労働基準監督署からの呼び出し!?『出頭要求書』が届いた場合には
労働基準監督署は、企業を監督・調査する機関であり、労働者からの相談や申告、あるいは定期的な監督のなかで、なんらかの労働法違反の疑いがある場合に企業を調査します。
労働基準監督署の調査というと、突然の事業場への立ち入り調査をイメージしますが、最近では、事業場に立ち入らず、会社の責任者を呼び出して話を聞く形式の調査も増えています。
この呼び出しの際に、労働基準監督署から送られてくるのが「出頭要求書」です。
企業の代表者は特に理解しておきたい、出頭要求書が届いた際の適切な対処法や、出頭要求書を無視した場合のリスクなどについて解説します。
役割と出頭要求書が送付されるケース
労働基準監督署は、労働基準法や最低賃金法といった労働関係法令が企業で適切に守られているかを監督する厚生労働省の専門機関です。
その主な業務の一つに、企業への調査があります。
臨検監督には、事業場の業種や規模、過去の違反歴などを考慮して、計画的に実施される「定期監督」、労働者から申告があった場合に、その事実を確認するために実施される「申告監督」、そして、労働災害が発生した場合に、その原因究明と再発防止のために実施される「災害時監督」などがあります。
これらの監督は、労働基準監督官が事業場を訪問して行われることもあれば、会社の責任者を呼び出し、書類の確認や聞き取りといった方法で行われることもあります。
ちなみに、事業場を訪問する立ち入り調査のことを「臨検監督」と呼びます。
呼び出しは、労働基準監督署が臨検監督をせずとも、会社の代表者や労務担当者から直接話を聞くことで問題解決につながると判断した場合に実施されます。
その際に送付されるのが「出頭要求書」です。
出頭要求書が届くのは、主に3つのケースが考えられます。
一つ目は、在職中の従業員や退職した元従業員から、労働基準監督署に労働基準法違反に関する相談や申告があった場合です。
たとえば、残業代や休日出勤手当が支払われていない、法定労働時間を大幅に超えて働かされているなどの申告があった場合、労働基準監督署は出頭を求めて事実関係を確認しようとします。
二つ目は、臨検監督の際に必要な帳簿書類が揃っていなかったり、記載内容が不十分だったりした場合に、後日、不足している書類を持参するよう出頭を求められることがあります。
三つ目は、定期監督などの際に、軽微な違反が発見され、その場で是正勧告が行われたものの、その後の是正状況が確認できなかったため、あらためて状況を確認するために呼び出されることもあります。
出頭までに用意しておくべき書類
出頭要求書が届くと、多くの責任者は「何か重大な問題があるのだろうか」と不安になるかもしれません。
重要なのは、焦らずに通知書の内容を確認し、適切な準備をすることです。
出頭要求書には、呼び出し日時、出頭場所(労働基準監督署)、持参すべき書類などが記載されています。
まずはこれらの情報をしっかりと確認しましょう。
特に重要なのは、持参書類です。
賃金台帳、出勤簿、労働条件通知書、就業規則など、用意する持参書類から、労働基準監督署が何を確認したいのかを読み取ることができます。
まずは速やかに社内の関係部署(経営陣、人事、経理など)に情報を共有し、通知書に記載された書類を集めましょう。
もし、不足している書類や不備がある書類があれば、労働基準監督署にその旨を伝え、いつまでに用意できるのか説明することが大切です。
同時に、関連する事実関係を調査します。
たとえば、特定の従業員からの申告が疑われる場合は、その従業員の労働時間や賃金支払い状況を詳しく確認しておく必要があります。
さらに、労働基準監督官の質問にどのように答えるかを事前に検討しておくことも大切です。
あいまいな回答や、虚偽の説明は、さらなる問題を引き起こす可能性があります。
事実に基づき、誠実かつ明確に回答する姿勢が求められます。
出頭要請を無視すると強制捜査に発展する?
もし、社内での対応がむずかしいようであれば、専門家に相談しましょう。
労働基準監督署の調査は、専門的な知識が要求される場合があります。
不安な場合は、弁護士や社会保険労務士といった労働法務の専門家へ相談することをおすすめします。
そして、一番やってはいけないことは、出頭要求書を無視することです。
労働基準監督署は、労働基準法に基づき、企業に報告や出頭を命じる権限を持っています。
出頭要求書を無視することは、この規定に違反することになります。
何より、出頭要求を無視すると、労働基準監督署に「この会社は何か隠しているのでは?」と疑念を抱かせることになります。
より厳しい対応、たとえば強制力のある臨検監督に移行する可能性が高まります。
強制捜査では、労働基準監督官が裁判所の交付した令状を持って、強制的に事業場に立ち入り、調査を行います。
強制捜査にまで発展してしまうと、企業の社会的信用は大きく損なわれ、事業活動にも深刻な影響が出る可能性があります。
労働基準監督署からの出頭要求は、会社の経営者や担当者にとってはプレッシャーのかかるものですが、「厄介な問題」ととらえるのではなく、企業の労働環境やコンプライアンス体制を見直すよい機会と考え、真摯に向き合うことが大切です。
※本記事の記載内容は、2025年11月現在の法令・情報等に基づいています。