出張旅費を正しく処理する「実費精算」と「日当」の違い

25.11.11
ビジネス【税務・会計】
dummy

出張の多い経営者や従業員にとって、出張後の経費精算は手間のかかる業務の一つではないでしょうか。
交通費や宿泊費の実費を一つひとつ精算する方法が一般的ですが、「出張旅費規程」を整備し「日当」を支給する方法を活用することで、経理業務の簡略化に加え、会社・従業員双方にとって税務上のメリットも期待できます。
今回は、そんな「実費精算」と「日当」の仕組みとメリット、導入するうえでの注意点についてわかりやすく解説します。

dummy

『日当』の基本と税務上のメリット

出張費の精算には、かかった費用を実費で精算する「実費精算」と、規定に基づいて一定額を支給する「日当(出張手当)」の2つの方法があります。

実費精算は、領収書に基づいて精算するため経費の透明性が高い反面、多くのデメリットを抱えています。
申請者にとってはレシートや領収書の管理・糊づけ、申請書作成といった手間がかかり、経理担当者にとっては内容のチェック、勘定科目の判断、会計ソフトへの入力、振込手続きなど、煩雑な作業が発生します。
また、従業員の立替払いが長期間に及ぶと不満の原因にもなりかねません。

一方、日当は出張中の昼食代や細々とした諸雑費を補う目的で、交通費や宿泊費とは別に定額で支給する手当のことを指します。
日当を導入すると、こうした精算業務が簡略化できるだけでなく、税務上も大きなメリットがあります。
会社にとっては、日当は給与とは別とみなされるため、所得税・住民税の課税対象外となります。
「出張旅費規程」を定めることで、日当を経費(損金)として計上でき、さらに国内出張であれば消費税の課税仕入れとして扱えるため、法人税と消費税を抑えられます。
たとえば、日当2,000円、宿泊費8,000円を出張旅費規程で定めている場合、実費の宿泊費が7,000円であっても、規程通り日当2,000円と宿泊費8,000円の合計10,000円を経費にでき、消費税の仕入税額控除の対象にもなります。

受け取る役員や従業員にとっては、日当は「非課税所得」となるため、所得税・住民税がかかりません。

さらに、日当は給与(報酬)ではないため、社会保険料の算定基礎からも除外されます。
これは、将来の厚生年金受給額に影響を与えることなく、会社と個人の社会保険料負担を軽減できることを意味します。
まさに、日当は会社と個人にとっても手残りが増える、非常にメリットの大きい制度といえるでしょう。

日当を非課税にするための重要なポイント

このメリットの大きい日当ですが、正しく制度を運用しないと、税務調査で役員や従業員の「給与」とみなされ、源泉徴収漏れを指摘されるリスクがあります。
そうならないために、最も重要なポイントが「出張旅費規程」をきちんと作成し、その規程に基づいて運用することです。

口約束や慣習で日当を支払っているだけでは、損金への算入や非課税所得としての正当性を主張することは困難です。
「出張旅費規程」には、少なくとも以下の項目を網羅的に記載し、誰が見ても公平で合理的なルールとして整備しておく必要があります。

(1)目的:規程を定める目的(円滑な業務遂行など)
(2)適用範囲:対象者(役員、正社員、契約社員など)
(3)出張の定義:日帰り・宿泊の基準(例:片道100km以下を日帰り出張とするなど)
(4)旅費の種類:交通費、宿泊費、日当のそれぞれの定義
(5)旅費の金額:役職別、出張先(国内・海外、甲地・乙地など)に応じた具体的な金額テーブル
(6)手続き:出張前の仮払申請、出張後の精算・報告(出張報告書の提出義務など)の方法

特に日当の金額については、「その旅行について通常必要であると認められるもの」でなければなりません。
法律で上限額は定められていませんが、社会通念上妥当な範囲で設定する必要があります。
財務省による「民間企業における出張旅費規程等に関するアンケート報告書」では国内出張の場合の日当支給額は、平均で2,621円(最高3,786円、最低1,780円)あたりが一般的な相場観のようです。
特定の役員だけが不相当に高額である、または規程があっても実際は出張の事実がないのに支払われていた場合には、給与や役員賞与と認定される可能性が高まります。
同業他社や事業規模が同程度の会社と比較しても、バランスの取れた金額基準を「出張旅費規程」で定め、厳格に運用することが税務調査にも安心して対応できる最大の備えとなります。

出張旅費の日当制度は、経理の効率化と、会社・従業員双方の負担を抑える有効な手段です。
ただし、そのメリットを享受するためには、客観的で合理的な根拠となる「出張旅費規程」の整備と、それに基づいた厳格な運用が不可欠です。
また、一度作成した規程も、物価の変動や会社の成長に合わせて定期的に見直すようにしましょう。


※本記事の記載内容は、2025年11月現在の法令・情報等に基づいています。