『年功序列』が適している組織と適さない組織

25.11.11
ビジネス【人的資源】
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日本企業では、成果主義やジョブ型雇用が主流となりつつあるとされてきました。
しかし、2025年に行われた民間の研究所の調査では、旧来の年功序列型の人事制度を望む声が、成果主義を上回る結果となりました。
これは、調査開始から36年で初めての逆転現象であり、働き手たちの価値観が多様化していることを示しています。
では、若い社員を中心に増えている年功序列を望む声に、企業としてどのように向き合えばよいのでしょうか。
年功序列が適している組織と適さない組織について、多角的な視点から考えます。

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年功序列が広まった高度経済成長期

年功序列制度は、戦後の高度経済成長期に日本の多くの企業で導入され、広まっていきました。
終身雇用とセットで導入された年功序列は、技術やノウハウの継承に有効で、社員は一つの企業に長く勤めることで安定した生活を約束され、企業は熟練した労働力を確保できるという、労使双方にとって利点のある仕組みとして機能しました。
特に、一つの製品を完成させるために多くの社員が長期間にわたって協調して作業にあたる自動車産業や電機メーカーなどの「製造業」で、年功序列は大きな役割を果たしました。

組織全体の生産性を高め、日本の経済成長を力強く支えた年功序列は、成果よりも勤続年数が評価されるため、社員は長期的なキャリアプランを描きやすく、一つの会社で長く働くことへの安心感を得ることができます。
これにより、会社への忠誠心や連帯感が醸成され、年功序列の企業は組織としての一体感も高まります。
また、新人教育に時間をかけ、じっくりと専門スキルを身につけさせることができるため、年功序列の企業では、長期的な視点での人材育成が可能です。

一方で、課題もあります。
年功序列の企業では、成果が給与や昇進に直接的に反映されにくいため、高い成果を出している優秀な若手社員の意欲が低下してしまう可能性があります。
また、能力が低くても勤続年数が長いというだけで高いポジションに就いてしまう社員もおり、組織の活力が失われたり、新陳代謝が滞ったりする原因にもなりかねません。
勤続年数が長くなれば、それだけ人件費がかかってしまうという問題も無視できないでしょう。

こうしたさまざまなデメリットが取り沙汰された影響もあり、90年代に入ってからは、成果主義制度やジョブ型雇用に移行する日本企業も増えてきました。
少し古い資料ですが、厚生労働省の「就労条件総合調査」(2004年)によると、個人業績を賃金に反映させている企業は全体の53%に達していました。
つまり、多くの企業が年功序列ではなく、成果主義を取り入れ出したということです。

ライフワークバランスが年功序列の再評価に

時代の移り変わりと共に、成果主義を採用する企業が増えてきたからこそ、年功序列を望む声が増えているという今回の調査結果は、大きな反響を呼びました。
この背景には、不安定な社会情勢や、成果主義がもたらす過度な競争への疲弊があると考えられています。

年功序列には安定した働き方を前提とする側面があるため、精神的な安心感を求める若者にとっては魅力的に映ります。
近年はライフワークバランスを重視する価値観の影響もあり、評価が流動的な成果主義よりも、生活設計のしやすい年功序列が再評価されているという面もあるでしょう。
企業においては、こうした年功序列を望む声に向き合いながら、自社の人事制度を再考する必要が出てきているのかもしれません。

では、年功序列が適している組織とは、どのような組織なのでしょうか。
年功序列が適しているのは、長期的な視点での人材育成が不可欠な組織です。
具体的には、熟練した技術や知識の継承が重要な役割を果たす伝統的な製造業や研究開発部門、あるいは公共性の高い事業を担うインフラ関連企業などがあげられます。
これらの組織では、すぐに結果が出るような仕事は少なく、長年にわたる経験と知識の蓄積が組織の競争力に直結します。
ベテラン社員が持つ暗黙知を若手に伝え、組織全体で時間をかけて成長していくことが求められるため、年功序列の仕組みが有効に機能します。

一方、年功序列が適さないのは、IT業界やWebサービス、コンサルティングファームなど変化の激しい業界や、個々の成果が明確に評価されやすい組織です。
これらの組織は、市場や技術の動向が目まぐるしく変化するため、スピーディーな意思決定と実行が不可欠です。
個々の社員の能力やアイデアが直接的に事業の成功を左右するため、年齢や勤続年数に関係なく、成果を出した社員を正当に評価し、抜擢する成果主義の方が適しています。
また、クリエイティブな仕事や新しい価値の創出が求められる組織では、年功序列が個々の創造性を妨げる危険もあるでしょう。

年功序列制度は、決して古いものではなく、組織の特性や事業内容によっては、今なお有効に機能する可能性が高い制度の一つです。
重要なのは、自社の事業や組織風土を深く分析し、どのような人材が、どのような働き方で活躍できるのかを見極めることです。
そのうえで、自社に最も適した人事評価制度を設計していくことが大切です。


※本記事の記載内容は、2025年11月現在の法令・情報等に基づいています。