上限額が拡大の可能性も!『食事補助』を経費計上するための要件

25.12.09
ビジネス【税務・会計】
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福利厚生の一つでもある「食事補助」は、多くの従業員の満足度向上に直結する効果的な施策です。
この食事補助は、従業員を支援するだけではなく、一定の要件を満たせば、会社の経費として計上できるというメリットもあります
さらに、従業員側も会社からの補助額が所得税の課税対象とならないという、労使双方にとって有利な税制優遇制度です。
従業員は手取りを減らすことなく実質的な給与アップとなり、会社は節税効果を得られる食事補助について解説します。

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法定外福利厚生である食事補助の導入メリット

食事補助は、法律で定められた社会保険や労働保険とは異なり、会社が任意で導入できる「法定外福利厚生」の一つです。
会社にとって義務ではありませんが、導入することで、単なるコスト以上のリターンが期待できます。

たとえば、メリットの一つに、従業員のエンゲージメント向上があります。
また、食事は従業員の健康維持やパフォーマンス向上にもつながります。
会社が食費の一部を負担することで、従業員はより質の高い栄養バランスの取れた食事を選べるようになります。
結果として従業員の満足度が高まり、会社へのエンゲージメントも向上します。
離職を防いで、優秀な人材を定着させるためにも、食事補助は効果的な手段の一つといえるでしょう。

また、求職者が企業を選ぶ際には、給与や仕事内容と同じくらい、福利厚生の充実度を重視する時代になりました。
特に、物価高騰が続くなかで、「食費の補助がある」ことは、実質的な手取り増加と同じ価値を持ち、大きな魅力となります。
採用面接などで食事補助を提示できることは、他社との差別化を図り、優秀な人材の採用競争において非常に有利に働く武器となります。

そして、食事補助を導入する最も大きなメリットが、税務上の優遇です。
正しく制度を設計すれば、会社が負担した食事補助の費用は「福利厚生費」として処理され、全額が経費(損金)として認められます。

もし、この補助を「給与」として支給してしまうと、会社は給与額に応じて社会保険料の負担が増え、損金算入は可能でも従業員の所得税・社会保険料の負担が増えてしまいます。
しかし、「福利厚生費」として認められれば、社会保険料の対象にもならず、会社は社会保険料の負担増を避けつつ、節税効果を得ることができます。

福利厚生費としての経費計上に必要な2つの要件

「福利厚生費」として経費計上し、従業員に非課税のまま食事補助として提供するためには、税法で定められた要件を満たす必要があります。
その要件とは、「従業員が食事費用の50%以上を負担すること」と「会社の負担額が1カ月あたり3,500円(税抜)以下であること」の2つです。

まず大前提として、食事の費用(原価)の半分以上(50%超)を、従業員自身が負担している必要があります。
たとえば、会社が提供する食事の原価が1食あたり600円だった場合、従業員は少なくとも301円(50%超)を負担しなければなりません。
会社が負担できるのは、残りの299円以下となります。

この要件は、会社の食事が無料、あるいは極端に安価であると、給与と同じ経済的な利益とみなすという税法上の考え方に基づいています。
従業員にも一定の負担を求めることで、初めて福利厚生として認められるというわけです。

また、会社の負担分を給与に上乗せする形で支給する場合は、福利厚生として認められません。
なぜなら、上乗せ分が必ず食事に使われるとは限らないからです。
食事補助が福利厚生として認められるためには、あくまで『食事を補助している』という事実が必要です。
したがって、導入する際は、社員食堂やお弁当の配送サービス、食券の配布といった形が望ましいでしょう。

そして、もう一つの要件として、会社が負担する金額(補助額)には、「1カ月あたり3,500円(税抜)」という上限が設けられています。
もし、月額3,500円を超えて会社が負担した場合、一つ目の要件を満たしていても、超えた部分ではなく、食事補助の全額が給与として課税対象になってしまいます。
たとえば、会社負担額が月額3,600円になった場合、超過分の100円だけが課税されるのではなく、3,600円の全額が給与として扱われるため、この限度額の管理はとても重要になります。

ただし、近年はこの非課税限度額の月額3,500円が見直される動きが出てきました。
月額3,500円という金額は1980年代から40年以上も据え置かれたままで、大きく変動した物価との乖離が顕著です。
現在の経済実態に合っておらず、形骸化しているという指摘が経済団体や各方面からも上がっています。

月額3,500円の限度額を引き上げようという動きが、国会や政府内でも急速に進んでいます。
非課税限度額の引上げは食事補助制度をあらためて見直し、拡充を検討する大きなきっかけとなるかもしれません。
今後の動向を注視しておきましょう。


※本記事の記載内容は、2025年12月現在の法令・情報等に基づいています。