不備や、将来的な未払い残業代請求といった法的リスクを抱えることにもなりかねません。

日本に先んじて一部の国では権利の法制化も

「つながらない権利」は、現代ならではの課題から従業員を守り、健康で持続的に働ける環境を確保するために不可欠な概念として、国際的にも議論が進んでいます。

一部の国ではすでに法規制が進んでおり、たとえばフランスでは、従業員が50名以上の企業において、「つながらない権利」に関する方針を労使で協議することが法定化されています。
ほかにも、スペインやイタリア、ベルギーなどでも、「つながらない権利」の法制化が実現しています。

一方で、日本において「つながらない権利」はまだ法制化されておらず、各企業の判断に任されているのが現状です。
厚生労働省による2024年の「労働時間制度等に関するアンケート調査」では、勤務時間外や休日の社内連絡に関するルールについて、「特段ルール等は整備しておらず、現場に任せている」企業が36.8%で最多という結果になりました。

日本国内においても、「つながらない権利」に関する問題は喫緊の課題として認識されつつあり、ガイドライン策定の可能性も出てきました。

厚生労働省の「労働基準関係法制」について議論する労働政策審議会労働条件分科会では、「つながらない権利」をどのように制度へ落とし込むかが、議論されています。
現在の議論の方向性として重要なのは、法律で一律に「時間外の連絡を全面禁止する」といった強硬な手段をとるのではなく、まずは各企業の実情に応じて労使が話し合い、自主的な社内ルールを決めることを促進しようという点です。

たとえば、業種や職種によっては、緊急時の対応がどうしても必要な場合もあります。
そうした特性を踏まえつつ、将来的には、「原則として時間外の連絡は控える」「緊急の定義や連絡手段など、連絡が必要な場合のルールを明確にする」「早朝などの特定の時間帯は連絡を禁止する」といった内容を労使で協議して定めていくことが想定されます。

分科会では、企業がこうしたルールづくりに円滑に取り組めるよう、労使の話し合いを促進していくためのガイドラインの策定などを検討することが必要だと結論づけました。
このガイドラインには、ルール策定の考え方や、望ましい取り組みの具体例などが盛り込まれると見込まれます。

労働基準法の大改正やガイドラインの策定は、早くても2026年以降ですが、企業として、先んじて「つながらない権利」のルール化に取り組むのは、経営戦略の一つにもなるでしょう。
明確なルールのもとで従業員がしっかりと休息をとり、オンとオフのメリハリをつけられるようになれば、従業員のエンゲージメントや生産性の向上が期待できます。
法改正の動向を待つのではなく、まずは自社の現状を把握することから始めてみてはいかがでしょうか。


※本記事の記載内容は、2025年12月現在の法令・情報等に基づいています。